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#37 遠くに見えるだけ
まだまだ遠くて霞む。
照準の合わない死期。
いつ死ぬかだなんて
誰にも分からないこと。
だから日常を過ごしていると、
「死」という言葉から遠ざかる。
死期が霞んでしまうのは、
遠くにあるからではなく。
「死」という不確かなものを
一度も経験したことがないからなのだと。
だから遠くに見えるだけで、
実は足元でひそひそと笑っている悪魔がいたりして。
優しさに満ちた人を先に
あの世へ連れて行くのだと聞いた。
そのほうが得られる
悲しみの数が多くなるからなのだと。
「死」を恐ろしいと思うのは
二度と触れられなく話せないからだと思う。
だから話すことができる「死」ならば、
少しは恐ろしさも減少する気がする。
無理だけど。無理だけど。
遠くに見えるだけ。
明日がその日かもしれない。