ボランティア・イラストレーション

*この文章は2015年頃勢いで書いたものをそのままの文体で手直しせず掲載いたします。


ぼくはイラストレーションを20歳の時から仕事にしてきた。他の収入源を得たこともあるが、一応フリーで仕事をして19年になる。

「イラストレーターは大変だ。自分の描きたい絵を描いて飯を食えるなんてなかなかできない。10年かかる。」
と自分の描きたい絵を描いて飯を食ったことのない先生がしたり顔で言っていたが、実際には10年で食えるようになるなら幸いなことである。
好意で受けたボランティアのようなお仕事の制作打ち合わせで、イラストレーターではない依頼者側の関係者から「下積みになりますね。」と言われ絶句してしまった。冗談ならせめて笑えるように言って欲しい。参加イラストレーターは初めて顔を会わせるメンバーがほとんどだったが、一番売れている方は打ち合わせで一度もお目にかかれず終わった。遅刻をしたり、約束の日に来なかったりする人はやはり売れている人。芸人の世界では芸歴で先輩後輩が決まるらしいけど、イラストレーターはだいたい初めは他の仕事をしていて転職される方が多い。だから学生時代から19年も続けているぼくは年齢的には下だったがイラストレーター歴では大概のイラストレーターから見たら芸人なら雅也兄さんのはず。
たまに「こんなにいい場所で展示が出来るよ」というお話しが来るけれどお断りすると急にそっけなくなることが多い。「断るなんて信じられない」と言わんばかりに。イラストレーションを無料で描いて展示するということは出費があるということになる。絵を描くアイデアを考えて実作業をするが、材料費もかかるし描いた絵を額装、それを運ぶ。額装するためには色々歩き回り仕入れたりする。「絵を売ってもいい」とさも素晴らしいことのように言われたりするがイラストレーションは原画を売る値段はそれほど高く設定できない。イラストレーションは元々「使用料」を稼ぐ仕事で、原画そのものを楽しむように描いているわけではないからだ。だからおいそれとは売れない。下手をすれば「使用権」の方が高く売れるのだ。
ボランティア的な依頼を受ける場合は大概元々付き合いがあったり、宣伝となるメリットがある場合だが、宣伝になるのはむしろ「通常の仕事」の方だ。イラストレーションは「仕事用」の絵だから、仕事として「デザイン」に組み込まれている形を見てもらうことに意味がある。そこではじめて「上手い」「下手」が伝わる。どんなに買い手がつくような絵でも「使いにくい」「イラストレーションとしては下手」はあり得る。「イラストレーション」という言葉は「デザイン」属性の絵、ということだからだ。だからボランティア的に引き受ける場合は「宣伝効果」のメリットは場合によって限定的だ。むしろ「このイラストレーターは無料でも引き受けることがある」と思われる。実際の仕事でも「今回は予算の関係上これしか出せないが、次に埋め合わせを」と言われて実現したことはほぼない。
飲食店で100円セールをやって行列になっても通常営業に戻すと閑古鳥、閉店というケースはよく見受けられる。「一時的にただ同然にして味が広まればそのまま売れる」のなら皆やるはずだがあまりそれをやる飲食店を見かけない。売れていない作家がサービスで描いた絵を見て高いお金を払いたいと思うだろうか?ベテランや売れっ子にとっては、「あの人は有名なのにボランティアで描いてあげている」とかなり好意的に受けとられる。依頼する側はボランティアである限り出費はほとんど無く例えば会場への入場料などで元を取るから損にはならない。出品する側は何度も打ち合わせや下見に行かなければならず交通費も交流費も自腹。企画から立ち上げる場合となればまたそれもかさんでいく。なぜかこういうことに疑問を投げかけたり、対価をわずかでも要求することはほぼタブーである。主催者から出そうかと言われても出品者が断ることさえある。イラストレーターは「展示させていただきありがとうございます」という立場からものを言いたがる。でも実際には稼いでいるベテランや売れっ子は「忙しい」という理由で打ち合わせに来なくても遅刻しても許されて、無名な者が面倒な実作業を担うしかない。「忙しい」は対価ある忙しさ。実作業は「消耗」。これは全く逆方向のベクトルで金銭的には何倍もの差ということになる。イラストレーターは皆サラリーマンのような分担性を嫌い自由業を選んだはずが、結果的には好んで似たようなむしろさらに過酷な場所に居場所を感じたりする。「君たちは暇なのだからやれるだろう」と言われているのと同然なのに、不思議だとしか言いようがない。イラスト某というグループから入会の誘いが来て、丁重にお断りしたことがある。しかしそれへの返事は無い。入会しなくて良かったと思っている。展示を頼まれる場合、「あなたの絵が好きだから飾って欲しい」なら多少のギャランティーは出すべきだし、「ここに飾れば人目につきますよ」という誘い方は苦手だ。イラストレーションというものは、使ってもらうことが幸いなことであって、「原画を展示して見てもらうこと」は目的でも手段でもない。

ここから先は

0字

西荻窪について、さらに掘り下げた話をさせて頂きます。

西荻窪界隈の話を中心に、イラストレーションのことも織り交ぜながら、さらに細かいお話をしていきます。

イラストレーションについて、西荻窪イラストレーションスタジオに参加の方からの質問や、公開しにくい具体的な話を書いたりします。

西荻窪「brewbooks」にて不定期開催中の"西荻窪イラストレーションスタジオ"のイラストレーション講座に必要な知識や、日々のイラストレ…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?