気になる生成AI/ML関連ニュース 5つ - ノーコードAI、ChatGPTでのビットコイン価格予測、画像処理も半導体も人工知能で進化、AIへの懸念の拡がり、注目される職種「Head of AI」
前回、今後の動きを占う上で気になる生成AI、およびAI/ML関連の記事を5つピックアップしてご紹介しました。
生成AIのトレンドにより、社会を進化させていくエンジンとしてその真価を見せ始めているAI技術・ソリューション群。どうこの先の流れを読んでいくのか。奔流する情報と人々の中にあって大きなうねりにつながる予兆を見出していくべく、今回も気になるニュース・記事をピックしていきたいと思います。以下、5つです。
ノーコード AI を可能とする4つのツール
コードを書かずにAIを作る4つのツールを紹介した記事です。シンプルなモデルとアプリを作れる Lobe,、自分のチャットボットを作れる Juji、大規模データからの機械学習モデルが作れる Akkio、AIと簡単にインテグレーションできる Bubble が紹介されています。
ノーコード開発はコーディングの経験に関係なく、すべての人がプログラム、ツール、その他のデジタルサービスを作成することを可能にします。それがAIの世界とも融合しつつあるというのは、AIの民主化につながる動きでもあります。また、AI活用の高速化、量産化を加速させる方向性でもあろうかなと思います。
以下は、3年前の記事になりますが、ノーコードでソフトウェア開発をする世代が台頭しつつあることを指摘した記事です。
生まれた時からデジタルに囲まれている世代は、ノーコードでの開発、あるいはコンピューターの力を自然かつ自在に引き出し、やりたいことを実現していく世代とも言えます。これらの世代にとってはリアルとデジタルの区別なく、全てが繋がっています。RobloxやMinecraftのようばゲームも遊びとしてでなく、日常のコミュニケーション、自己表現と自己実現のプラットフォームとして機能しています。
この世代はAIネイティブの世代とも言えます。ノーコートAIによって、彼ら彼女らの創造性がより開花されていくとしたら興味深いです。
ChatGPTによるビットコインの価格予測や株式市場の予測
大規模言語モデルを用いて、ビットコインの価格がどう推移していくかのシナリオを考えていくという記事です。2024年、2028年、2032年、2050年それぞれのビットコインの価格について、希望的な観測シナリオ、規制が強化されていく厳しいシナリオ等を提示しています。いわゆるシナリオプランニング的なアプローチです。大切なのはこの価格予測が当たるかどうかというより、提示されたシナリオから価格に影響を与えるどのようなファクター(因子)がありうるかを考察し、それに対して注意を払いモニタリングしていくということです。そうすることでシナリオの変化に対してもよりアクティブに対処をしていくことが可能になります。
話はやや変わりますが、株価やマーケットの予測に自然言語処理を活用していくというのはこの界隈の王道といえます。例えば以下のデマンドセンシングを扱った記事では、ソーシャルメディアのデータを用いることで需要予測などの各種予測の精度を向上することを扱っています。
未来の予測を行うに過去のデータだけから予測するのは限界があります。それゆえ、今の様々なマーケットに関わるニュースやソーシャルメディアからのシグナルを掴むセンチメントアナリシスを行い、予測の精度を改善させるというのは有用なアプローチです。以下の記事は、フロリダ大学の研究に関する記事で、ChatGPTを用いたセンチメントアナリシスは株式市場でのトレーディングの精度を大きく改善する可能性を示しています。
筆者も実際にこのようなセンチメントアナリシスによる業績予測、マーケット予測の精度向上の支援を実施しており、生成AIのポテンシャルを大いに感じるところです。
画像処理も半導体もAIで進化する
Communications of the ACMによる3Dグラフィックの今後の進化に関する記事です。
半導体におけるムーアの法則が成立しなくなるにつれ、ビデオゲーム、拡張現実、仮想現実で使用される複雑な三次元(3D)画像をレンダリングするGPUもその減衰の影響を受けています。ですが、記事は、AIが新しい発展のエンジンとなるという論考になっています。
例として、NVIDIAが2022年に導入した DLSS 3(Deep Learning Super Sampling)は、深層学習によりレンダリングのスピードを5倍以上に高めていることをあげています。他にも、Intelの XeSS (Xe Super Sampling) framework や AMDの RDNA 3 graphics、Googleの MiP-NeRF 360等の例も言及しています。AIによる画像処理の性能向上は重要なトレンドです。
また、そもそも半導体の設計にもAIを使うという潮流があります。デロイトトーマツのテクノロジー・メディア・通信業界における将来予測をまとめたレポート「TMT Predictions 2023」の中で、このトピックを扱っており、筆者は監修を行っています。
このレポートの中では、半導体設計支援AIの実用性が、グラフニューラルネットワーク(GNN)と強化学習の二つの技術により飛躍的に向上していることを紹介しています。GNNは半導体回路の物理的な配線プラン(フロアプラニング)を強化学習に適したモデルに変換することに役立ち、強化学習のよって試行錯誤によって最適化を行っていきます。これら二つの技術を組み合わせることにより従来は設計者が手動で繰り返してきた半導体回路のシミュレーション、テスト、改善という反復作業を自動化・高速化することができるようになっています。ムーアの法則をAIの進化によってこえていく新たな時代の始まりを感じます。
AI に対するネガティブな見方の拡がり - スティーブン工科大学 調査
光が強ければ影もまた濃いものです。AIに関するネガティブサイドの話題も触れたいと思います。AIがもたらす影響についてのネガティブな見方が広がっているという記事です。
スティーブン工科大学によると、全米の成人2200人に行った調査における2021年と2023年の比較で、AIがもたらす影響をポジティブに評価している人は48%から38%に減少しているとのこと。個人への安全やプライバシー、国家安全保障に対する影響はポジティブとは言えないとする人の割合が増えています。
これは、ChatGPT、Midjourney に代表される生成AIの爆発的な普及が作用していることは間違いないでしょう。人々や社会の受け入れのスピードをこえて普及していることが、AIに関するリスクを寄り懸念させるようになっているかと思います。例えば、AIのアウトプットに関する透明性の欠如です。大規模言語モデルに代表されるディープラーニングモデルは複雑であるがゆえにブラックボックスであり、またその背後にあるアルゴリズムやデータは詳細を公開されていない場合も少なくありません。これは人々がAIに対してその公平性、安全性に不安を覚える理由でもあります。さらに、多くのAIアプリケーションやサービスは、ユーザーの個人データを用いることで最適化されていて、これはプライバシーが守られているかどうかに関しての疑義につながります。そして、国家安全保障の面では、AI技術の軍事利用が懸念されています。自律的な武器やサイバーセキュリティの脅威は、新しい戦争の形をもたらすのではないかということです。
これらの懸念に対して適切な対応を行う、何重にもはられたセーフガードとなる施策を取ることがビジネスとしても社会としても要諦になります。適切な規制の整備や教育の実施、情報の更改と技術的な透明性や説明性の向上、継続的なAIモデルのモニタリングが、AIを活用していくためのガバナンスとして求められます。
企業において注目されるロール「Head of AI」
最後に、企業において注目されつつある「Head of AI」という新しいロールに関する記事を。こちらもまた生成AIの驚異的なブームもあって、Head of AI の重要性に関する認識は広がっていますが、その責任の範囲に関しては明確な定義がありません。アマゾンからVisa、コカ・コーラに至るまで、米国では多くの大手企業が、Head of AI の採用・登用を進めており、AIリーダーシップのロールにある人の数は、過去5年で3倍に増加しています。
Head of AIの仕事は広範に渡り、AIをどう自社のビジネス、サービス、プロダクトに統合していくか、あるいは、AIによる業務やシステムの生産性の劇的な改善、従業員のAIスキルの獲得を進めることが期待されています。そのような広い職掌が存在するがゆえに、Head of AIはコンピューターサイエンスやエンジニアリングの技術的なバックグラウンドを持つべきか、それとも経済学や心理学等、他の分野から来るべきかという議論も存在しており、興味深いトピックです。
AIの活用に関しては変革力が必要となり、それゆえリーダーシップが極めて重要です。企業における先進的なAIの活用はいくつか方向性が見えてます。
1つ目は、今まで人間の知恵を使い行っていたことを、AIが深く掘り下げていくという使い方です。例えば、創薬や材料開発といった研究開発領域での活用がこれにあたります。これまで研究者の方々の努力や勘などに頼っていた部分を、大規模言語モデルのようなAIが肩代わりして高速に探索してくれるという特徴があります。
2つ目は、単にAIをソリューションとして使うのではなく、AIを使って組織を変えていくような動きです。これまでの話ともつながりますが、複数部門や取引先も含めたビジネスプロセスにおいて、全ての反復的な作業の自動化を進める考え方です。
3つ目の方向性は、新しい領域をAIで切り開くというものです。生成AIに代表されるようなクリエイティブなこと、 例えば、1枚の絵からアニメーションを生成する、小説や映画の脚本を執筆する、あるいはTVCMをAIがつくるといったことも試みられるようになっています。これまで専門的な領域で利用されてきた技術が、専門的な知識や特別な環境を有しない一般的なユーザーに広く利用されるようになっているというのが、大きなムーブメントです。
4つ目の方向性は、Web3やメタバースとAIを組み合わせるというアイディアです。実際に、AIを使って現実空間の物理シミュレーションを作る、AIで動くアバターを生み出すといった形などですでに実現してきており、仮想世界を利用した現実の拡張といった視点で、今後より注目が集まる領域だと思います。
このようにAIのポテンシャルを活かしていくには、従来にない価値を生み出すための推進を行っていくことになります。同時に、AIの持つリスクをどうコントロールするか。前の記事であげたようにAIの普及・適用がもたらす不安や懸念にどう向き合い、それを踏まえたAIガバナンスを整備し、コミュニケーションを行っていくか。そのような視点が「Head of AI」には求められるかと思います。
AIやテクノロジーはディスラプティブ(破壊的)と言われ、社会を大きく変えるように見えます。確かに一見大きく変わるように見える部分もありますが、逆に変わらない本質的な姿も見えてきます。「Head of AI」とは、AIの活用を享受し、組織を高度化させていきながらも、ビジネスや社会の本質的な部分を見極めていく存在でもあると思います。ゆえに時代の変化の要諦を見抜きながら、これからの世の中の進歩を支える存在として確立されてほしいと思います。