「Pitch Smart」

◆ Pitch Smart

最近、球数制限の議論がいろいろなところで繰り広げられていますが、
そんな中、「Pitch Smart」という単語が出てきました。
これは簡単に言うと、成長期の野球選手に向けたガイドラインで、中には投球数制限に関係することも書かれています。
この設定には、アメリカの野球の分野で有名な医師などそうそうたるメンバーが関わっています。
そんなPitch Smart。メジャーリーグの公式ホームページ「MLB.com」でもデカデカと紹介されているのですが、日本の野球界には浸透するにはまだまだ時間がかかりそうです。


原因のひとつとして考えられるのは、某テレビ番組で選手に「喝!」を入れている人や、「ベンチがアホやから野球でけへん」と言っていた人たちには、英語でのメッセージが伝わらないことなんかがあげられるかもしれません。

こんな皮肉は抜きにしても、野球の指導に携わっている方々で、MLBの情報を仕入れるために毎日英語で書かれたホームページをチェックしているような人はもしかしたら存在するのかもしれませんが、おそらくほとんどいないでしょう。
SNSの普及で一部の情報は手に入るのかもしれませんが、その情報が正しく解釈されたものなのか怪しいのが最近のSNSです。

そこで今回は、MLB.comに記載された情報を簡単な日本語に翻訳した内容をお届けしたいと思います。もし、翻訳に間違いがあれば教えていただけるとありがたいです。

◆ 球数制限

では、今誰もが気にしているであろう球数から、

画像1

左から、
年齢
1試合で投げることが許される球数
その右からは、
1試合で投げた球数に対して次に投げるまでに休むべき日数
です。
例えば、
17~18歳の選手は1試合で105球を超えて投げてはいけない。
また、
60球投げた場合には、2日間は試合で投げてはいけない
ということです。
これがガイドライン、つまり推奨されているだけということが救いですが、もしこれが法律で定められていたとしたら、日本の夏の各地域の球場は超凶悪大犯罪者集団と化すことでしょう。

このPitch Smart、さらにおもしろいガイドラインが設定されていて、球数だけではなく年齢別に推奨されていることが違うのです。
これだけではまったく意味がわからないと思うので、とりあえず下を見てください。

◆ 8歳以下

・マウンドからホームの距離 14.0208m
・身体の健康や運動の楽しさを大切にする
・野球のルール、一般的なテクニック、チームワークを身に付ける
・投球イニングが12カ月の間に60イニングを超えてはいけない
・1年に4カ月はボールを投げない期間を作らなければいけない。そのうちの2-3ヵ月は連続していなければいけない。
・ピッチングの前にウォーミングアップは必ず行う。
・球数の制限を行い、休息期間をとらなかればいけない。
・ファストボール(ストレート)とチェンジアップ以外の球種を投げてはいけない。
・同時に複数のチームに所属してはいけない。
・ピッチャーとキャッチャーを兼ねてはいけない。
・1日に違う試合で投球してはいけない。
・他のスポーツも行う。
・疲れのサインに気を配る
・一度マウンドを降りたら、もう一度登板してはいけない。
・投げた球数に関わらず、3日連続で投手として試合に出てはいけない。

◆ 9~12歳

・マウンドからホームの距離 15.24m
・身体の健康や運動の楽しさを大切にする
・野球のルール、一般的なテクニック、チームワークを身に付ける
・投球イニングが12カ月の間に80イニングを超えてはいけない
・1年に4カ月はボールを投げない期間を作らなければいけない。そのうちの2-3ヵ月は連続していなければいけない。
・ピッチングの前にウォーミングアップは必ず行う。
・球数の制限を行い、休息期間をとらなかればいけない。
・ファストボール(ストレート)とチェンジアップ以外の球種を投げてはいけない。
・同時に複数のチームに所属してはいけない。
・ピッチャーとキャッチャーを兼ねてはいけない。
・1日に違う試合で投球してはいけない。
・他のスポーツも行う。
・疲れのサインに気を配る
・一度マウンドを降りたら、もう一度登板してはいけない。
・投げた球数に関わらず、3日連続で投手として試合に出てはいけない。

◆ 13~14歳

・マウンドからホームの距離 18.288m
・ファストボール(ストレート)とチェンジアップが安定したら、他の変化球を投げてもよい。
・投球イニングが12カ月の間に100イニングを超えてはいけない
・1年に4カ月はボールを投げない期間を作らなければいけない。そのうちの2-3ヵ月は連続していなければいけない。
・ピッチングの前にウォーミングアップは必ず行う。
・球数の制限を行い、休息期間をとらなかればいけない。
・同時に複数のチームに所属してはいけない。
・ピッチャーとキャッチャーを兼ねてはいけない。
・1日に違う試合で投球してはいけない。
・他のスポーツも行う。
・疲れのサインに気を配る
・ピッチャーから違うポジションに移っても、一度だけなら再び登板してもよい。
・投げた球数に関わらず、3日連続で投手として試合に出てはいけない。

◆ 15~18歳

・マウンドからホームの距離 18.288m
・ファストボール(ストレート)とチェンジアップが安定したら、他の変化球を投げてもよい。
・投球イニングが12カ月の間に100イニングを超えてはいけない
・1年に4カ月はボールを投げない期間を作らなければいけない。そのうちの2-3ヵ月は連続していなければいけない。
・ピッチングの前にウォーミングアップは必ず行う。
・球数の制限を行い、休息期間をとらなかればいけない。
・同時に複数のチームに所属してはいけない。
・ピッチャーとキャッチャーを兼ねてはいけない。
・1日に違う試合で投球してはいけない。
・大会のガイドラインに従う。
・疲れのサインに気を配る
・ピッチャーから違うポジションに移っても、一度だけなら再び登板してもよい。
・投げた球数に関わらず、3日連続で投手として試合に出てはいけない。

◆ 19~22歳

・投球した数を常に管理する。
・1年に4カ月はボールを投げない期間を作らなければいけない。そのうちの2-3ヵ月は連続していなければいけない。
・ピッチングの前にウォーミングアップは必ず行う。
・球数の制限を行い、休息期間をとらなかればいけない。
・同時に複数のチームに所属してはいけない。
・ピッチャーとキャッチャーを兼ねてはいけない。
・1日に違う試合で投球してはいけない。
・大会のガイドラインに従う。
・疲れのサインに気を配る
・投げた球数に関わらず、3日連続で投手として試合に出てはいけない。

これを見ると、日本の野球界で守られていないものがいくつもありそうですね。

まず、4カ月も投げない期間が必要なのかと驚く人は多そうですね。高校くらいからは、いくらオフシーズンとは言えども、ブルペンでの投球練習を行っているところが多いと思います。11月くらいからオフシーズンを迎えて4カ月のノースロー期間を作ってしまうと、それが終わるころには4月、春の大会が間近に迫っています。
Twitterでも一部の人が言っているように、日本では野球の大会の制度から変えていかないと、選手にとってケガをおそれずに安全に野球ができる環境をつくることはなかなか難しいようです。

ピッチャーとキャッチャーを兼任している選手は、選手が少なく小さいチームにはよくいるのではないでしょうか。私が中学生のときには、同じ地区に双子のバッテリーがいて、ピッチャーとキャッチャーがイニング間に入れ替わったりしていたのを覚えています。

日本では、部活といったらその部活にしか基本的に入れません。よく耳にするアメリカの学生野球の日本との違いとして、アメリカでは、野球以外にもアメリカンフットボールやバスケットボールなどを両立している人が多いということがあるでしょう。時にはメジャーリーグとNFL(プロのアメリカンフットボール)の二刀流がいるというくらいです。

もし、健康や運動の楽しさを学べないチームを作っている指導者がいるのであれば、それは非常に残念なことです。選手はうまくなるのが楽しいから一生懸命練習して上達するのです。

◆ 最後に指導者へ

いろいろ書きましたが、他にも日本の野球の制度の中では守るのが難しい部分が多いと思います。しかし、スポーツ科学が発展したアメリカで、科学的に設定されたこのガイドラインをただのアメリカのものとして日本の野球選手にあてはめないのはあまりにナンセンスだと思います。

少年野球から、プロ野球の指導者まで、成長期の野球選手(成長期の選手に限りませんが)を抱える人は、その選手の将来を背負っているのです。個人の経験談や価値観、美的感覚を選手に押し付けて、選手の将来を奪う指導者がこれ以上あらわれないためにも、ぜひともこの「Pitch Smart」が広まることを願っています。

ここに書いた内容を印刷用にまとめたものをダウンロードできるようにしておくので、指導者の方々はこれを参考にしながら選手の将来を見据えて指導に当たっていただけるとありがたいです。


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