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『成長の限界』から50年: 気候変動にAIで立ち向かう

この記事は、2022年に注目を高めるであろう気候変動に関して、AIによってどのように立ち向かうことができるかについて書いた記事です。


ローマクラブの警告から50年目の関心

新年です。元旦に以下のツイートをしました。

2022年は、1972年にローマクラブが、100年以内に人類の成長は限界を迎えると言った「成長の限界」の発表から50年目になります。今年は地球について考えることが増えそうですとツイートでは書いていますが、以下の、今年の動きに関して、300以上の記事、ホワイトペーパー、インタビュー、ポッドキャストなどを集計した専門家たちの予測のまとめ記事を見ても、ESG投資の影響力やEVのセールス等、地球環境・気候変動に関するトピックは今年はその関心を高めていくことが予想されていることがわかります。


成長の限界と気候変動の脅威

1970年に世界の有識者によって設立されたローマクラブは、1972年に「成長の限界」と題する研究報告書を発表し、このまま人口増加や環境汚染等の傾向が続けば、資源の枯渇や環境の悪化により、地球上の成長は100年以内に限界に達すると警告しました。近年、人為的な要因による気候変動への関心、特に石油や石炭等、化石燃料の大量消費に伴う大気中の二酸化炭素濃度の上昇による地球温暖化への懸念が高まり、この警告もまた改めて受け止め直されるときがきています。

IPCC第5次評価報告書によると、21世紀末(2081年~2100年)の世界の平均気温は、20世紀末頃(1986年~2005年)と比較し、2.6から4.8℃上昇すると言われています。一部の予測では、そう遠くない未来である2040年までに気温が1.5℃上昇するともされています。1.5℃はそれほど大きな変化ではないと思われるかもしれませんが、ハリケーンや竜巻、洪水等の異常現象が着実に増えることがわかっており、このような温暖化、そしてそれによる気候変動は人類存亡の危機につながると考える研究者も少なくありません。気候変動は、既に私たちの自然環境を脅かすだけでなく、私たちの生活様式や経済の基本構造をも脅かし始めています。


気候変動の解決の助けとなりうる技術としてのAI

宇宙船地球号とその乗組員である人類と生物の未来を守るために、私たちは今、社会のあり方を変える瀬戸際にいます。気候変動の問題に取り組み、あらゆる知恵と技術を持って解決策を見出す必要がある。AIはそのうちの有力な技術の一つであることは間違いありません。

現代のAIは電力を多く消費するため、温暖化の遠因にもなっているという意見は強くあります。近年、データの収集とその活用が容易になったことから、クラウド上でビッグデータを処理するAIの応用が数多く登場しています。また、その中でも進化が著しいDeep LearningをベースとしたAIは、大量のGPUを用いることから電力を過度に使用しするという批判もあります。だからこそ、AIは気候変動の解決に代表されるような、社会的にポジティブなインパクトのある、意義のある目的にこそ活用をしていくことが肝要です。以下では、気候変動の問題に取り組むにあたってどのようにAIが有用なのかについて、いくつかの適用ケースを考えます。


AIによる「予測」

まずは「予測」です。商品がどれぐらい売れるのかという需要や売上の予測。設備がいつ調子が悪くなりそうかという故障の予測等、予測は現代におけるAI技術の中心的な適用領域となっています。


天気や天候の予測は、AI技術によってその精度が高まっており、また長期の気候の予測も期待されています。従来の数理モデル、物理モデルでのシミュレーションが機械学習モデルを組み込むことでより精緻化され、1週間の天気予報から、2週間から3ヶ月間のスパンでの季節予測、10年に及ぶ長期予測、更には20年以上の気候変動を予測していく試みも行われています。これら技術の進展により、地球そのもののデジタルツイン、あるいはある種のメタバースと呼べる規模でのシミュレーションの実現も視野に入っています。高度な予測をすることで気候変動の問題に関する理解を深め、対処に向けた議論や対策の実施を促進していくことができます。

天候の予測精度の向上に伴い、気象パターンの変化をとらえた異常気象や自然災害の予測精度向上も進んでいます。衛星データを収集し、リモートセンシングを行うことによって、大規模火災や干ばつ、その他の悪天候や害虫の大量発生等の予兆を掴みます。突然の豪雨や台風を予知することで、洪水や地滑り等の事前アラートも可能になり、災害による被害を抑えていくことにつながります。


AIによる「最適化」

予測に加えて「最適化」もAIが得意とする適用領域の一つです。最適化とは、リソースの最適配置や効率的活用を意味し、気候変動からの防御において有効となります。例えば、自然災害が発生した際に、どこの道路を封鎖することで避難も行いながら被害を最小化することができるか、またどこに最初の救援チームを送るか、どの病院を厳戒態勢にするべきか、どのエリアの住民が救援物資を必要とするか、等に対してAIを用いて対応策をリアルタイムで出して実行していくことが可能です。

もちろん、災害が起きてからの事後的な対応だけでなく、都市や産業におけるエネルギーの利用を効率化し、廃棄物を削減して環境への負荷を減らしていく事前のアクションにおいてもAIによる最適化が役立ちます。都市における交通や産業における物流・配送の最適化はAIの活用を推し進めるべき領域です。EV、コネクテッドカーや自動運転車は、AIで高度化された車両交通追跡システムによって迅速でクリーンな移動を可能とし、ライドシェアリングのような新しいモビリティの有効活用もあわさって高いレベルでの効率性を達成することができる。産業においては、そこにデータを活用したサプライチェーンマネジメントの自動化やそれによる過剰生産や在庫の低減、また各種設備や車両の機械学習による予知保全が加わります。

都市や産業のレベルでAIをフル活用した最適化を実現していくことによるエネルギー消費の削減は、温暖化への影響を軽減していくためにも極めて重要です。


AIによる「新しい製造・生産」

AIがエネルギー消費を減らしていく「新しい製造・生産」に貢献する方向性もありえます。例えばAIと3Dプリンティングが組み合わさった製造システムは、輸送需要を削減する可能性があります。必要なときに限りオンデマンドで生産したり、より軽量な商品を開発したり、消費者により近い場所での製造を行うことでコストを減らし、貨物輸送を削減できます。

また、材料や素材分野での新物質開発にも機械学習やAIは適用されます。いわゆるMI(マテリアルズ・インフォマティクス)と呼ばれる領域で、大量の特許文書や論文等の文献データベースと、原子配列や電子配置等の物性特性を高精度に計算した材料データベースをもとに、より迅速かつ正確に新物質探索や開発を行います。

機械学習は、炭素集約型の材料や化学物質に関連する排出量をさらに最小限に抑えることができる可能性を秘めています。例えば、セメントと鉄鋼の生産は、合わせて全世界の温室効果ガス排出量の10%以上を占めており、セメント産業だけでも、米国と中国を除くすべての国よりも多くの温室効果ガスを排出しています。機械学習と、ジェネレーティブデザインや3Dプリンティングなどのデジタル技術を組み合わせることで、サプライチェーンを短縮し、より少ない原材料で構造的な部材の開発も可能になるかもしれません。エネルギー消費を抑えた素材や物質、製品の開発を進めることで持続可能な社会への進化を後押しします。


AIを活用し、未来を救う

このように、AIは気候変動に立ち向かっていくための強力な武器となります。ですが、同時にAIは決して万能ではなく、あくまでも手段であり、その活用には制約があることも忘れてはいけません。

前提として、人間が与えたテーマや枠組みの中でAIは最善の解決を導き出すことができます。逆にそれら目的や問題の設定がないところでAIが自動的に物事を解決してくれるわけではありません。新素材を探索するAIも、どのような製品を作るかというビジョンがあってこそ有効な物質を探索できます。つまりは、人間が目指すべき目標へと向かっていくために、それぞれの領域で何をテーマとしてAIを活用していくか、どのような課題を解決するためにAIを用いていくのかを考えることこそが大切であり、それゆえに私達自身の問題に対する理解と議論こそが重要になってきます。

気候変動は、私たちの生活や社会経済に加え、未来をも脅かしています。早急に協調した効果的な行動をとらなければ、私たちはこれまで以上に異常な気象現象、食糧不足、地政学的な危機に直面することになるでしょう。ローマクラブの警告を改めて目の前の危機として認識する必要があります。そして、私達が正しい方向に進むために何を目指していくべきか。社会が議論を通してそれらを見出し、AIを最大限活用しながら目標に向けて問題を解決していくことは、宇宙船地球号の乗員たちがこれからも共存共栄していく大きな助けとなるでしょう。

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