TVアニメ「SYNDUALITY Noir」オリジナルサウンドトラック全曲解説
先日5/27に配信開始された、中山が音楽を担当させていただいた
TVアニメ「SYNDUALITY Noir」オリジナルサウンドトラック。
https://lnk.to/LZC-2750
1人でも、1秒でも多くの人に聴いてもらえたら嬉しいなということで
サントラ全曲解説(ってほど大層なものじゃないし、ただの一言メモだったりするけど)を珍しく書いてみました。
今回の劇伴に限らず、何かの作品に対しての音楽を作ってる最中っていうのは大体、
世界一作品のことを考えて作ってる!!!って思い込めるくらい入れ込んでるんだけど
終わってみると反動で毎回ほとんど何も覚えてなかったりするので
今聴き返すと、作ったものも自分の作品というより、携わったみんなの作品みたいな感じで他人事のように「すげー!」とか思って聞こえるようになってしまっていたりする。(え、これどうやって作ったの?って毎回思うし。)
なのでそういうちょっと他人事な目線で書いてるかもですがそれを踏まえて、サントラのお供にでも読んでもらえたら!
あと、始まりはこういうテイで作り始めた!くらいの温度感の半分メモみたいな文章なので
実際の劇中の使われ方とかで意味合いも変わってっいったりもしてるかもだけど、それもまたTVアニメ版の音楽の面白いところなので!
■M01 交響詩≪イストワール≫
SYNDUALITY Noirの冒険の世界を象徴する、
カナタの夢の象徴としてのイストワール(理想郷)を描いた曲。
一発でこれだ!ってわかるファンファーレっぽさが欲しかった。
何曲か軸となる曲を作って、ある程度自分の中でSYNDUALITY Noirの音楽の世界観が固まってきてから満を持して書いたから作曲自体はほとんど考えることなく、気づいたらするっとできてた。
ただ、そのメロディを作品にふさわしい服を着せる(編曲)のにめーーちゃめちゃ時間がかかった。その甲斐もあってメインテーマにふさわしい熱量に仕上がってるはず!
■M02 Y’all Armed?
コフィンに乗ってのバトル曲その1。
1話の初めに流れてたやつ。
荒々しくワイルドで、でもポップでいてメカ的な書き込みもありつつ
そういうコフィンのフォルムを音楽にも反映させた。
この作品におけるバトル曲は
コフィンの戦場を駆け回るスピード感(それでいてどこかしらコミカルな動き)にしっくりくるリズムのパターン・テンポを試行錯誤して、その都度いくつか発明していった。
この曲でいうとドンッタタンドンッタタンってドラムのパターンがすごくコフィンぽいなあと思う。
あとギターとかのザラザラした砂っぽい感じとシンセのオーバーテクノロジー感が混ざりあった色彩とか。
■M03 Noir
ノワールのテーマ曲。
不思議さとどこかのんびりとしたつかめない感じ。
部屋の奥に眠ってた古びた機械仕掛けの時計みたいなイメージを音楽に。
■M04 楽園に届く街
ロックタウンのテーマ。
険しい世界でもたくましく、楽観的に生きる人々の匂いを感じられるような曲がよかった。
ドリフターサイドにつける音楽はロックって決めてたから
けだるいブルースっぽい雰囲気の中にも
後半に行くにつれちょいオルタナな匂いを匂わせつつ。
■M05 いつか、彼方
カナタのテーマ。
どこまでも夢を信じてうたがわない、
つたなさ・ひたむきさ。
■M06 Boys
トキオ(ドリフター)のテーマ曲。
とにかく勢いで熱く熱く、細えこたあいいんだよの精神で
いろんなものをぶっ飛ばせる熱量の曲を目指した。
サビのメロディをギターで弾いてる時相当熱くなれてたから間違ってないはず。
途中のhey!ho!みたいなコールアンドレスポンスは
ドリフターの魂のサウンドタグとして他の曲にも何度か登場する。
ドッタドッタいいながらドライブしていくビートと
汚いギターの質感がすごくドリフター的に出来たと思う。
■M07 Enders:Gazer
エンダーズ曲その1。
エンダーズの攻撃で真綿で締め付けられるような感じ、みたいな打ち合わせでのオーダーから生まれた。
エンダーズ系の曲はデジタルなんだけど得体の知れない感じ
あんまりジャンル的にカテゴライズしづらくて未来的なハイパーな感じを目指した。
テンション上げすぎず下げすぎずな無機質な緊張感がエンダーズ的。
■M08 One Foot In The Coffin
気づけばサントラ最長の3:35とかになってて、レコーディング時の譜面が一曲だけ巻き物くらいあった。
でもほぼ1、2テイクとかで完璧に演奏していただいた室屋ストリングスの皆さんは本当すごい。(毎度本当にお世話になっております)
タイトルは死にかけを意味する「One Foot In The Grave」のもじり。
棺桶に片足つっこんでる。
■M09 My Name Is Electric (feat. Eri Sasaki)
カナタとノワールが決めるとこ決めるときの曲。
1話のめっちゃいいところで使ってもらえたので印象深い。
この作品の劇伴において、曲中の声はメイガスの象徴みたいな意味合いの使い方をしてる。
この曲に限らずだけどSYNDUALITY Noirの音楽は
作中の設定が、一度文明が崩壊した後に人々が地上に再建したガラパゴスな世界みたいな感じだから(カナタがかき集めてたガラクタみたいに)
あんまり何かしらの文脈にのっとった音楽はそぐわないなと思って
音楽もいろんなジャンルをごった煮にしてガラパゴス的な独自の発展を遂げた音世界を目指した。
■M10 Baby Talk
ガレージでイキイキと作業するカナタを母性で見守る感じの目線で作った。
劇中では結構いろんな使い方してもらって小回りが効いてた。
カナタが好きなことに没頭して才を発揮してるところのイメージ。
■M11 良き隣人のためのメヌエット
ノワールの独特な間とズレ。
間の抜けたかんじだけど
ミステリアスなちょっとした上品な雰囲気は崩さない。そんなバランス。
■M12 Raw Vegetables
ちゃんとSYNDUALITY Noirの世界の匂いがするコミカルさに真っ向から向き合った曲。いい役割してる。
■M13 Ride The Lightning
ドリフターたちの走り屋的な側面に焦点を当てた曲。疾走感!
■M14 Dirty Bastard
ランゲのデコトラとか、ああいうバカみたいにデカい機械が爆走する様を
そのままリズムにできないかなってアイディアから生まれた。
この曲に限らずだけど、
自分が劇伴曲を作るときはイメージとか形とか匂いとか風景をそのまま絵に描くみたいな感じで音符に置き換えていくような感じでやってることが多い。
あとこのリズムすごい気に入ってる。ちょっとマッドマックスっぽくて。
■ M15 自分で勝手になるんだよ
この作品のために1番初めに作ったデモ。
他の曲より結構青臭いくらいまっすぐ熱い感じなんだけど、
今振り返るとそれもまたカナタたちにはピッタリな気がする。
■M16 デザイアネスト
なんかすごいお宝とか風景に出会ってワンダー!って感じの曲。
■M17 Neon Fish
決して置きに行った大ボケじゃなくて
まっすぐこういうジャンルのムーディーな音楽をやった結果、
その真面目さゆえにコミカルに聞こえるっていうラインを目指した。
ちゃんと聞くと実は普通にかっこいいと思う。
多分冒頭の2、3秒の印象に持ってかれてるだけ…(演出の妙)
■M18 Drift & Die
大暴れジャズ。
本当はテナーだかアルトサックスがリード楽器の予定だったんだけど
譜面のトラブルでレコーディング中に急遽ソプラノサックスで演奏してもらうことになった。
なので当初イメージしてた音色(音域)じゃなくなったんだけど
結果的にその鉄パイプみたいな音色のジャンク感が
コフィンのジャンクなメカメカしさにマッチしててすごくいいなと思う。
■M19 仮面の告白
黒仮面の登場時の例の曲。
先ほどと同じく、決してボケにはいってない。
大真面目に正義(規則・クラシック)を謳って、結果それが世界からずれててコミカルになっちゃってるっていう角度の笑い。〜なぜか後半気づくと真面目でシリアスなシーンでかかってるのに違和感ないっていう演出の妙だと思った。
■M20 Enders : Chaser
エンダーズ曲その2。
冒頭は緊急警報的なムードも漂わせつつ。
この調性というかコード感の絶妙にハイパーな浮遊感と
音像をどこかのソリッドなジャンルに着地させず、
抽象的な勢いのまま野放しにしてる感じがエンダーズっぽくてよき。
■M21 Violin Concerto No.1 “GILBOW”
黒仮面(ギルボウ)のバトル曲。
本当は初めに別楽曲(M40)を書いて提出させてもらったんだけど
“黒っぽく聞こえるから白っぽい解釈で(意訳)“と監督からリクエストをいただき、「戦闘曲だけど白」っていうのが自分の中の引き出しに当初なくて、レコーディングも迫る中、俺そんなんできるんかな…って結構追い詰められてた記憶。
でも人間覚悟を決めれば何かしらの回答が必ず生まれるもので
修羅場を潜り抜けたらちゃんとこの曲ができてた。
結果しっかり白くて孤高で高潔な音楽になっててえらい。
そういう新しい引き出しが否応なしに開かれて
成長できるのも劇伴制作期間の喜びや!!
■M22 サテライトロマンス
人口の街の中でのロマンス、っていう
この作品なりのカジュアルなロマンスを描けてる気がする。
■M23 Singin’ in the Blueschist
登場人物の内省的な部分。
荒廃したサバンナで真夜中に動物が遠吠えで鳴いてるみたいなイメージ。
■M24 A.D.2242
青い雨(ブルーシスト)が覆うこの世界・時代のテーマ曲。
根底に流れる悲劇なりドラマなりを大きな時間の流れで、どこか退廃的かつ神秘的なムードを漂わせつつやりたかった。
後半のストリングスがゆっくりと盛り上がってくにつれピアノとかその他のいろんな音符がポロポロと零れ落ちていく表現が気に入ってる。
諸行無常って感じで。
■M25 Wild Daisy
荒廃した世界に咲く本物の花のイメージ。安らぎ。
■M26 水平線はまだ見えない
広大なサバンナを風を感じながら駆け抜けるキャリアーのイメージ。
できるだけ気持ちのいい風がちゃんと曲に吹き抜けるようにしたかった。
■M27 Ideal
何か掴みきれないものが謎めいてて、暗躍する感じ。
最後のミステリアスな謎和音が
1話のアバン終わり?というかタイトルバックだかでかかってたのがすごい印象的。
あそこで使われたことで逆にこの和音の意外な説得力に気づかされた。
■ M28 Charm Assault!!!
異端のものたちの襲撃!って感じで
邪術を感じさせるアバンギャルドな音楽にした。
これ今聞くとどういう発想?ってなる。
後に聞いて再現性がなさそうなアイディアには大体乗っかることにしてる。
■M29 Blackbox Overload
ミステルの発現。雷が迸るように。
■M30 404 Kaleidoscope
AIに芽生えた心のさざめき、みたいなものの形をそのまま音楽に置き換えたかった。
■M31 The Silverstorm
シルバーストームの無機質でありながら巨大で暴力的な力を描いた。
小さなエンダーズたちが集まって巨大なものを構成しているあのサイズ感というかパースがうまいこと音楽に落とし込めてると思う。
■M32 Storm of A.I.
シルバーストーム戦その2。
なので同じくちょっとシーケンスっぽいメカニカルなフレーズ多め。
このモード感もうっすらコフィンバトル曲の際に毎度忍ばせてる。
後半展開がガラって変わるのがダイナミックで好き。
■ M33 再び地上で生きる希望
だいぶ初めの方に作った曲。
この曲ができたことでこの作品の
人々の心情を表現する和音感
というか色彩が掴めてきた記憶がある。
■ M34 D.O.P.E
ドリフターたちのちょっとアングラな遊びのあるムードに対応したヒップホップ的なやつがどうしても作りたくて作ったやつ。
■M35 電気信号じゃない
原曲(YOU & I)のメロディを損なわずに
どうやってこの作品内のハーモニックランゲージに落とし込むかで結構悩んだ。結果気に入ってる!
■M36 Amasia
地下で蠢く巨大な野望って感じ。
後半の不穏さがサイコサスペンス感あっていい感じ。
■M37 Dream or Desire?
とにかくゴージャスに!
実は結構音楽としての書き込みがすごくてだいぶ聞き応えもある。
■M38 Rocketboy Kanata No.37
劇中未使用な気がするけど見落としてたらごめん!
でもめちゃめちゃドリフターらしさを表現できてると思うお気に入りの一曲。
馬鹿馬鹿しさ。ハチャメチャさ。荒々しさ。スピード感。暑苦しさの全部いり!
■M39 Sun Goes Down(ロックタウンに陽は沈む)
好き放題広げた音楽世界の憩いになるようなチルなムードが欲しくて作ったやつ。
■ M40 Violin Concerto No.2 ”Black Swan”
こっちの曲が黒仮面のバトル曲として一番初めに作った曲。
確かに黒って感じする。
なのでM21と双子みたいな感じの構造になってる。
本編後半の満を持してのカナタとマハトの一騎打ちっていうすごい盛り上がるシーンで使ってもらえてだいぶ上がった!
■M41 Embers
いなくなってしまったものへのレクイエム。
■M42 楽園追放 Ⅰ. 深淵より愛を込めて
イデアール編 三部作その1。
仄暗い暗闇で息を潜める歪んだ愛情みたいなイメージ。
あとクリスタルっぽい壊れやすそうな儚いイメージも散りばめた。
この辺りのシナリオを読んでイデアール側の空気感を想像しながらピアノを触ってたときに、偶然独特な循環の仕方で完結するコード進行のモチーフを見つけた。それがすごくイデアールの思想とリンクして聞こえたのでこのモチーフで広げて行ってみようというアイディアからM42〜M44の3つのバリエーションを作った。
■M43 楽園追放 Ⅱ. イデアールチルドレン
イデアール三部作その2。
作られた箱庭。ユートピアのようなディストピア。
ちょっとシニカルな目線で昔を回想する雰囲気。
■M44 楽園追放 Ⅲ. Dies
イデアール三部作その3。
いろんな運命が交錯してすれ違う運命の分岐点。
個人的な話だけどこれまででいっちばんよくかけてる弦だと思う。
2期分の音楽からストリングスの編成もだいぶ大型になっててそれも効いてる。
ミックスもめちゃ良い!(藤巻さんいつも本当にありがとうございます)
■M45 永遠に初めまして
シエルの逃れられない宿命について。
禁断の思いが曲からえらく滲み出てる。
このころだいぶ制作も後半でゾーンに入ってた。
それを形にする技術の面での苦労は相変わらずすごいするんだけど
自分の中でもうSYNDUALITY Noirの音楽が一人歩きしだしてたから作曲自体はするする出来て、あとはそれを追っかけてく感じの日々で幸せだった記憶。
劇伴制作の95%くらいの生みの苦しみも同じように、そういう時間で一気に浄化されて毎回忘れちゃうんよな。
そんで時間が経つとまた絶対やりたい!!!って毎回なってる。
やりたい!!
■M46 Lament
大きな悲劇。死の予感。
■M47 虹はもう見えない
タイトル通り。いなくなった場所にこそ気配を感じるみたいな、間を大事に。
■M48 果たせなかった夢の続きを
パスカルとミステルの旅路。
悠大な時間と愛情を感じられるように。
レコーディングのとき自分が楽譜に書いてた音符より遥かに
愛情たっぷりに素敵に表現してもらえてすごい感動した。
■M49 Eureka!
ようやく見つけたイストワール
その神秘的で圧倒的なさま。
巨大な惑星がちっぽけな生き物をゆっくりと横切っていくような風景を音楽にした。
■M50 Human Archive
イストワール曲その2。
その実態は意外と寂れてて、でも神秘的で
廃墟と化した神殿、みたいなイメージ。
そこに人類が残していった歴史だけが埃っぽく漂っているみたいな風景の音楽。
■M51 The Game changer
イデアールサイドの楽曲はオーケストラ系でまとめてるんだけど
その中でもヴァイスハイトの曲だけは
どうしてももっと異次元で型破りな禍々しさが欲しくて
音楽でどうやってそこにリーチできるかをだいぶ試行錯誤した。
なんか8パターンくらい作った気がするけど全部没にしてこれだ!ってなった一曲。なんかこう、次元がブルブル震えるみたいな感じのリズムの表現がいい感じ。
■M52 Eclipse
ラストバトル曲。
善悪とかじゃなく、それぞれの正義に基づいた力の衝突。
後半は世界の秩序が崩れていく雰囲気で。
製作中、脚本を読ませてもらってこっちが勝手にイメージしてた通りの位置で本編でこの曲が流れ始めて頭が一瞬バグった思い出。
たまにそういうクリエイティブ的に通じ合った!みたいな瞬間に出会えるとなんか嬉しい。
■M53 STAND BY YOU
制作終盤、さんざん重要どころに壮大で重たいオーケストラ曲が続いたけど
なんだかんだ結局のところ、小難しいこたあいいんだよ!ってマインドが芽生えてきた。
この作品には、最後はシンプルな愛が全てをぶっ飛ばして勝つ!っていう構図であって欲しかったので、できるだけキッズな気持ちで最後に熱くなれるロックを作った。
後半の展開が熱くて熱くて好き!
■M54 君を分かりたい
大団円。家族みたいな絆。タイトルはアイレの名歌詞より引用。
以上です!たくさん聴いてね!!!
感想なんかも聞かせてもらえたらものすごい喜びます!!!
中山真斗