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今日もフリエに逢いに行こう  ~審判さんといっしょ~

サッカーの試合で「審判経験者の方の解説付き観戦会」を行うというアイディアが浮かんだので、ツイッターでつぶやいてみたら実現してしまい、とても楽しい学びとなったというお話です。

「FULIE フリエ」は横浜FCの愛称です。かつてJリーグに存在した横浜のクラブ、横浜フリューゲルスに由来しています。サッカーに、Jリーグに、そして横浜FCに少しでも興味を抱いていただけるように。そんな願いを込めて私と家族と仲間たちが、どんな風に楽しんでいるかをお伝えしてまいります。

きっかけは『J2ですが何か!?』(以下、J2本)という同人誌です。この本はJ2リーグ各クラブのサポーターが、自身の応援するクラブの試合の観戦記を記し、さらにスタジアムやグルメ、イベントなどについてアンケート形式で回答する構成になっています。

あくまでサポーター目線で書いたファンブックではありますが、9年も続いていますので年々中身のボリュームも増しており、読みごたえのあるアーカイブになっていると思います。

私は昨年と今年に横浜FC担当として寄稿しており、そのご縁で昨年末にお呼ばれされた審判経験者の方の座談会企画(※)の際に、思いついたアイディアをツイートしてみたのでした。

(※)『J2ですが何か!? 2018 2nd Leg』に掲載



「えっ、九州?そして一体どなたかしらん…」

「いいね」程度の反応は期待していましたが、思わぬコメントがついてさすがに私も少々あせりました。何故にわざわざ九州から?

ツイッターのプロフィールを拝見すると、大学生で現在はサッカー選手兼監督であるとのこと。そして審判経験者のサガン鳥栖サポーターということも分かりました。

アニメやゲームも大好きな彼は夏のコミケで上京する予定があるので、ナイトゲームが行われる三ツ沢に行けますよ、ということだったのです。

諸々納得できた私はその後のやり取りで「怪しい人ではなさそうだ」と判断し、その後のJ2の日程の発表を待って8月10日の水戸ホーリーホック戦で観戦会を行うことに決めました。

そしていよいよ当日。

私は、サッカーライター&フォトグラファーの宇都宮徹壱さん、ヨコハマ・フットボール映画祭の実行委員長・福島成人さん、別冊少年マガジンで『いぐのべる』連載中の漫画家・高田桂さんと一緒に夏のコミケの会場である東京ビッグサイトに向かっていました。

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現地でJ2本を入手後、各々別行動でその他のブースものぞいたのですが、とある一角で私はいろれふさんとようやく直接ご挨拶することができました。彼は審判をテーマにした同人誌に寄稿しており、売り子として現地入りしていたのです。

その同人誌『推し審』には、実際に審判として活動されている方のトレーニング法や競技規則の話、そして執筆者それぞれの“推し審判員”が誰かについて記されていました。

一冊購入し細かく目を通してみると、何といろれふさんは全国で有資格者の1.3%しかいない2級審判員であり、県や九州リーグの試合でも笛を吹ける立場の方であることが判明しました。

「ガチな人だった。怪しい人ではなんて疑って失礼だったな…」

と、心で思いましたが直接は語らず、三ツ沢での待ち合わせを確認してひとまず会場を後にしました。実際、そうそうこんな恵まれた話があるものではないので、SNSでのやり取りは慎重であるに越したことはないと思います。

一足先に到着したニッパツ三ツ沢球技場には、在住・在学・在勤者の無料招待がある神奈川区民デーということもあって、キックオフを楽しみに待つ方々が待機列にズラリ。

また、今日の対戦相手である水戸ホーリーホックは、(試合開始前の段階では)4位のフリエと勝点で並ぶ5位に位置しており、初のJ1昇格を強く願う水戸サポーターも数多く訪れていました。

実は前日に私は、阿佐ヶ谷ロフトAで開催された「燃えろ!J2党」というイベントに参加していました。ちょうど水戸ホーリーホックの大特集ということで、イベントゲストにはスタジアムDJの寺田忍さん、ライターの佐藤拓也さんが来場。十数年にわたって水戸を見守り続けてきたお二人の話を堪能してきました。

かつては専用の練習場を持たず、あちこちのグラウンドをジプシーのように転々として使用していた両クラブ。フリエは2007年に一度だけJ1に所属していますが、振り返ればずいぶんと長くJ2を共に戦ってきました。

佐藤拓也さんも、元はと言えばフリエのマッチデープログラムのオフィシャルライターとして活躍された方です。今のお互いの状況、今回の対戦には感慨深いものを感じてらっしゃることでしょう。

話を戻しますと、電車の遅れもあっていろれふさんは試合開始直前に現れました。私とサポーター仲間との間に座っていただき、今夜の試合を裁く谷本涼主審のホイッスルと共に解説付き観戦会はスタートしました。

まず驚いたのは、いろれふさんの視野の広さ。主審はできるだけ選手がボールを扱っている場面の近くで、正当なプレーが行われているかを目視しようとしています。観客席からの視点でも、その見えている範囲が明らかに私たちより広いのです。

私もかれこれウン十年サッカーの試合を観戦していますが、基本的にボールを中心に2~3メートル程度の範囲しか視野に入れられていません。そしてそもそも主審の位置を気にしたことがありませんでした。

彼は主審について「位置取り、姿勢、体の向きが素晴らしい」「今のカウンター時に、ちゃんと選手について行ってる」「ボールを蹴った後の選手に対するチャージをきちんと見ていた」と次々にコメント。選手とボールと主審とを同一視野におさめていました。

特に主審のポジショニングについては、何度も言及していました。どこに立ってプレーを見ているかで、選手側のジャッジに対する反応が全く違うそうです。また、彼が普段笛を吹くアマチュアの試合に比べてプロの試合はミスが少ないため、プレーの予測がしやすい面もあるとのこと。

ちゃんと「私の位置からしっかり見えていたよ」というポジションに立ってジャッジができるよう、主審は予測と経験を頼りに、そして選手並みに体力を鍛えて動いている、ということですね。

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私たちが矢継ぎ早に「今のはファウルでは?」「イエローじゃないの?」という質問しても「今のは、~だからファウルではない」「競技規則の~に照らし合わせればイエローではありません」とスムーズに受け答えしてくれました。これも競技規則がしっかり頭の中に入っており、状況の“認知”と“判断”の早さゆえになせるワザです。

私が意外だったのが、どちらかが優勢であるというような「試合の流れ」を審判は重視していること。その流れを壊さぬようにすごく意識しているし、ファウルの時のジャッジの判断材料にしている、ということでした。

そして試合を通じて彼が訴えていたのは、「選手と一緒に試合を作る」というポリシーでした。選手たちはおおむね自分たちがファウルしたかどうかを分かっているそうです。それでも真剣勝負ですから、熱くなって我を忘れたり、相手との駆け引きでファウルすることはあります。

そういった場面で主審は「どうしたら選手に伝わるか」を意識しながら、今のファウルは“危険”であるとか“もったいない”ということを示し、コミュニケーションをとっているそうです。試合後にマッチコミッショナーと判断の是非について討論し、ノートに反省点と改善策を記録しているそうですが、その実物も見せていただきました。

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試合中、私たちの後ろからは、時折「今のはイエローだろ!」「審判、よく見ろよ!」という怒声が聞こえてきました。私自身も言い方は違えど同様の声を上げたことがありますし、応援するチームへのジャッジに対し、素人判断で多少身びいきなクレームをつけるのは、生観戦の醍醐味の一つと考えています。

ですが、今年何度かJリーグで誤審騒ぎが起きた際、あまりに攻撃的な意見がはびこり、過剰とも思える審判叩きがネットで渦巻いたことには疑問を感じていました。

Jリーグでは、DAZNとJリーグの公式チャンネルで「Jリーグジャッジリプレイ」という番組を放映し、その週で起きた“疑問の声が大きい”ジャッジに対して検証を行う取組を始めています。

それは数年前までタブー視されてきた、ジャッジへ異議を唱えることへの受け皿となる画期的な変化なのです。ただ残念なことに視聴者の番組の感想からは、印象論ではありますが、ナイスジャッジを称えるよりも審判のミスを許さない風潮を私はいまだ感じています。

「サッカーはミスのスポーツ」であるとコメントしていたのは、我らがキング・カズこと11:FW三浦知良選手。選手のミス、審判のミス。大事な試合であればあるほど、その試合に関与する人たちがミスに対して感情的になるのは自然なことだと思います。

ただ、もう少しほんの少しだけでもミスに対して寛容であれたなら。そう思えるようになるために、サポーターなりにジャッジの知識を身に着けてはどうかと考えました。思い込みや勘違いによる怒声をなくすことはできないかもしれませんが、ジャッジへの理解者が増えれば声の量を少なく、大きさを小さくする空気を醸成することはできます。

幸いこの日の谷本涼主審のジャッジは素晴らしく、ストレスを感じるシーンはほとんどありませんでした。選手たちもタフでありながらもフェアなプレーを実践してくれて、0-0のスコアレスドローではありましたが、見どころの多い試合であったという結論はいろれふさんと私で一致しています。

今回は観戦会と称しながらも、私の知り合いだけで話を聞くこぢんまりとした形で行いました。1万人を超える観客が入るような試合では、歓声が響いて隣の人までしか説明の声が届かず、大勢での観戦会は難しいかもしれません。

また、上位対決のような試合ですと応援にも熱が入り、残り15分くらいになると私も冷静に話を聞ける状況ではなくなっていたかなと思います。とはいえ、社会人クラブの監督兼選手でもあるいろれふさんの視点は多彩で、ほとんどのシーンで互いにしゃべり続け、私は楽しみながら学びを得ることができました。

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試合前にはスタジアムの外で夏祭りが開催され、縁日の会場では射的やスーパーボールすくいを楽しむ親子の姿が多くみられました。バックスタンドのコンコースには選手のサイン入り提灯が吊るされ、夏の夜に彩りを添えていました。

サポーターたちも、応援を盛り上げるべく青いフラッグを大量に集めて貸し出したり、道行く人に大きな声で歌詞カードの配布を呼びかけていました。試合中はいつも通り選手たちを鼓舞するチャントを声高らかに歌い続け、スタジアムを非日常空間に変えていました。

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そして、双方の選手たちは勝利を目指して懸命に闘い、上位対決にふさわしいプレーを披露してくれました。主審と副審も、試合の流れを阻害しないようなジャッジを示し、選手たちが気持ちよくプレーできる好アシストをしていたと感じました。

それぞれの立場、役割は異なりますが、私たちは皆が心から楽しめて熱くなれる“フットボール”というエンターテインメントを一緒になって作り上げています。それはJリーグが世界に誇れる文化であり、私が愛してやまない理由でもあるのです。

J2党にも参加されていた水戸ホーリーホックの営業担当・眞田さんは、自らの仕事とチームの成績はリンクしていると考え、フリエの運営から学びを得られたとツイートしています。

どちらかが笑えばどちらかが悲しむ、厳しい勝負の世界ではありますが、若い人たちからはそれも承知の上でより楽しくより素晴らしいものにしようという気概を感じています。

もしかすると私のようなおじさんは、彼らの邪魔をすることなくひたすらおとなしく観戦と応援を楽しんでお金さえ払っていれば良いのかもしれません。でも、ごめんさい、もうちょっとだけ一緒に楽しませてもらえますでしょうか。

老若男女を問わず、フットボールに関わる様々な人たちから教えを請い学びを得ることで、さらにフットボールの奥深さを楽しめる喜びに遅まきながら気が付いてしまったのです。これは当分やめられそうにありません。

いろれふさん、見事な解説お疲れ様でした。そして子どもたちにも優しくして下さって本当にありがとうございました。いただいたフェアプレーのワッペン、娘のカバンに貼り付けようかなと考えております。また、お会いしましょう!

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