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僕に魔法をかけてくれてありがとう

先日とあるエッセイを読み終えた。

岡田光世さんの『ニューヨークの魔法』シリーズ。

ニューヨークに住む作家の岡田光世さんがニューヨークで出会った人たちとのエピソードを綴ったシリーズ全9作のエッセイ。1作目の「ニューヨークのとけない魔法」に始まり、9作目の「ニューヨークの魔法は終わらない」まで続く。

僕がこのシリーズを読むきっかけになったのは、東京にいた時に長距離の記録会や駅伝を一緒に観に行った友人・きょうちゃんがnoteで紹介していたからだ。

きょうちゃんがnoteで紹介していたのが9作目だったからだと思うけど、シリーズものだとは知らず、9作目「ニューヨークの魔法は終わらない」から買ってしまった。

そんな勘違いをしてしまう僕にもこの本のエピソードは優しく、大都市ニューヨークで岡田さんに声をかけてくれる人たちとの出会いが自分の心をふっと軽くしてくれた。ニューヨークほどの世界有数の大都市でありながら、人他人であることを関係なく声をかけてくれるニューヨーカーたち。話し始めて数分なのに、人生の深いことを話したり、まるでずっと友人だったように話す様子を読んでいるとこっちまで楽しくなってくる。

地下鉄で隣になった人が話しかけてくるなど、日本にいたらそんなことは起きないよなあと思う。だからこそ、ニューヨークの人たちはすごいと思うし、出てくる一つ一つの言葉が粋だと感じる。

友人のきょうちゃんは、東京から仙台へ戻る僕へ「仙台に戻ったらニューヨークの魔法シリーズを月に1冊ずつ送るよ」と言ってくれた。最初は冗談だろうと思っていたのだけど、本当に1作〜8作まで送ってくれた。とても嬉しい贈り物だった。

ニューヨークの魔法シリーズは、読むごとに僕の心を軽くしてくれた。重く垂れ込めた暗い雨雲のようなものが、すっと晴れていくのを感じた。

僕が最後に読んだ8作目の「ニューヨークの魔法のかかり方」には“ふうせん男に集まる人たち”という、街で偶然出会ったふうせん細工を作る男とのエピソードが綴られている。

30年ほどレストランでシェフをしていた男性だったが、ある日脳卒中で倒れ右半身が麻痺してしまう。その男性は以前から子どもたちにふうせんでいろいろなものを作ってやれたら、と思っていたことからふうせん細工を作り街で配り続ける。岡田さんと話している間にも、手を休めずにふうせんを膨らませたり、縛ったり、ねじったり。

僕はこのエピソードが印象に残っている。身体にハンデを追っているのに街に立ってふうせん細工を作り続ける姿、道ゆく多くの人たちと会話をする姿、言葉がとぎれとぎれになりながら岡田さんに「会えてうれしい」と話すところ。すごい、と胸が詰まるような思いが込み上げてきた。

こんな風に感動するような話もあれば、クスっと笑える話も書いてある。

9作を読み進めるうちにすっかり僕は「魔法」をかけられ、綴られるエピソードに魅了されてしまった。

あらゆる本が巡り合わせだとは思うけど、今この本たちに出会えてよかったと感じた。コロナ禍で以前ほど人と会うことが難しくなった今年。そして、近頃、心身ともに沈んでいたからこそ、心が軽くなるこの本たちに出会えて良かった。

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8作目「ニューヨークの魔法のかかり方」の帯には“人と接するのが怖い時も、フッと心が軽くなる”と書いてあるが、まさにそうだ。

実は今自分自身、闇に吸い込まれそうな、感情がふと暗くなってしまう時期にある。自室で鬱々として1日が終わる日もある。将来が見えなくて怖い。「なんで自分は生きてるんだろう。死にたい。」と、ふと思う。

そんな気持ちで立ち止まっても意味が無いと頭では分かっていても、不安に包まれて、身動きが取れなくなる。心細くなってしまう。

(暗い話を書いてしまい申し訳ない……)

そんな自分の心にスーッと浸み込んで来るのは、何よりも自分自身が「誰かと直に話したい」「誰かと気持ちを分かち合いたい」と思っていることの表れだと思う。

どんな境遇にあっても生き生きとしているニューヨークの人々の姿に勇気をもらった本だった。僕に本を贈ってくれたきょうちゃん(そして、著者の岡田さん)僕に魔法をかけてくれてありがとう。

P.S. そういえば、岡田光世さんの情報を調べた時にWikipediaを見ると誕生日が「9月28日」で、なんと1日違い(僕は9月27日)。そのことをTwitterに書くと、岡田さんから返信が。なんて優しい方なの…。お互い、おめでとうございます。


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木幡真人|masato kohata
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