Chip『Snakes & Ladders』


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 イギリスのトッテナムで生まれたチップは、浮き沈みが激しいキャリアを歩んできたラッパーだ。デビュー・スタジオ・アルバム『I Am Chipmunk』(2009)は全英アルバム・チャート2位に入るなど、活動当初は商業面での成功が目立っていた。当時はいまほどメインストリームの中心に食いこんでいなかったグライム・シーンを出自とすることもあり、チップの成功は多大な注目を集めた。

 しかし、『I Am Chipmunk』以降は苦戦を強いられる。セカンド・スタジオ・アルバム『Transition』(2011)を最後に全英アルバム・チャートのトップ10からは遠ざかり、存在感は弱まっていった。
 それでも、数多くのミックステープや客演では確かな実力を見せつけてきた。商業面が追いついてこなくても、チップはスキルを磨きつづけ、飛躍の時を待った。その甲斐あって、スケプタとヤング・アッズとのコラボ・アルバム『Insomnia』(2020)が全英アルバム・チャート3位に入るなど、近年は復権を印象づける活躍も多い。

 こうした勢いを受けてリリースされた最新ミックステープ『Snakes & Ladders』は、充実のチップを楽しめる作品だ。ストームジーやバグジー・マローンといったラッパーとの確執を取りあげ、自身の波乱万丈な音楽活動への言及も目立つ内容は貫禄を感じさせる。
 なかでも惹かれた曲は“No Goat”だ。オウテカあたりの先鋭的なテクノも脳裏に浮かぶトラックをバックに、チップはフロウを矢継ぎ早に変化させ、極上のラップスキルを披露してくれる。内輪ネタが多い歌詞に戸惑うリスナーもいると思うが、わかる人にはわかる事柄を詰めこむほど、現在は余裕があるということなのだろう。そういう意味では、チップの漲る創造力を楽しめる曲と言える。

 “No Goat”を筆頭に、本作はグライムやヒップホップ以外の要素が色濃い。“See Through”はトロピカルな雰囲気が際立つアフロスウィングで、バグジー・マローンが参加した“Grown Flex”はUKガラージど真ん中のサウンドを鳴らすダンス・ナンバーだ。ポップ・ソングとして親しみやすいキャッチーな曲が並んでおり、聴く人を選ばない。



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近藤 真弥
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