マンホールからベンガルトラまで その13
ガイドの重要さ
ライノアップルという実がある。
ライノ、つまりサイが好む果実だ。
人間には食べられないみたいだが、サイにとってはリンゴのように美味しいらしい。
川には昨日の大雨で流されてきたライノアップルがたくさん流れていて、川岸に溜まっていた。
川の流れがない所にプカプカ浮いている。
黄緑色の実はピンポン玉くらいの大きさで可愛らしい。
瑞々しくて美味しそうにも見える。食べられないのが残念だ。
サイにとっては食べ放題の天国のような所なんだろうな。
虎に会い損ねた私達はその後、川の近くで小休憩していた。
「もうすぐ今回の宿泊する村がある。身体は大丈夫か?」
ラージエンドラはいつも私を気にかけてくれる。
確かに怪我をしてるし、昼ご飯も残したから心配しちゃうよな。
ご飯は好みの問題なんだけど。
大丈夫だと答えるともうすぐだから頑張れと言ってくれた。
出会いは突然やってきた。
森を抜けると道なき道から、いつの間にかウォーキングルートに戻っていたようで高い草が両脇に壁のように生えている道に出た。直線の一本道だ。
そこを少し歩いた時だった。
「ライノッ‼︎ 」ラージエンドラが小さく叫ぶ。
目の前にインドサイが現れた。
大きい身体が草からヌッと出ている。
サイまでは三十メートル以上離れているが、一本道で逃げる事は出来ない。確か逃げる時にはジグザグに逃げろと言われた気がするけど、ここじゃあ逃げられないじゃん‼︎
と焦っているところに「早く写真を撮れ!」と急かされた。
え、この状況で写真撮るの?逃げなくていいの?
早く早くと背中を押されるので、取り敢えずカメラを構える。
サイも驚いているのか、さっきから同じのまま止まっている。
右側の草を雰囲気としてぼかしで入れてシャッターを切る。
この一本道では写真に変化をつけづらい。
動くのを待とう。
と思ったらこちらへ向かってきた。
最初はゆっくりやがてドスドスとこちらへ走ってくる。
突進‼︎ 攻撃対象決定⁉︎
「ひえーっ!」及び腰で私はもう撮影どころではなくなってしまった。
ガイドさん、どうしたらいいんですか⁉︎
と二人を見るとずいっとガイド達は前に出てくれた。
そして口笛とも唸り声ともつかない声を出した。
サイがピタッと止まる。
さらに前に出て再びその声を出すとサイは回れ右をして逆方向へと走り去っていった。
なんじゃこりゃー、魔法のようだ!すごいすごい!
サイはそのまま草むらの中へとガサガサ音を立てて入って行き、見えなくなっていった。
私が安心して「助けてくれてありがとう!」と言いながらサイが見えなくなった方に向かおうとしたら、「ストップ!」と止められた。
不思議に思いながら止まって二人がやる事を見ていると、その辺に落ちている石を拾っている。
そしておもむろにサイの消えていった草むらの方に近づくと、そこに向かってせーので一斉に石を投げつけた。
すると大きな唸り声と共にドタドタとサイが逃げていく声が聞こえた。
徐々にその音が小さくなっていく。
完全に音が聞こえなくなってから「もう大丈夫。」とラージエンドラが振り返って笑顔を見せた。
え、サイがまだそこにいたのか!
どうやらサイは逃げたと見せかけて草むらに隠れていたようで、私達がその前を通る時に襲い掛かるつもりだったのだ。
それを見通していたガイド達は石を拾って投げたということらしい。
なんてこった。うわー。
このシーンはガイドがいなければ、確実にやられてたな。
やばい状況だったことが後からわかって一気に冷や汗が噴き出る。
それと同時にガイド達の頼もしさと重要性を実感した出来事だった。
しかし、サイってこんな罠を仕掛けてくるとは案外頭がいいんだな。