P&Gマフィアのノウハウ、「コア&モア戦略」で8割までは理解できる説(P&Gマーケティング)
先日こんなツイートを拝見しました。
気になったのが「⑧PMFの確信が高まってからマーケティングする」という項目。
僕の理解では、「PMF(プロダクト・マーケット・フィット)」こそマーケティングそのものでは?と思ったものの、やはりまだまだ一般的には「マーケティング」といえば、集客、広告、キャンペーン、、、そういった印象が強いのかな、と思いました。
(※おそらく田所さんがこの項目で言いたかったのは、後半の「特に、Paid メディアのマーケは、PMFを確信してから実行する」の部分で、ユーザーやマーケットに刺さってないのに安易に広告出稿量を増やしてユーザーを獲得するな、というメッセージが真意だと予想しています。これは僕も完全に同意です)
思い返せば、僕も頻繁に「マーケティングってなんですか?」と聞かれることが多く、そのたびに「P&Gマフィア」の方々の事例を中心にお話していたのですが、なかなか簡単に説明するのが難しい...。というのもみなさん、(当然ですが)とられる手法やフレーム、そしてそもそも扱っているビジネスが全然違うからです。
そんな中、少しでも共通する戦略のエッセンスがないかと探していたところ、どうやら元P&Gで吉野家常務の伊東さんが提唱している「コア&モア戦略」こそが、彼らが得意としているマーケティングの本質なのでは、と思うようになりました。
そこでこのnoteでは、主に非マーケター、つまり「マーケティングがよくわからない」という方に向けて、「プロのマーケターってこんなすごいことをしているよ」という事例と考え方を紹介していきたいと思います。
事例としては、元P&Gの伊東さん(吉野家)、森岡さん(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)、西口さん(スマートニュース)の3名、そしてP&G以外の事例として横浜DeNAベイスターズの池田さんの計4ケースを取り上げたいと思います。
はじめに : マーケティングとは何か
冒頭に述べたとおり、一般的に「マーケティング」とは集客、広告、キャンペーンといった「お金で人を集めてくる」といった行為だと認識されているように思います。これはマーケティングの職についている身からすると大きな誤解なのですが、とはいえ「マーケティングってなんだ」という問いは難しい。
ビジネスプロフェッショナルたちは「マーケティングの定義」について、こう答えています。
Q. マーケティングとは何か?
・売れる仕組みを作ること(森岡毅)
・商売そのもの(足立光)
・属性の順位を転換して市場を創造する(音部大輔)
・魅力的な商品やサービスを開発し、顧客に継続的に購買、使用していただく活動(西口一希)
・Marketing is about values(スティーブ・ジョブズ)
んー、抽象度が高い...(笑)
ジョブズとかもはや「About Value(価値そのもの)」とか言っちゃってるし...。
マーケティングに関わる私からするとどれも超納得なのですが、これがどうもマーケターと非マーケターの分断につながっているように思います。
マーケターにとっての「マーケティング」とは、「価値創出」「商売」「売れる仕組み」といった「最上段の活動」と位置付けられている一方で、非マーケターにとっては「集客」「キャンペーン」「広告」といった「HOW」のひとつ、と捉えられているのではないでしょうか。
さすがに大先輩方のマーケティングの定義はちょっと抽象度が高すぎるので、僕の定義はもう少し具体性を上げ、「”正しく”対象マーケットを広げること」としています。(あれ、これも抽象度高い?)
さて、「マーケット」とは何か。これは簡単に言えば、「自分のビジネスが対象にする最大範囲」です。
「町の八百屋さん」のマーケットは「その地域に住む主婦の総人口」であり、「三ツ星レストラン」のマーケットは「世界中の食通の総人口」です。(※本当はこの総人口に対して、アクセスのしやすさや価格弾力性等の変数を掛けて精緻化していくのですが、まずはざっくりと「マーケットとはビジネスの最大ボリュームでありポテンシャル」くらいにイメージいただければと思います)
順調に成長しているビジネス、あるいは属する市場そのものが急成長している場合は別ですが、多くの場合、ビジネス成長には「対象マーケットの拡大」が不可欠です。
「特定のエリアだけでなく他エリアに広げる」あるいは「特定ターゲット属性だけでなく新たな属性も狙う」といった具合に、対象マーケットの拡大なくしてビジネスの成長は困難です。
では次に、「正しく」とは何か。これが超重要。
この「正しいマーケット拡大」こそがこのnoteで伝えたいこと、そしてP&Gマフィア達が息を吸うようにやってることなのです。
「正しくないマーケット拡大」から考えてみるとわかりやすいかもしれません。これは例えば、「ブランドと全然関連性のない人気IPとコラボし、コンバージョンに結びつかないユーザーにリーチすること」あるいは「中年男性をターゲットにしているブランドが、コンセプトそのままに女性向けに割引キャンペーンをすること」こういったものが挙げられると思います。どう考えてもワークするイメージがないですよね?でも、実は結構やっちゃいがち。
つまり「正しいマーケット拡大」とは、ブランドを支える「”コア”ファン」の離反を生まず、(むしろコアファンの顧客単価を上げながら)、「新しい客層(モア)」の獲得を継続的に行うこと。こう言い換えられます。
と言ってもわかりづらいと思うので、ここからは実際にP&Gマフィアの方々が手掛けた事例を元に、「コア&モア戦略」を紐解いていきましょう。
CASE 1 : 吉野家(伊東正明)
最近の吉野家は「ポケ盛」「小盛」「超特盛」等のキャンペーン、そして何より増収増益の業績向上など、良いニュースをよく耳にされていると思います。これらを手掛けているのが吉野家常務の伊東さんです。吉野家の事例は「コア&モア戦略」を理解するのに最も適しているので、まずはじめに紹介させてください。
吉野家を支えるコアファンとは、「手軽にがっつり、腹いっぱい食べたい若者〜中年の男性」です。つまり、私。(週1で食べます)
どんなビジネスでもそうですが、「コアファンはめちゃくちゃ大切。だけどコアファン以外に受け入れられないとビジネスが拡大しない」というジレンマがあります。事実、吉野家の場合は、店内で食べる顧客の男女比は8:2で圧倒的に男性に(のみ)支持されているブランドでした。これではビジネスが成長しません。そこで大事なのが、「コアファン」の売上は維持、むしろ単価向上を狙いながら、同時に男性以外の顧客もファンにしていく。まさに「コア&モア戦略」。
「では、女性や子供半額キャンペーンをします」
よくあるのがこういう施策。
これでも一時的に新しい顧客獲得には成功するかもしれませんが、残念ながらこういった施策は「割引による利益率低下」や「新規顧客優遇によるコアファンの不満・離脱」を招きます。つまり、ビジネスとして「良い施策」とは言い難い。また、そもそも前述の通り、「吉野家 = 男性向けのお店」というパーセプション(認識)が強いため、ちょっと割引キャンペーンをしたくらいで、新しい顧客層が足を運ぶとは考えづらいです。
では、吉野家は何をしたか。
まずはパーセプションを変えるため、「クッキング&コンフォート」、通称「黒い吉野家」と呼ばれる「カフェのような吉野家」をオープンさせています。
(画像はいずれも吉野家ホールディングス公式サイトより)
これ恵比寿にあるので僕も行ったことがあるのですが、もはや「吉野家というよりカフェ」で、コーヒーが飲めたり、コンセント付きの席があったりと、これまでの吉野家のイメージとは全く違います。恵比寿という場所柄もあり、僕が行った際も、女性客のほうが多かったです。こうして「女性もいける吉野家」というパーセプションを徐々に形成していっているのだと思います。
パーセプションだけでなく、実際のビヘイビア(行動)も変えるために、「小盛」メニューの販売も開始しています。「並盛」が食べきれないという女性向けに新商品も出すことで、「吉野家に女性が足を運ぶ理由」ができつつあるのではないでしょうか。
次に、子ども向け。
これは私の仮説ですが、多くの子どもにとって休日に食べたい食事は、牛丼よりもマクドナルドやピザなのではないでしょうか。ここに吉野家がブレイクスルーすべき壁がある。
これを打破する施策が「ポケ盛」。
(画像は吉野家キャンペーンサイトより)
「子どもが吉野家に行きたくなる仕掛け」を作ろうということでポケモン。至極まっとうですね。
こうした「モア施策」だけで終わらないのが、やはりP&Gマフィア。
既存のコアファンに向けては「超特盛」「ライザップ牛サラダ」「定食のご飯おかわり無料」といった施策を通じて、顧客単価・来店頻度を高めるアクションも打ってます。いやー、手堅い。
このように、コアファンの熱量・顧客単価を維持しつつ、新しい顧客も獲得することでビジネスを総合的に伸ばしていく。これが「コア&モア戦略」による「”正しい”マーケット拡大」です。
超ざっくりまとめるとこんなイメージです。
大切なのは「コア」の離反を生まず、むしろ「コア」の客単価も上げながら、確実に「モア」の客層も取り込んでいく。このアプローチの流れです。これが「コア&モア戦略」の真髄。
CASE 2 : ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(森岡毅)
USJのV字回復についてはもはや説明は不要かと思いますが、森岡さん入社時は年間700万人程度だった来場者数が、5年で約1400万人にまで倍増しています。
彼が残した功績は山程ありますが、一言で言えば「映画のテーマパークから脱却した」ことにあると思います。これこそ、「コア&モア戦略」なのです。
ご存じの通り、当時のUSJはハリウッドを基調とした「映画を楽しむテーマパーク」でした。そして、それを誰も疑っていませんでした。
僕自身、大学まで大阪に住んでいたので非常によくわかるのですが、「ユニバは映画のテーマパーク」「映画好きじゃないと行ってもおもんない」そういう認識を持っていました。しかし、当時のUSJのマーケターたちは、「映画のUSJ」こそが大事なブランドであり、こだわるべきポイントだと思っていたようです。
ここにメスを入れたのが森岡さん。
森岡さんいわく、「人がエンタメを楽しむときに「映画」を選択する確率はたったの1割。USJが映画にこだわることは、需要を1割に狭めていることと同様。これは関東の3割しかない小さな関西市場にいるUSJにとっては致命的である」と判断し、就任早々に「3段ロケット構想」を打ち立てます。
USJの場合は先程の吉野家と異なり、「そもそものコアの設定が間違っており、異常に狭すぎる」という課題があったため、「コアの維持」の優先度はそこまで高くなく、「モアをどれだけ増やせるか」にフォーカスされていたのではないかと僕は考えています。(といっても、元からあった映画関連のアトラクションがすべてなくなったわけではないですし、何といっても目玉の「ハリーポッター」も「映画コンテンツ」のひとつなので、結果としてコアの離脱は少なかったのでは?と想像されます)
というのも、とりあえず「新しいモアの顧客を獲得する」というのはそれほど難しいことではないのです。今、USJを知らない人、USJが刺さってない人に、片っ端からアプローチすれば多少は確実に増えるので。ですが大事なのは、ブランドイメージを守り、かつ既存のコアファンの離脱を最小限に抑えながら、新たなファン層へマーケットを拡大させること。
この両輪を回すことがとてつもなく難しく、そしてP&Gマフィアが得意としていることなのです。
森岡さんがまず選んだ「モア」はファミリー層。
森岡さんの分析の結果、当時のUSJはマーケットの人口構成比と競合他社の集客データと比較すると、あまりにもファミリー層の集客が弱いことがわかりました。これはいち消費者としてもすごく納得感があり、僕も小さい頃、家族でTDLもUSJもいったことありますが、圧倒的にTDLの方が楽しめたのです。というのも、当時のUSJは、ターミネーターやバックドラフトなど、映画の世界観の再現を優先していたので「暗いアトラクション」が多かった。これではファミリー層の足が離れるのも当然ですね。
そこで追加されたのが「ユニバーサル・ワンダーランド」。
(画像は日本経済新聞より)
小さな子ども連れ、ファミリー層の来場を増やすために、「子どもも楽しめるテーマパーク」という認識を形成できるエリアを新設しました。すでにエリアに存在していたキャラクター(セサミストリート、スヌーピー、ハローキティ)を1エリアに集合させることで、親しみやすさを訴求していったわけです。
これにより年間集客数は前述の700万人から975万人にまで回復しています。
次に第2のロケットです。
それは「関西依存の集客構造からの脱却」。
つまり全国、そして海外からも集客できる目玉コンテンツを投入することです。それが「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」でした。
(画像は日本経済新聞より)
日本のみならず世界的に知名度のあるコンテンツを投入することで、マーケットを一気に拡大させました。この施策により、来場者数は2016年に1460万人まで増加。2015年にはついにTDLの月間来場者数を上回る快挙を達成しています。
次の第3のロケットは「パークの多拠点化」。
テーマパークそのものを多拠点に展開することにより、また新たな顧客を獲得していくのが狙いです。まさに「モア戦略」の極み。
ですが、残念ながらこの構想は経営陣の理解が得られず、このタイミングで森岡さんはUSJを退職されています。
森岡さん自身はこの「コア&モア戦略」を、「差別化の呪いから救出した」という表現で、著書やインタビューにて語られています。
この事例は本当に興味深く、「差別化してブランドを尖らせること」と「ビジネスが成立しない狭いマーケットで戦うこと」は紙一重なのだと気づかせてくれます。我々マーケター、そしてビジネスパーソンにとって、「差別化」は目的ではありません。「ビジネスの成功」こそが最上位の目的であり、「差別化」は手段のひとつでしかありません。そこを履き違えていたのが10年前のUSJだったのです。
森岡さんは「ビジネスを成立させる」ために、第1、第2のロケットにより「正しくマーケットを拡大」させ、USJをV字回復に導きました。
こちらも雑にまとめるとこんなイメージ。
さて、USJのV字回復において「既存のコアファン」、つまり映画好きの既存来場者が離反してしまったのかどうか、という点も考えなくてはなりません。
森岡さんの著書や取材では言及されていないため、はっきりとはわかりません。ですが、少なくとも新しいアトラクションが矢継ぎ早に追加され、最終的には「ハリーポッター」という最高級の映画コンテンツも投入されているので、森岡さんの戦略が映画を推していたコアファンの離脱につながったとは考えにくいのではないでしょうか。(来場者が増えて混雑した結果、行きたくなくなった、といった離反はありえそうですが...)
CASE 3 : スマートニュース(西口一希)
西口さんの著書によると、スマートニュースは2012年に「ネット上の様々なニュースや情報がスマホで簡単にどこでもまとめて読める初のニュースアプリ」として誕生。その後、多くの顧客を獲得するも、競合の追随を受け、2016年ごろから顧客獲得が難しくなっていたそうです。そこで新たな成長戦略をリードするためにJoinしたのが、当時ロクシタンの社長をやられていたP&G出身の西口さんでした。
2016年当時のスマートニュースは一定のユーザーがいたものの、「手軽にニュースが読めるアプリ」で捉えられるマーケットはそこまで大きくはなかったのだと想像されます。実際、ユーザー層としても「中高年男性」が中心で、それ以外の層には刺さりづらかったようです。
そこで西口さんは「N1分析」「9セグマップ」といった独自の分析手法を用いて伸びしろを分析。その結果、「英語ニュース」にポテンシャルがあることを見出します。ビジネスニュースをインプットするだけでなく、「英語の勉強もあわせて行いたい」というインサイトが存在していたからですね。
結果、誕生したのが「ワールドニュースチャンネル」。
この施策は新規ユーザーの獲得につながっただけでなく、すでにユーザーであった「コア層」の離脱率低下も達成しています。まさに「コア&モア」を同時に達成した施策と言えます。
ついで西口さんは、英語ニュースよりさらに強いダウンロード意向を示していた「クーポンチャンネル」の実装に移ります。
これは「複数のクーポンアプリの使い分けが面倒」というユーザーの課題に対し、「スマートニュースでニュースをチェックするついでに最新のクーポンを常に確認できる」という訴求が、これまでニュースアプリに関心のなかった層までマーケットを拡大できる、と読んだのだと推察されます。
(画像はスマートニュース公式サイトより)
ご覧の通り、クーポンのラインナップにはマクドナルド、吉野家、ローソン、ガストといった、国民誰もが知っていて、使ったことのある内容が揃っています。これにより、「ニュースアプリ」だけでは訴求が難しかったマジョリティ層にもアプローチし、結果として女性層や若者層の新規ユーザー獲得に成功しています。
こちらも同様のまとめを。
スマートニュースのグロースについては、文末に載せている西口さんの書籍がめちゃくちゃおもしろいので、ぜひ読んでみてください。
また、スマートニュースのケーススタディは、数少ない(もしかしたら唯一?)P&GマフィアがIT系のサービスを手掛けた事例なので、めちゃくちゃ貴重です。小売や飲食、そして消費財と異なり、ユーザーが直接課金するモデルではないため、どのように広告売上につながるユーザーを獲得していくか、といったビジネス要件にマーケティングノウハウを適用させる例などは非常に良い学びになりました。
Another CASE : 横浜DeNAベイスターズ(池田純)
そもそも僕が、「素晴らしいマーケターがやっていることは「コア&モア戦略」に集約されるのでは」と気づいたきっかけが、ベイスターズのV字回復を学んだタイミングでした。池田さんのあらゆる著書を読んでみて、「これほとんど森岡さんと同じことを言ってるな...」とわかったのです。優秀なマーケターが考えていることには共通点がある、と確信をもった瞬間でした。
森岡さんが「差別化の呪いからの脱却」と称し、狭い「映画のテーマパーク」というマーケットから抜け出したことはすでに述べました。実は池田さんがベイスターズでやったことも「野球が好きな人だけのプロ野球」をやめたことに尽きると僕は思っています。このあたりの話は池田さんの『空気のつくり方』という本に詳しいのでぜひ読んでみてください。(文末にリンクを載せています)
2011年、年間110万人だった横浜スタジアムの観客動員数はその後年々増加し、2015年には181万人まで増えました。その戦略は、まさに「コア&モア」。
ベイスターズの本拠地である横浜スタジアムを、「野球が好きな人(コア)だけが集まる場」ではなく、「野球に関心が低くても、友人や家族と楽しい時間を過ごせる場所」とリブランディングすることで、新たな観客層(モア)を獲得していきました。
具体的には、初期の戦略ターゲットを「アクティブサラリーマン」に絞り込み、徹底的なマーケティングを行っています。「アクティブサラリーマン」とは、仕事終わりによく飲みに行ったり、土日もアウトドアやスポーツを楽しむ、文字通りアクティブな働き盛りの男性のペルソナです。「野球が好きだから球場に行く」ではなく「野球を見ながらビールを飲んだり、同僚と会話するのが楽しいから行く」という新たな価値を作り出していき、確実に来場者を増やしていきました。
さて、読者の中には「なぜ最初に女性や子どもを狙わなかったのだろう?」と思った方もいるのではないでしょうか。実は僕も以前、そう思いました。
この答えは「ビジネス+IT」の記事(リンクは文末に記載)で、副社長の木村さんがこう明かしています。
もちろん顧客を拡大するためには、アクティブなOL層へダイレクトに訴求するというアプローチもあったが、それだと実はあまりリーチしないと判断した。OLの中には当然コアな野球ファンもいるが、彼女らは自ら周囲に野球の情報をSNSで発信するようなことは少ない。そこで同社がリーチできて、知り合いの女性を誘ってくれるアクティブサラリーマン層を起点に、コミュニティの広がりを考えたのだ。
※太字は筆者加筆
つまり女性ファンの取り込みは意識しつつも、直接的にはアクティブサラリーマンにまずはファンになってもらい、その方々が周りの知り合いを誘っていく、という構造を作っていったんですね。素晴らしい。
もちろんこの過程でアクティブサラリーマンへの訴求と並行し、女子トイレの改装やイニング間イベントの強化など、野球に詳しくない女性が球場に来ても満足してもらうための施策を矢継ぎ早に投入しています。
他にも「子連れで楽しめるボックスシート」の新設や「球団オリジナルクラフトビール」の開発(これめっちゃ美味いですマジで)などを通じてライトユーザーの獲得を積み上げていき、2018年には年間来場者数200万人を突破しました。すごい。
ここで気になるのが「そんなにライトユーザーが増えたら古参のファンは離れちゃうのでは?」という疑問。
こちらに関しては、記事や著書での明確な記述が見つけられなかったので僕の個人的解釈になりますが、おそらく「ない(むしろポジ)」と言えると考えています。
なぜならコアファンにとっても来場者増加は嬉しいことだからです。
言うまでもなく、満員の球場の方が一緒に応援していて楽しいですよね。当然観客が多いほうが選手のモチベーションも上がります。結果、成績も良くなる。そういった点から、ライトユーザー(要はにわかファン)の増加は、コアファンにとってもポジティブなのではないかと思われます。
こちらもまとめるとこんな感じでしょうか。
こうまとめちゃうとめちゃくちゃ単純なんですけどね...。この戦略を導くまでの、途方も無い分析と仮説出しが本当に難しいんです...。
なお、ベイスターズの事例はP&Gマフィア関連ではありませんが、「コア」と「モア」への施策を通じて「正しくマーケットを拡大する」という点においては、P&Gマフィアが得意としている手法と同じ構造を用いていると思われます。
「コア&モア戦略」、そして「正しいマーケット拡大」は、必ずしもP&Gマフィアだけの特権ではなく、優れたマーケターが用いている手法だ、ということを伝えたかったため、番外編として紹介させてもらいました。
おわりに
もちろんビジネスとは単に新規顧客獲得さえできればうまくいくものではありません。他にもプライシング、UX、ファイナンス等々、まだまだやるべきことはあります。ですが、どんなビジネスでも、マーケットがあまりにも小さいと成立しません。
P&Gマフィアが実践している「コア&モア戦略によるマーケット拡大」はどんな職種の人にでも役立つフレームワークだと僕は信じているので、このnoteを書きました。
ちなみに本当は「戦略的に正しい「モア層」の見つけ方」や「コア&モアを失敗した事例」とかも紹介したかったのですが、あまりに内容が複雑になるので、それはまたどこか別の機会で。
このnoteを通じて、「マーケティングっておもしろそう!」と思う人が1人でも増えてくれれば、幸いです。
ということで・・・。
参考文献
「コア&モア」マーケティングが学べる書籍 ※絶対読むべき3冊