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【永久保存版】マーケティング思考の教科書 ー明日から実践できる10の法則

こんにちは、西村マサヤです。

今年はマーケティングに関する登壇や執筆、取材の機会も多くいただき、改めて「良いマーケターになるにはどうすべきか」という問いを考え続けた1年でした。そこで今回は、僕なりに思う「マーケティング思考を身につける方法」すなわち「マーケティング思考の教科書」を10のポイントにまとめてお伝えしたいと思います。


それでは参りましょう!



1章 「特定ブランドの事例」を徹底的に研究する

これは学生時代・そしてマーケティングをはじめた当初の自分に一番言い聞かせたい教訓です...。

学生時代の私は、Red Bull Japanでのインターンや、自分で行っていたイベント運営を通じ「マーケティング」の魅力にのめり込んでいたため、ずっと図書館に籠もってマーケティングの書籍を読み漁っていました。

難解な理論書はよくわからないので具体的な事例が豊富な本をメインに読んでいたのですが、ここに落とし穴がありました。いわゆる書籍における「事例」というのは2種類あることに当時は気づいていなかったのです。

1つは「特定テーマにおけるいろんな事例」。いろんな企業や商品のマーケティング施策が複数紹介されているものです。一般的な書籍で多いのはこのケースだと思います。

一方で、本当に血肉になるのはもう1つのケース。それは「特定ブランドの成長・失敗事例」。これこそ、マーケティングや戦略を理解するのに最も優れた事例だと僕は思います。

マーケティングというのは特性上、一般消費者から見えやすいもの(例 : 広告、キャンペーン等)が多いため、どうしても「HOW思考」になりがちです。「誰に・どんな価値を届けるのか」といったマーケティングのコアが決まらないままに、「◯◯とコラボしよう!」「泣ける動画を作ろう!」といった「HOW(施策)」ばかりが議題に上がってしまう、そんな会議の経験はないでしょうか?

「いろんな事例」が集まっている書籍は、この傾向に拍車をかけてしまうので要注意です。「この施策は◯◯という本でも紹介されていたからうまくいくはず」という考え方は必ずしもダメとは言いませんが、マーケティング施策における最も大事なポイントは、「施策の目的が明確であること」です。


「特定ブランドの事例」に特化した書籍は、その時々で背負っているビジネス目標や解決すべき課題が時系列で理解しやすいため、自身のマーケティングにおいても「この"状況"は◯◯社のあのケースに近い」といった風に、より効果的に応用できるケースが多いと実感しています。

別の角度から補足すると、『ストーリーとしての競争戦略』という本のタイトルに代表される通り、「戦略」とは常に「ストーリー」であるべき、というのが僕の考えです。マーケティング戦略のインプットにおいても、できるだけストーリーとして体で覚えたほうが再現性が高いと考えているため、いろんな事例を一気に学ぶよりも、特定ブランドの事例を徹底的に研究したほうが効果が高いと思います。

書籍でいうと、このあたりの本は「特定ブランドの事例」を研究する上で最適だと思います。


「4冊も読む時間がない」という方はこちらのnoteを読んで頂くのもおすすめです。



なお、最近僕がウォッチしている特定ブランドは「Mr.CHEESECAKE」と「THIRD石垣島」です。

僕もSNSドリブンでマーケティング戦略を組み立てるケースが多いので、この2ブランドはめちゃくちゃ勉強になります。(THIRD石垣島には実際に宿泊もしました)


2章 「言語化の鬼」になる

マーケターとしてスキルアップする過程で、一番脱落者が多いのがこの「言語化の鬼」になれるかどうか、だと思います。

「自分の感情を言葉にするだけでしょ?簡単じゃん」と思うかもしれませんが、それは大きな間違いです。

マーケターに求められる「言語化」とは、「喜怒哀楽」を言葉にすることだけではありません。大事なのは「無意識の意思決定」を言葉にすることです。

例えば、これらの質問に瞬時に答えることはできますか?


・あなたが身につけているすべての衣類(下着からコートまで)を購入した理由は何ですか?

・あなたが今の住居を選んだ理由は何ですか?

・あなたが今週購入した商品をその店舗やネットショップから購入した理由は何ですか?

・あなたが直近「高すぎる」と購入を見送った商品はいくらだったら購入していましたか?


このように、マーケターは常に自分の「無意識の意思決定」を言語化し続けることで、消費者の「無意識の意思決定」を自分たちのビジネスゴールと紐付けていく必要があります。

はっきり言って、しんどいです(笑)

僕もたまに嫌になりますが、それでも常に「自分はなぜこの商品が選択肢に入っているのか」「なぜあの商品ではなく、この商品を買ったのか」等、「言語化の鬼」となり、日々格闘しています。

逆に「物買うだけで、いちいちいろんなこと考えたくない」という方は、マーケターは向いていないので、別の職種についたほうが良いと思われます。


3章 町のあらゆるモノに対し、「Why?」と問い続ける

2章で紹介した「言語化の鬼」は自分の感情の可視化がテーマでしたが、今回のテーマは自分ではなく「町のあらゆるモノ」に対する「ロジックの可視化」についてです。

よくマーケティングに関する書籍では、「電車広告を見たら「誰に、何を伝えたいのか」を言語化してみよう」といった訓練が紹介されています。これは疑いもなく良い訓練だとは思いますが、僕個人としてはこれだけではインプット量が全然足りないと思っています。


そもそも「広告」とは、マーケティングの4P(Product/Price/Place/Promotion)のうちの1つ「Promotion」でしかありません。「電車広告の言語化」ではPromotionの訓練にしか過ぎないため、「良い広告プランナー」にはなれるかもしれませんが、「良いマーケター」になるには不十分です。つまり他の3Pについても、常に言語化する習慣が必要ということです。

「Product」や「Price」の言語化は想像に容易いと思います。「なぜこのような形状なのか」「なぜこの価格帯なのか」と常に自問し続けることです。

最近僕がハマっているのは「Place」の言語化。「Place」は「家賃」と「露出」がトレードオフなので、最も意思決定が難しい領域だと感じています。先日読んだとある本によると、雑居ビルの1Fと2Fで家賃は約3倍変わる一方で、認知率は10倍の開きがあったそうです。つまり家賃が3倍高くても、1Fに店を構えるべきだという主張がなされていました。3倍・10倍という数字は著者の独自調査なのでどこまで信用するかという問題はありますが、肌感としては大きな違和感はありませんでした。

そう考えると、例えば「マクドナルド」や「吉野家」といった超ビッグチェーン店が建物の2Fに入っている例はあまり見たことがなく、「認知を最優先しているブランドの多くは建物の1Fに店舗を構えている」という仮説を持って、日々ウォッチすることができます。逆に、2F以上に出店しているブランドは「既存の強いファンがいるので新たな認知が不要なのかもしれない」といった推定や「そもそもマーケティングを重視していないので競合にチャンスがあるかもしれない」といった機会の発見など、いろんなことが考えられえるようになります。

一例として「Place」を挙げましたが、「Product」「Price」そして「Promotion」と、町の中にはマーケティングのケーススタディが溢れています。僕が常に意識しているのは「物事には必ず理由がある」ということ。どんなユニークなマーケティング事例も、書籍化されるのを待っていては他のマーケターに勝つことはできません。すでに世の中にある事象から自分で深ぼること、具体的には「この意思決定に至るまでに、どんな会議が行われていたのか」を想像することがおすすめです。ぜひトライしてみてください。


僕がTwitterで発信しているものをいくつか抜粋しておきます。


4章 「ストレス」や「不満」はすべてメモする

先日発売された元P&G森岡さんの書籍『誰もが人を動かせる! あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』にて、リーダーにはある種の「怒り」を持つことが大事であると書かれていました。

「何かを変えたい」「世の中をもっと良くしたい」という強い原動力は、綺麗事というよりも、「怒り」のような強いパワーが重要であるという趣旨でした。

これは「良いマーケターの条件」でも、同じことが言えると思いました。


「別にどの商品でも良い」「今使ってるもので何の不満もない」

こういう人は、新たな「ニーズの発見」や「コンセプトメイキング」をするのは難しいと思います。

ちなみにですが、僕は会社の同僚に「マサヤはいつも怒っている」とよく言われます(笑) 自分でも自覚はありますが、常に「もっとこうあるべき」「なんでこんなおかしなことがまかり通ってるんだ」と許せないことだらけなのです。それは日々手にするプロダクトでも同じで、「もっとこうなれば便利なのに」「なんでこういうコンセプトのものがないんだろう」とストレスや不満を感じてばかりです。

具体的な例をあげます。

僕は自身でオンラインサロン「マーケ放送室」を運営しており、現在120人の有料会員がいます。マーケ放送室のコンセプトは、まさに僕自身が他のサロンで感じた課題感を起点としたものでした。

いわゆるマーケティング関連のオンラインサロンは、ベテランマーケターが主催されていることもあり、非常に値段が高いのです。1万円弱くらいのものがほとんどでした。これでは「新たにマーケティングを学びたい」という初心者には到底参加できません

また、アクティビティの頻度にも課題を感じていました。そういったマーケティングのサロンは値段に見合った価値を感じていただくため、豪華なゲストを呼んではいるのですが、イベントの開催が月に1回のみなのです。これでは毎月1万円払ってイベントに参加しているに過ぎず、「コミュニティ」とは呼べないと感じました。

そこで僕のマーケ放送室では「低価格×高密度」のポジショニングを狙いました。おそらくマーケティング関連のサロンでは唯一ではないかと思います。もちろんイベントを毎日のように開催することは不可能なので、Slack上で頻繁なやりとり・発信を行っています。これにより僕がTwitterやnoteでは書きづらい具体的な仕事の事例や世の中に対して思うことをシェアすることで、少しでも僕の思考回路を盗んでいただけるよう心がけています


他にも、最近僕がすごく「不満」を感じていることがあります。

それは「特別なギフトになりえるビール」がないことです。

僕はビールが大好きなので、周りの先輩・友人にもビール好きが多く、誕生日やお祝いに「高級ビール」を贈りたいと思うものの、「これ!」というものがないのです。近いポジションにお歳暮ビールとして大手各社が箱詰めのビールを出していますが、そういったものではなく、「1本の高級ビール」がほしいのです。生産過程や生産者のこだわりといったストーリーが語れる、「特別なワイン」のようなビールを探しているのですが、現状見つけられていません。

もちろんワインとは原材料や生産方法が異なるため、できること・できないことはあるとは思いますが、1本5000円くらいで、もらった側も贈った側も特別感を感じられるような、そんなビールがないのです。今すぐにでも僕が作りたいのですが、ちょっと他にやることがたくさんあるので、まだアイデアとして温めている状態です。(すでにそういうコンセプトのものがあればぜひ教えて下さい...!)


このように、自分を含めた「誰かのストレスや不満」は「価値の源泉」である可能性が非常に高いです。どんな「小さなストレス」でも、常にメモすることをおすすめします



5章 「自分が愛せないもの」をマーケティングしない

「マーケティング」という領域はまだまだ多くの方に勘違いされているように思います。特に一番の誤解は「価値がないものを、まるで価値があるかのように見せかけて売りつけるのがマーケティング」というものです。

中にはそういったマーケターもいるのかもしれませんが、少なくとも私が尊敬しているマーケターの方々は、そうではありません。「こんなにも素晴らしいブランドなのに、価値が十分に伝わっていない」という課題を解決するために、自身のマーケティングノウハウを全力で投下している方ばかりです。

一方で、このテーマには構造的な難しさもあります。マーケターは「事業会社」「支援会社」のキャリアに二分されると思いますが、どちらの立場だとしても、「自分が愛するものをマーケティングできる機会」というのは、どうやらそう多くはないようです。

「事業会社」の場合、自社のブランドのマーケティングを担当することになると思います。1ブランドの会社ならともかく、多くの会社は複数のブランドを展開していることでしょう。そのすべてが自分が愛せるものという確率はそう多くはないはずです。ここに「人事異動」特に日系の場合は「ジョブローテ」が入ってきます。結果的に、事業会社のマーケターが「これをもっと広めたい!」と強く思えるブランドのマーケティングに関われる機会は50%程度ではないでしょうか。

「支援会社」の場合、その割合はさらに下がると思います。なぜなら支援会社の場合、「ブランドの支援 = 売上であり経営」なので、いちマーケターの意見が支援するブランドの選定に反映される可能性は高いとは言えません。(会社の看板的存在であるトップマーケターなら扱うブランド・企業を自由に選べる立場だとは思いますが...)

僕は自分のサロンで様々な立場のマーケターとお話ししていますが、それらの情報をまとめるとこのような所感になります。


前置きが長くなりました。

僕はマーケティングで一番大切なことは「ブランドへの愛」だと考えています。

「愛」があるからこそ、「多くの人に広めたい」と思える、その原動力こそがマーケティングのコアになると思うからです。

一方で多くのマーケターは、人事異動で決められたブランドを「仕事だから」マーケティングしているように思います。これでは、デジマやPR等、手法論を実践で学ぶことはできたとしても、ブランドのコアバリューを見出し、その価値を最大化させる「本当のマーケティング」の実践は詰めないのではないでしょうか。

幸い、僕が本業としているマーケティングパートナー事業では、僕自身がマーケターでありながら事業リーダーも兼任しているため、「これはもっと多くの人に届くべきだ」と僕が腹落ちできたものしかマーケティングしていません。(まぁ実際には「多くの人に届けるべき価値の源泉」が見いだせなかった場合は良い戦略が作れないため、結果的に受注にならないという因果関係のほうが正しいのですが...)


このテーマは自分の意識だけではどうにもできないことですが、「自分が愛せないもの」をマーケティングしている方は、ぜひ一度じっくり考えてみてもいいかもしれません。


ちなみに僕はこういった課題感から、サロンのキャリア相談ではいつも「自分が本当に愛せる1プロダクトの会社でマーケティング経験を積むのがいいのでは?」と勧めています。


このテーマの最後にふさわしい、スティーブ・ジョブズの名言を紹介します。

どんなマーケティングでも、駄作をヒットさせることはできない


「マーケターのキャリア観」を体系的にキャッチアップしたい方は、山口さんの『マーケティングの仕事と年収のリアル』という本がおすすめです。事業会社と支援会社のメリデメもまとまっていてすごく参考になります。


マーケティングではなく「ライティング」の観点になりますが、「対象物を愛す」という過程をより深く知りたい方は、『読みたいことを、書けばいい。』を読むのをおすすめします。


最後に僕の関連ツイートをご紹介。


6章 「自分が興味を持てないもの」ほど積極的に分析する

先程は「自分が愛せないものをマーケティングしてはいけない!」と言いましたが、今度は違うアプローチを紹介します。

世の中のあらゆる商品・ブランドを「自分が愛せる、興味があるもの」「興味がないもの」に分けた場合、9割以上は後者でしょう。自分が愛せるものの言語化・価値の深掘りの方法は2章でお伝えしましたが、ボリューム的には圧倒的に「興味がないもの」のほうが多いわけです。なので、「マーケティング思考」を強化するには、「自分は興味がないが、他人は興味があるもの」を徹底的に分析することが重要です。


例えば僕の場合、ゴルフが大嫌いです。

社会人になってすぐ、当時の上司に連れられ初めてゴルフをしたのですが、1ミリも楽しいと思えませんでした。その理由はすぐに言語化できました。まず「ルールが多い」。これはゲームのルールというより、服装についてです。めんどくさがりの僕には全く合っていません...。あと「必要な道具が多い」。物をあまり所有したくない上に、趣味は安価であればあるほど良いという価値観なので、全く折り合いません。逆に僕が好きな「サーフィン」はこれらと真逆です。(海パンとサーフボードさえあればOK)。またせっかくスポーツをする時間をとるなら、しっかりカラダを動かし、カロリーを消費したい、と僕は思うのですが、ゴルフの運動量は微々たるものです。散歩と同じ。何より極めつけは、「スコア」や「順位」で常に競争にさらされること。 毎日市場で競争にさらされているのに、休日まで勝負したくありません。その点サーフィンは、各々が自由に波に乗って楽しむものなので最高です。

...といった具合に、自分が「愛せない理由」を言語化することは簡単なのですが、大事なのは「なぜ多くの人はゴルフが好きなのか」を分析・言語化することです。人によってゴルフが好きな理由はさまざまなので、今回は僕と同世代の「20代社会人」に絞って分析してみましょう。(ちなみにゴルフを始めた、とかゴルフが好きという同世代がいたら、いつも根掘り葉掘り質問をしています)

大学時代の友人や会社の同僚を中心に、同世代でゴルフをはじめた数十人のヒアリングより、「ゴルフを始める・趣味にする」という人の理由は大きく3つに分類できました。

①仕事・接待で始めた

②会社の先輩とコミュニケーションとれる機会なので始めた

③良い運動になるから始めた

こう整理してみると、ゴルフを始める人達が本当に解決したいジョブは、「顧客や先輩とのリレーション強化」であり、「筋トレやランニングほど負荷の高いことはしたくないが、それなりにカロリーを消費すること」なのです。(参考 : 『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』)

逆に僕の場合は①〜③いずれもニーズがない or 代替策があるため、ゴルフに関心がないということが改めて言語化できました。

さらに深ぼると、多くの方は「ゴルフというスポーツ」を純粋に愛しているのではなく、上記①〜③の理由で取り組んでいるため、それらに代替するものがあればゴルフのマーケットを奪うことが出来るとも考えられます。


たとえば②の「会社の先輩とコミュニケーションとれる機会」

これまでは飲み会かゴルフくらいしか選択肢がありませんでしたが、最近は「サウナ」や「キャンプ」もこのジョブを解決する手段として市民権を得つつあるように感じます。

特にサウナは、ゴルフと比べて「近場で楽しめる(長時間移動する必要がない)」「事前準備や道具の購入が不要」といった点で勝っているため、ゴルフマーケットのリプレイスは一定程度起こっているのではないかと推察されます。一方で、「大自然の中で先輩とゆったり時間を過ごせる」といった価値はサウナでは作り得ないので、このあたりは棲み分けがされていくだろうとも思います。このように、自分が一切興味を持てないものでも、「他の人がそれを好んでいる理由」を分析することで、いろいろと仮説を立てることができるのです

繰り返しになりますが、世の中の9割は「自分が興味をもてないもの」です。それらを無視するのではなく、分析対象として学びに変える。この意識の差が、「マーケティング思考」の基礎力を高めてくれるのではないでしょうか。



7章 「情緒的価値」と「RTB(Reason To Believe)」を捉える

マーケティングでは、プロダクトの価値を「機能的価値」「情緒的価値」に分けて整理します。

「機能的価値」とは文字通り機能的なもの。つまり「便利」「使いやすい」「安い」「おいしい」といった「比較的わかりやすい・言語化しやすい価値」です。

一方の「情緒的価値」はもっと「心情的」なものになるため、言語化が難しいケースが多いです。「なんとなくゴージャスな気分になれる」「クールな印象を与えられる」「自分らしくいられる感覚になれる」といったもの。

代表的なのはなんと言ってもAppleでしょう。Appleのコンセプト「Think different」の通り、「普通の人とは違った感性をもった人たち」がApple製品のコアターゲットであり、そういった人々に「自分は特別である」と実感させるのがApple製品のブランド価値です。

多くの方は、「機能的価値」には注目しますが、「情緒的価値」の言語化をおろそかにしています。もちろんどんなプロダクトも「機能的価値」あってのものですし、「不便で使いづらい低品質なもの」をどれだけブランディングしたところで良いプロダクトにはなりません。

大切なことは機能面・情緒面、全体を通してどのようなUX・ブランド価値を消費者に提供するのかということであり、その鍵を握るのは「情緒的価値」なのです。


また「情緒的価値」を語る上で欠かせないのが、「RTB(Reason To Believe)」と呼ばれる概念です。これは「信じるに足る理由」とも言われますが、要するに「マーケティングメッセージの根拠」となるファクトです。

これまで僕が携わったマーケティングプロジェクトの中でも「情緒的価値を高めよう!」という議題はよくあがりました。一方で、「かっこよくなれる感覚」「最先端を実感できる感覚」など、「それっぽい情緒的価値」のキーワードは出るものの、その多くはプロダクト側に「信じるに足る理由がない」ものばかりでした。これでは、ただの「都合のいいキーワード」でしかありません。

だからこそ、5章の「ブランド・プロダクトを愛する」という作業が必要なのです。

プロダクトを愛する気持ちがあるから、徹底的なリサーチができます。「どんな思いで生まれたプロダクトなのか」「どんな人が使っているのか」「ヘビーユーザーにユニークな特徴はないのか」等、あらゆる角度から調べることで、「情緒的価値の根拠となるファクト」すなわち「RTB(Reason To  Believe)」が見つかることがあります。(ここは「見つけることができます」と書きたかったのですが、僕の経験上どれだけ調べてもRTBとして納得できるファクトを見つけられなかったことも0ではないので、あくまで可能性として書きます。言い換えると、どれだけ深ぼりしても「魅力がないプロダクト」というのは存在すると思います)


ヒット商品の「情緒的価値」を言語化すること、また自身の商品から「情緒的価値」そして「RTB」を発掘することは簡単な作業ではありませんが、何事も訓練です。ぜひトライしてみてください。


RTBの詳細については拙書ならぬ拙note『意外と知られていないマーケティングのRTB(Reason To Believe)について解説します』をご覧ください。

RTBはなぜかあまり日本のマーケティングの本には記載がなく、僕が初めて知ったのもこの『マーケティングゲーム』という翻訳本でした。もう絶版なので価格が高騰気味ですが、より深く学びたい人にはおすすめの一冊です。


8章 目を背けたい真実と向き合う

あぁ... この章は書きたくない...。

なんでわざわざ自分が失敗した話を書かなくちゃならないんだ...。 



・・・気を取り直して、書きます。


タイトルのとおりですが、マーケティング、ひいては事業の本質的課題はたいてい「自分が目を背けたいもの」です。偉大な成功やV字回復の事例を読んだ際に、「なんでそんな簡単なことをこれまで誰もやっていなかったの?」と思った経験はありませんか?

そう、ビジネスの重要なイシュー(=解決すべき課題)は、「高度な分析によって弾き出された"誰も考えもしなかったような問題"」ではなく、「誰もがなんとなくわかっていたけれど"目を背けていた問題"」であることが大半なのです。(参考 : 『良い戦略、悪い戦略』)


それでは今回も私自身の例をあげましょう。(やだなーー。)

ある女性向けブランドのマーケティングを担当していた時のことです。そのブランドは扱うテーマがまだ多くの女性にとって馴染みのないものだったので、オーガニックにファンを増やすのが難しい状況にありました。なので、初期はインセンティブに予算を多く配分し、キャンペーンドリブンでファンを獲得していきました。この戦略は功を奏し、インセンティブの予算額以上の効果を得ることが出来ました。

次にやるべきは、インセンティブがない状態でもファンが自然に増えていくような仕組みを作ることでした。

しかし、ちょうどそのタイミングでキャンペーン企画を別の人に引き継ぎ、僕は新しいブランドの立ち上げをメインで担当することになったのです。といっても完全に離れたわけではなく、重要な意思決定やリードは引き続き僕が担当し、キャンペーンの企画やPDCAは別の人に担ってもらう、という役割分担でした。つまり、僕には引き続き「キャンペーンの設計をUpdateする」というミッションがあったにもかかわらず、部分的に別の人が担当するようになったことに甘え、その改善に手をつけられていませんでした

僕が本来やるべきだったのは、「①インセンティブに依存しないファン獲得の戦略を考え、別の人に実行してもらう」「②インセンティブに依存しないファン獲得の方法を別の人に考えてもらうよう依頼する」かどちらかをすべきだったのですが、曖昧な役割分担に逃げ、その問題から目を背けてしまっていたのです。引き続きインセンティブによるファン獲得は順調に推移していたことも、要因のひとつでした。

「早く手をつけなければ....」と心のどこかではわかっていたものの、その問題に真正面から向き合わず、変わらずインセンティブ予算を消費し続けてしまっていたのです。

そんなある日の会議で、当時の上司から「マサヤ、これインセンティブなしでファン獲得する気あるの?」と言われ、そこでやっと目が覚めました。


・・・と、こうして書き起こしてしまうとなんともレベルの低い情けない話ではあるのですが... みなさんも似たような経験はないでしょうか?


重要な問題とは、「容易に発見できない複雑な課題」ではなく、「誰もがうっすら認識しているけど目を背けたい真実」なのです。

逆に言えば素晴らしいリーダーとは、この「目を背けていた真実」と向き合い、着実に改善していける人を指します。


マーケターは「消費者の一番の代弁者」であるべきです。

「会社都合の利害関係」「偉い人のこだわり」「人としての弱さ」こうした問題は、消費者にとっては関係ありません。

「消費者にとって最も望ましいもの」をきちんと理解し、それを確実に届ける。このシンプルな工程にマーケターは責任を持つべきです。



9章 「ペルソナ」ではなく、「届けたい人」を明確にする

半年前にバズったこのツイートの内容に尽きるのですが、本当に大事なことなので改めて。


僕はこれまで様々なプロダクトに携わってきましたが、ペルソナのほとんどが「プロダクトやマーケティングにとって都合の良いプロフィールが並べられた気色悪いもの」でした。その証拠に、先のツイートにも書きましたが、「高所得」「好奇心旺盛」「情報収集に熱心」といった、「新しいものを選んでくれそう」な要素が並べられているだけです。

これでは「このプロダクトのペルソナは、”アーリーアダプター”です」と言ってるのと同じ。


僕がおすすめしているのは、実在する人のインタビューを通じて、ターゲット理解を深めていく方法です。ペルソナの良い点は、実在する人へのインタビューをせずとも、メンバー間で共通理解を得られる点だと思いますが、「実在しない」ゆえに解像度が上がりきらない弱点があると感じています。100人を超えるようなマーケティングチームだと難しいかもしれませんが、数人〜十数人くらいの規模なら、実在する人にみんなで話を聞くべきです。そうすれば認識の齟齬は限りなく0になるはずです。

もちろん会議でペルソナを作っていく方法よりはコストがかかりますが、「どこにも実在しない都合の良い人」をターゲットにし、誰にも愛されないプロダクトを作るよりは100倍マシではないでしょうか。

特におすすめは自社内でのインタビューです。さすがに数十人〜数百人程度社員がいれば、そのプロダクトのアーリーアダプターになりうる人は絶対にいるはずです。逆にいないのであれば、ターゲットにしている市場が小さすぎるでしょう。インタビュー対象者を手軽に見つけられる点、またプロジェクトメンバー間で共通理解を得やすいといった点でも、自社内の人にインタビューを勧めるのが最も効率の良い方法だと思います。

僕の場合はDeNAという数千人規模の会社に属しているため、定性インタビューはこれだけで済ませることも多いです。(念の為、全くデモグラの異なる地元の友人にも数人インタビューし、共通点と差異を確認したりもします)


最終章 「Twitter」をやれ

僕は「マーケティング」とは「人の心を動かす」ことに尽きると考えています。

なので「良いマーケター」になりたければ、「人の心を動かす」経験や実績をたくさん積むべきですし、「マーケティングスキル」を身に着けたければ、「人の心を動かす」ノウハウやエッセンスを学ぶべきです。

そんな「良質な経験」「無料で!」「好きなだけ!」「業務時間外でも!」実践できるのが「Twitter」なのです。もちろんInstagramでもTikTokでもYouTubeでも良いんですが、Twitterは最もコンテンツがシンプル(文字と画像のみ)なので、PDCAが回しやすい。結果的に「コピーライティング」の筋肉もついていく点からも、まずはTwitterにトライしたほうが良いと思います。


かつて田端さんが「フォロワー1000人行かない奴は終わっている」と発言し、話題になりましたが、少なくともマーケター(あとライティングやメディアに関わる人)はこの発言を心に刻んだほうが良いと思います。


「"商品を売ること"と"フォロワーを増やすこと"は別」「"Twitterでバズること"と"いい文章を書くスキル"は違う」などなど、いくらでも反対意見はあると思います。僕も散々言われました。ただ、僕はそんな人たちに、たった一つのことを問いたい。


「あなたは140字で人の心を動かせるのか?」 と。


これにYESと答えられるかどうかはマーケターとしてとても重要なポイントではないでしょうか。


少し話がそれますが、僕はいつも「マーケティングメッセージ」を考える際に、「それは会話として成立しているか」という観点を強く意識しています。多くのマーケティングメッセージ、特に広告の訴求内容は、タレントの横に「それっぽい言葉」が添えてあるだけのものばかりです。


例を挙げましょう。

FUJIFILMさんには大変申し訳ありませんが、僕の中でこれは「最もダメな例」として強く記憶されました。

みなさん、ちょっと考えてみてほしいのですが、普段生活していて「健康って楽しいな〜!!!」と思ったり、人に言ったりしたことありますか?ないですよね? 

つまり、これはもうコミュニケーションとして不自然なのです。


横にあるリードコピーはこう書いています。

食べること。笑うこと。走ること。

歌うこと。旅すること。ときめくこと。

健康でいれば、私たちには、

まだまだ楽しめることがたくさんある。

こちらのコピーはまだ自然です。

ふとした瞬間に「健康でいて良かった...!」と思う経験はたしかにあります。特に「FUJIFILMサプリメント」がターゲットにしている50代の消費者(※プレスリリースより)は、そう感じる機会も増えてきた人たちでしょう。ですが、それって「健康は、楽しい。」ってことなんでしょうか。「健康(だからこそ、いろんなことができるから、人生が)楽しい。」という意味だとしても、さすがにコピーとして無理があると僕は感じます。

僕が同じ訴求をメッセージに落とし込むとしたら、先のリードコピーにあるような「幸せな瞬間(美味しい食事、人と笑う瞬間、旅先で見た絶景)」をクリエイティブとして見せながら、「健康だからこそ」とか、もっと直接的に「健康を気にしていなかったら、この瞬間はなかった」というメインコピーにします。(コピーの良し悪しは置いておいて...)要するに「健康あってこそ、幸せな50代が送れる」というメッセージをもっとわかりやすく伝えるように変える、ということです。

なぜなら先程も書いたように、50代の間で「健康あってこその毎日だ」「健康が一番大事」という会話は実際になされているので、そこに刺しにいくことは自然なコミュニケーションと考えられるからです。だけど、「健康は、楽しい。」これは会話としてやはりおかしい


... というのはあくまで僕の仮説に過ぎませんが(FUJIFILMさんすみませんでした)、こういった仮説検証も「Twitter」があれば無料で出来るのです

50代向けにいくつかメッセージをツイートしてみる。それらのエンゲージメントを比較分析すれば、どの訴求軸が一番良さそうかが簡単にわかります。また「すでにツイートとして存在するか」を調べることで、会話として成立しているかどうかの検証をすることも可能です。どれだけ調べても、「健康が楽しい」なんてツイートは存在しないのです。

40代の例になってしまいますが、僕の知り合いのまりかさんのツイートを紹介します。

このツイートは「40代の方のインサイト」を見事に言語化し、結果として約5000人もの人が反応するツイートとなりました。このような仮説検証を日々行っていれば、「50代のインサイト」という角度からより良いメッセージを作ることも出来たかもしれません。


さらに「打席数」という観点でも、Twitterをすることは非常に重要です。


これを読んでいるマーケターの皆さん。

あなたは今年1年間、何回世の中にアクションしましたか?


広告やキャンペーン、コラボ等の販促施策の機会は実はそう多くはなく、年に数回〜10回程度の方が多いのではないでしょうか。実際、僕もDeNAでの打席数だけでいうと、今年は10回程度でした。ほとんどの時間はそのための準備期間なのです。

一方個人では、毎日1万人以上の方に向けていろんなメッセージを発信しています。そしてそのすべての反応が「RT」「fav」「impと」して数字で返ってくるだけでなく、リプライや引用RTで定性的な反応までもらえます。

つまり、「世の中にアクションする回数」と「そこから得られるフィードバック」の数が尋常ではないのです。


ひねくれた方は、「1万人くらいで"世の中"と大層なことを言うな」と思うかもしれません。ですが、本当にそうでしょうか?

たとえば、僕が今年一番バズったイチローの名言ツイート。

こちらは3.2万RT15.5万fav、そして895万impを達成しています。

スクリーンショット 2020-12-31 16.57.06

これはどれくらいの規模か。人気ゴールデン番組の平均視聴者数は約700〜1000万前後です。もちろんimpと視聴数を完全に比較することはできませんが、それくらいの規模の人がこのツイートを見ているわけです。

こういった経験を肌感覚として持てているかどうかで、例えば野球選手を起用した広告を作る際に、ただ「プレーしている映像を使う」のか、その選手の「プロフェッショナリズムに着目したクリエイティブにする」のか、アイデアの幅が変わってくるのです。


他にもフォロワーが増えることで、自身が担当しているブランドの成長に一躍変えることはもちろん、いろんな人とのつながりも増えるので、プロジェクト推進に役立つことは間違いないでしょう。


マーケターにとってTwitterとは、「"百利"あって"一害"なし」なのです。


広告費0で、跳ねれば約900万人にリーチできうるメディアを作るチャンスに乗らないなんて選択肢はあるのでしょうか?


さぁ今すぐ、Twitterをやりましょう。



おわりに

「どんな職種でも、"マーケティング思考"が大事」とよく言われます。

ですが、「どうやって"マーケティング思考"を身につけるればよいのか」、そこに対する解がなく、悩んでいる人が多いということにマーケ放送室を運営していて気がつきました。

今回取り上げた10の法則は、マーケティング業務を担当していない人でも実践できることばかりです。

あとはやるか、やらないか。


このnoteの内容が少しでもあなたの役に立ち、より良い2021年が訪れることを心より願っています。


それではみなさん、良いお年を!


西村マサヤ    2020.12.31

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西村マサヤ
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