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似て非なる、兄と妹。どちらを選んだのか。/epochman「オーレリアンの兄妹」感想(ネタバレ、多分あり)

難しい。


この作品を人に勧めるべきか、上演中、ずっと迷っていた。
相変わらず驚かされる舞台装置。
17個ものスピーカー配置からしてこだわりにこだわり抜いた音響デザイン。
(私はepochmanを「演劇界のサカナクション」と呼びたい!)
心の奥底に直接触れてくる、中村中さんの劇中歌と音楽。
そして、気心知れた二人の、だからこそ正面からぶつかり合う
掛け合いと叫び。

勧めたくない要素が何一つない。
すべてが最高のレベルで組み合わさってる。
凝縮された75分、あっという間。お尻も痛くならない。
新しい代表作と言ってもいい、感情も思いっきり乗った、
素晴らしい作品でした。

…けど、上演中、人には勧めづらかった。

それはこの物語がとてもセンシティブで、
人によっては過去のトラウマを掘り起こされる危険性もはらんでたから。

私の知ってる人、この手が届く中にいる人にその「対象」になってた人が
いたとは思わないし思いたくないけど、
本当にいないのか、私にはわからない。

だから、2週間弱の上演期間中、ずっと迷ってました。
どんなふうに感想を残せばいいのだろう?
どんな言葉でこの気持ちを描けばいいのだろう?

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小沢道成くんのepochman2021年夏公演は、
待望の中村中さんとの二人芝居。
「オーレリアンの兄妹」を、観てきました。
チケット予約で色々あって、期間中に3回も観るという、
ここ数年で久々の観劇回数になりましたが、
(初日に予期せぬハプニングもあったおかげで)3回とも違った気持ちで
観ることが出来ました。とてもとても、本当に素晴らしかったです。

デルタ株コロナ過の真っ只中で、席数も駅前劇場のキャパとしては
半数ちょっとぐらいしか入れられず、非常にプレミアムな二人芝居を
こんなにじっくり堪能できたのはありがたかったし、
どこにも出かけられず、フラストレーションだけが溜まっていく状況下、
私にとっても良い気分転換にもなりました。

…ただ…作品の内容は「気分転換」という内容からはかけ離れた、
とても衝撃的で、「この展開で物語を作るのか…!」という
ただただ驚くべきもので。

(お二方もインタビューとかで話ししてるから「公式」でもあるのですが)
端的に言えば、現代版「魔女のいないヘンゼルとグレーテル」。
そして現代だから、「親が子に手を出す」ということがより強く、
深くなっている家から逃げ出した兄と妹、二人の話。
おかしの家は、「お金持ちでオール電化の幸せな家」になり、
たどり着いた二人が戸惑い、悩み、そして決断する。
そんな1日にも満たない時間の、物語。

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動くセットに仕込まれた多数の舞台装置は、非常にシステマティックにいろんなものが「収納」されてて、よくもまぁこんなに仕込んだものだ…と(毎度のことだけど)関心させることしきり。
今でも「小沢くん、謎解きイベントの舞台装置を企画してくれないかなぁ」と切に願っております。

※DVDの発売も決まったし、なにより今回観れたお客様の数が「観たかった人たち」より遥かに少ないはずなので、なるべく直接的な表現は避けるつもりですが、
どうしてもネタバレしてしまう危険性が強いので、お気をつけください。※

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小沢道成くん演じるしっかり者の兄と、中村中さん演じるふわっとしたところのある妹。
(正直に言うと、最初「姉が中さんで弟が道成くん」だと思ってました(笑))
親の暴力から逃げて、たどり着いた「お金持ちの幸せそうな、別荘?」。
機能が充実しているけど人の住んでいる空気感が全くしない、奇妙な家。

人の視線を気にしすぎること。
自分が本当にやりたいことより、他人からどう見られているかを重視する兄と、
他人からどう見られているかより、自分のやりたいことを見つけたい妹。

このままではたどるであろう、自分の行く末を「見てしまった」ために、
そこから「逃げる」ことが今自分がすべきことだと決断した兄と、
兄に「そそのかされて」一緒に逃げてきたけど、どこに「進めば」いいのか、
どこに「たどり着きたい」のか、ずっと考えている妹。

「逃げたい」兄と、「進みたい」妹。
「蝶」になりたい「蛾」と、「蛾」のままでも生きていけると信じる「蛾」。

導いてきたと思いこんでた兄が、ただ「逃げたかった」事に気づき、
導いてくれたはずの兄が「正しくなかった」ことを妹は口にする。

「関係」と言う名の歪は嵐とともに大きくなって、歪が亀裂を生んで、
最後の10分。
叫びにも似た長セリフを容赦なくぶつける中村中さんと、
言葉もなく、僅かな動きと表情でただただ受け止める(しかない)小沢道成くんが、とにかく切なく、辛く、心を締め付けて。

最後の最後に、二人がした「真逆の」選択。
最後の、兄の、行動。

どちらが正しくて、どちらが間違っているかは、今はわからない。
でも、どちらも愛おしくなる。
どうか、少しでも幸せが訪れますように、と。


中村中さんのお芝居は、6年前の「ベター・ハーフ」以来に
観させていただきましたが、母性と色気と狂気を巧みに使い分け、
自分の実体験も絡む難しい役なのに、毎回凄い「力」を
魅せてくれました。素晴らしかった。
小沢道成くんは久々に終始「普通の男の子」の役でしたが、
でもだからこそ、その中で迷い苦しみ立ちすくむその佇まいが、
辛く心に押し寄せてくる、その機微は今回も流石です。

そして、こんなに深く難しい「関係性」を徹底的に突き詰めた、
小沢くんの脚本と演出は、
痛みを伴いながらも、でも決して後味が悪くならずに済みました。

何より「いろんな事を吐露して、信頼しあえる」二人だからこそ出来た物語。
二人じゃないと出来なかったエンディング。
「epochmanらしからぬ」あっさりとしたカーテンコール(それは楽日まで貫き通されてました)で、一瞬見せた道成くんの笑顔に、
私は彼の「こんな世界になってしまった、この世界でのこれからの芝居生活への、決意と覚悟」を観ました。
きっとこれ、epochmanとしての一つのターニングポイントになる作品だったはず。

だって、次は(一つ挟んで)ついに「本多劇場での一人芝居」という、
とんでもなくデカイ「怪物」と戦わなきゃいけないんですから。

まずはこんな衝撃作の制作、お疲れさまでした。
覚悟、たしかに受け取りました。
これからも追いかけていく、しがみついていく覚悟、私も出来ました。
次も、その次も楽しみにしております。

そしていつかこの舞台が、もっと気兼ねなく沢山の人に観てもらえるときに、
再演ができる事を願ってます。
(でも今回も再演するのがとっても大変そうな舞台装置でしたけどね…!)

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