デザインプロセスは確立していないという真実
ジェンガ、最近やったことある?木のブロックを一本ずつ抜いて崩れないように積み上げていく、あのゲーム。手を止めてどこを抜くべきか考える時間が楽しい。
私はジェンガをする時に、失敗したデザインプロセスについて思い出してしまう。崩れないように慎重に進める感覚が、ちょっとだけ似ているから。
ジェンガのゴールは崩れること。デザインプロセスはその逆だ。
崩れないように支えながら、どの順番で積み上げるのが最善かを探す作業だ。プロセスの目的を間違えれば、あっという間に全てが崩れ去る。
問題なのは、たとえば「成功した会社がやっていたから」といって、その方法をそのまま真似すること。「あのA社がこれをやったらうまくいったらしいよ」と聞くと、つい飛びついてしまう。でも、条件や目指す結果、さらにはユーザーの特性まで、自分のケースと同じなんてことはない。それに気づかないまま真似してしまうと、崩れるのは目に見えている。
ジェンガに例えるなら、前のプレイヤーが左のブロックを抜いて成功したからといって、「じゃあ同じ列の右側を抜こう」とする行動に似ている。でも、それが崩れないとは限らない。むしろ、その一本が重要な支えだったとしたら?だから、今の状況でどのブロックを抜けばいいのかを考えなくてはならない。
デザインプロセスに正解なんてない。だけど、だからこそ、崩れないための「勝つためのプロセス」を探しながら進む価値がある。
ー デザインプロセスの不確実性
デザインプロセスは未だ確立されていない。ただしセオリーはある。「これをやれば大丈夫」という魔法のようなフレームワークは存在しないんだ。
たとえば、ペルソナやジャーニーマップ。これらは確かに便利だし、プロジェクトを進める上での道標になる。でも、それが絶対の正解を保証するわけじゃない。たとえどれだけ入念にリサーチして作り上げても、そのペルソナがユーザー全体の声を正確に代弁しているかどうかは、誰にもわからない。
もしも、その正解が存在するなら、どのサービスも成功している。私たちデザイナーは忘れてはいけない。それは、たくさんの屍の上であり、巨人の方に乗るように今でもデザインプロセスに取り組んでいる。
そして、ユーザーリサーチをしたからといって、それだけで成功するプロダクトが生まれるわけでもない。ユーザー自身が自分のニーズを完全に理解しているわけじゃないからだ。「これが欲しい」と言っていたものが実際には使われなかったり、「あったらいいな」と言われたアイデアが全体のニーズを代表していなかったりすることも多い。結局のところ、ユーザーの声を集めても、それをどう解釈し、形にするかで結果は大きく変わる。
デザインプロセスが難しいのは、そうした不確実性が常につきまとうからだ。私たちは予測を立てて進むけど、その予測が当たるかどうかはやってみなければわからない。ある意味、競馬のようなものかもしれない。いくらデータを揃えても、最終的には信じてただ祈りを捧げるしかない。
だからこそ、大事なのは「どう進むか」だと思う。完璧を求めるよりも、不確実性を受け入れて前に進むこと。試行錯誤の中で見えてくるものに柔軟に対応できるプロセスを作ること。それがデザインにおいて最も重要な姿勢なんじゃないかと思う。
ー 不確実性をどう扱うべきか
不確実性を前提としたデザインプロセスで、一体どう進むべきなのか。ここが永遠の課題だ。でも、ひとつだけ確かなのは、「進めない理由を探して止まる」ことだけは避けなければいけないということ。
まず、不確実性を受け入れた上で「予測の精度を高める」ことが大事だ。全てを完璧に予測するのは無理でも、小さなテストを積み重ねることで、少しずつ「可能性の高い仮説」を絞り込むことはできる。
例えば、プロトタイプを作って実際にユーザーに触れてもらい、フィードバックをもらう。それを繰り返すことで、大きな失敗を避けつつ、進むべき道を探ることができる。
次に、「間違いから学ぶ」姿勢が重要だ。デザインプロセスは試行錯誤の連続だし、どんなに慎重に進めても失敗することはある。だけど、その失敗をただの過去の過ちで終わらせるのはもったいない。失敗の中には、次の成功のヒントが隠れていることが多い。なぜうまくいかなかったのか、その原因を突き止めることで、次のプロセスの精度が上がる。
そして、最後に「魂を込めること」。不確実性の中で進むには、冷静なデータ分析だけでは足りない。そこには、デザインに対する信念や、届けたい体験への強い想いが必要だ。「このデザインがどうユーザーの心に響くのか」を考え抜き、その先にある感情や体験を想像すること。どんな言葉でもいい。「深層心理に突き刺す」「デザインでぶん殴る」それが、プロセスをリードするための羅針盤になる。
デザインプロセスは、結局のところ、未知の領域を探検するようなものだ。地図はないし、道しるべも曖昧。
でも、コンパスはある。
足元を見ながら進むことで新しい道を切り開くことができる。不確実性をどう扱うかが、デザインの成否を分ける。だからこそ、試行錯誤を恐れず、一歩ずつ進む姿勢を持つことが大切なんだと思う。
ー 成功も失敗もあるプロセス
デザインプロセスの面白さは、不確実性を受け入れるだけでなく、そこから何を学ぶかにあると思う。だからこそ、実際のプロジェクトでは成功も失敗も経験することになる。いくつかのエピソードを通して、その学びを共有したい。
あるプロジェクトでは、ユーザーリサーチを重ね、丁寧にペルソナを作り、綿密な計画を立てた。完璧に見えるスタートだったが、リリース後の反応は冷ややかだった。「誰に向けたサービスかわからない」とか、「使い勝手が悪い」といった声が多かった。
原因を振り返ると、リサーチ段階で「理想的なユーザー像」を重視しすぎて、実際のユーザーの行動や感情を捉えきれていなかった。こちらの都合の良いペルソナ、それにあったユーザー、Yesを誘導するようなインタビュー。それをリアルなデータとして扱うと何が起きるかは明白だ。やった気になって次へ、それが成功を遠ざけた一因だった。
逆に、ほとんど準備ができていない状態からスタートし、手探りで進んだプロジェクトもあった。こちらは、小さなプロトタイプを次々にユーザーに試してもらい、リアルタイムで修正を繰り返した。すると、「こんな機能が欲しい」という声が大半の人から出てきた。イシューを深掘りし、明確になり、それを反映させることで、ユーザーから好意的な言葉を得ることができた。計画は未熟だったけど、その場で柔軟に対応したことで成功に繋がった例だ。
これらの経験から学んだのは、「正解を予測すること」に時間をかけすぎるよりも、「間違いを早く見つけること」が重要だということだ。間違いを早く見つければ、それを修正する時間が確保できる。そのためには、仮説を素早く検証し、結果を基に次のステップを考えるプロセスが欠かせない。
また、数字の基準を作ることも大切だ。どんなに小さなプロトタイプでも、何をもって「良い」とするかを決めておかないと、進むべき道がぼやけてしまう。簡単なアナリティクスツールを埋め込んで、ユーザーの行動や反応を把握するだけでも、大きなヒントが得られる。数字は嘘をつかない。だからこそ、そこに立ち返る仕組みを持つことが重要だと思う。
「今は数字が取れないね、他の施策をしよう」そういうPdMもいるかもしれないが、この一発で数字を得られることができるのなら安いもんだ。必要な数字は積極的に入れていこう。
成功も失敗も、デザインプロセスにはつきものだ。でも、それをどう受け止め、次に繋げていくか。それこそが、デザイナーとしての腕の見せどころだと思う。
ー 後日談:正解のないプロセスで戦うために
ある日、上司がこう言った。「プロセスを作るのはいいけど、正解なんてないからね。」その言葉に少し戸惑ったのを覚えている。「散々やったのにこの人何言ってるんだ?」「正解がないって、どういうことだろう?」と。その後のリリースで、彼の言葉の意味が少しだけわかった気がする。
私たちはリリース直後の数字に一喜一憂していた。ユーザーの声も拾い集めたけれど、思った以上にネガティブな反応が多かった。「やった感」だけがあって、結果は裏目に出ることばかり。あれほど熱心に作ったペルソナも、いざ蓋を開けてみると、あまり役に立たなかった。仮説が机上の空論だったことに気づくのに、時間はかからなかった。
ここでの学びは、リリース前、立ち上げ状態でのペルソナの作り込みは無意味だということ。初手でやることはあくまで仮説としての「ユーザーの要求と制限事項」ただそれだけのことだ。
その後の分析で、私たちは一つの結論にたどり着いた。その上司は私たちの想いをうまく言語化してくれた。
「仮説で数字に向き合う時間は、アイデアの鮮度を奪う。俺らはデザイナーだから、デザインをしよう。」
何かを証明しようとするあまり、プロセスそのものに固執してしまうと、肝心の発想や柔軟性が失われてしまう。
ただ、それでもプロセスが不要だと言うつもりはない。むしろ、迷った時にはセオリーに飛びつく勇気も必要だと思う。例えば、迷宮の中で出口が見えないとき、地図に従うことで一歩を踏み出せることもある。それが間違いだったとしても、やり直す方法はあるから。ジェンガだって崩れるけれど、再び積み上げるのは意外と簡単だったりする。
「崩れるかもしれないけど、新しい形が見えるかもしれない。」そんな気持ちで進んだ結果、私たちはコアユーザーに焦点を絞り直した。その上で、サブユーザー層も取り入れた新しいペルソナを作成し、より現実的な施策を打ち出した。それが、再スタートのきっかけになった。
ところでジェンガの意味って知ってる?「破壊と再生」って意味だよ。