「普通」を身に纏えることの凄さ(映画「ハケンアニメ!」を観て)
仕事の休みをとったので、映画「ハケンアニメ!」を観てきた。
吉岡里帆さんのInstagramを見て知ったこの作品。
辻村深月さんの原作小説を映画化した作品だが、原作読んだことはなく、アニメにもさっぱり造詣が深くない自分。アニメ制作の現場を舞台とした群像劇との前情報に、おそらく知識が少なくても観れるだろうと思い観に行った。
物語は天才監督として注目を集める王子千晴(中村倫也)のアニメに触れたことがきっかけで、公務員から転職してアニメ制作の現場へ飛び込んだ主人公・斎藤瞳(吉岡里帆)がアニメで"覇権(ハケン)"を取ろうと奮闘する姿が描かれる。
「王子千晴監督を超える作品を作りたい」と宣言した面接から7年、主人公の瞳は初めて監督になった。しかも、そのアニメの放送枠は他局で王子が監督を務めるアニメが放送される。映画は新人・斎藤監督vs天才・王子監督の構図で進んでいく。
1クールだけでも数え切れないほどのアニメが登場するなかで、そのトップの座を獲るというのはなかなかできることではない。そのなかで、放送局同士、製作陣同士のライバル視、双方がチーム内で混沌とする場面、成長シーンが垣間見える。
冒頭に書いた通り、自分はそんなにアニメに詳しくなくて、観るようになったのもこの3年くらいだ。最近でこそ、「鬼滅の刃」や「SPY×FAMILY」などその時々で話題になってるものを観るようになったが、元々アニメ・マンガを通らずに生きてきてしまったので、代表的なものでさえストーリーをしっかりと理解しているものは少ない。
そんな自分にとっても、アニメ制作の現場というのはこんなにも気の遠くなるような工程、スタッフを経て世の中に出ているのか……と胸に刺さり、分かりやすい。前半では自信なさげだった主人公・斎藤瞳が監督として1クールの間に成長して製作陣を巻き込んで最高のアニメづくりに打ち込んでいく姿、さらには、憧れの存在である王子のアニメに視聴率でも肉薄するシーンがカタルシスとして描かれる。
自分自身がこの映画を観ていて凄いと感じたのは、吉岡里帆さんの演技だった。「演技」というよりは、「出立ち」と表す方が適切かもしれない。
物語前半の「自信なさげ」を身に纏っているかのような様相、目つき、表情、吃るような口調はいつも目にしているような"吉岡里帆"ではない。細部の演出は誇張しているとしても、その出立ちは自信のない仕事をしている時ってこんな感じになってしまうよな、と自分や同世代の友人に重ねてしまうほどのリアリティーを感じた。
数々のドラマや映画に出演する俳優やグラビアアイドルとして、言ってしまえば「華のある」存在でありながら、その華を一切感じない「普通」になれるのは彼女が辿ってきた経験であり、演技力なのだと思う。
瞳が電車に乗っているときに、SNSの投稿による人々の感想、ニュースが車窓に可視化されるシーンが何度も出てくる。最初はネットやSNSの声を出すときによくある演出や、「竜とそばかすの姫」のメタバース的な捉え方だったが、世間からのプレッシャーを感じるときは本当にあんなふうに見えるというのを思い出した。
思い出した、と言ってもそれほどのことを本当に感じたことはないけれども、学生時代の活動で似たような心境になったことはある。世間の目、声が眼前に張り出されて、視野がそれに押し潰されそうになってしまうような。
瞳は本当にそんなふうに見えたのだろう。
この作品は「アニメ制作」を題材としているが、コンテンツを作る者としては同感する部分は多かった。自信のない自分は本当にこれでいいのか、好きなことだけでなく仕事としてあらゆる調整をしなくてはいけないこと、誰かの後押しでちょっと頑張れること。
そうやって、たくさんの人と関わりながら仕事は続いてゆく。個人的に仕事で自信をなくしそうな時に観たからこそ、ちょっと元気を貰えた。
そんな休日の映画鑑賞、備忘録。