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旅と内省と世界のこと|広島旅行記

8月の初旬、一人旅で広島に行った。幼い頃、夏休みになると年一回祖父と旅行に行ける機会があったのだが、いつも行き先は乗りたいのりものから考えていた。

東北新幹線に乗りたいから東京、乗ったことのない700系に乗りたいから名古屋……と旅行に行った。その選び方は20年経った今でも変わらず、新幹線だけでなく飛行機も選択肢に入った。

空港に行くと飛行機が並ぶ光景にいつも胸が躍る。朝早く羽田空港へ向かいぼーっと離陸していく飛行機を見つめる。なぜ好きなのだろう。非日常に行ける期待感なのか。

旅は羽田から広島へ。いつもは外の景色を見たくて窓側の席を取るのだけど、今回は直前に座席指定したのとすごく混雑していたので通路側の席に。景色がまったく分からないので、読書に耽る。今回の旅のお供は柚木麻子さんの『BUTTER』。表紙から想像していたストーリではない。鋭い描写にすっかりはまってしまった。

そもそも旅先に広島を選んだのは、行ったことのない場所だから。四国も行ったことがある。山陰方面に行ったこともある。しかし、山陽地方に行ったことがない。

ただそれだけで「そうだ、広島に行こう」と決めた。

本を読んでいるとあっという間に広島空港に着陸。噂には聞いていたけれど、市街地からとても遠い場所にある。

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ノープランで行き先を決めたので、どこに行ったらいいのか分からない。前日、広島出身の友人にDMで聞くと「下瀬美術館」が返ってきた。

Webを開いてみるとなんとも印象的な美術館の外観とカラフルなコンテナが並ぶインスタレーション的な景色に惹かれ、1日目に向かうことに。広島空港から50分ほどで広島駅へ。さらに40分ほど電車に揺られる。

何も考えずにドがつくほどの真夏に予定を組んでしまったので、これでもかと強い日差しが降り注ぐ。日傘をしているのに暑い。涼しさを求めるように美術館の前へとたどり着いた。

中の庭園から建物を見ると鏡面の壁に、瀬戸内の海が映りキラキラと輝いている。海に浮かぶ城のようにも見える。Webで見たカラフルなコンテナのような部屋は移動展示室として、この池のようになっている水面を移動して、個々の部屋を繋げることで展示の導線になるのだという。中で行われていた企画展もなかなか面白かった。

朝一の便で来たことや暑さもあり、疲労がピークに達した。知らなかったけれど、この日の広島は危険な暑さで実に37〜38℃ほどあったようだ。暑すぎるので広島駅に戻りホテルにチェックイン。

朝に羽田空港で買ったカツサンドしか食べていなかったので、お好み焼きを食べに行く。お好み焼きも美味しかったけれど、生ビールが最高に美味しい暑さだ。

もう一度ホテルに戻り、暑さが少しは落ち着いてきた夕方に平和記念公園の方まで散歩した。幼い頃に読んだ原爆で被爆した少女の絵本を思い出す。おどろおどろしい描写がこびりつき、原爆のことを聞くたびに思い出しては恐ろしくなる。

原爆ドームの前に立つ。春に観た映画『オッペンハイマー』を思い出した。

戦争という名の武力行使や大量破壊はイデオロギーの違いから生まれるということ以上に、マチズモのなれ果てなのかもしれないとオッペンハイマーを観たときに感じた。空虚なものだ。

空虚なものにより多くの市井に生きる人々の命が一瞬にして奪われるのだから、最悪と言うほかない。

話題は逸れるが、『風の谷のナウシカ』では1000年前に「火の七日間」と呼ばれる核兵器により世界が滅亡し、その景色に絶望した科学者たちが世界を清浄するために腐海をつくり、ナウシカたち新人類を生み出す。やがて、ナウシカは自分たち新人類は汚染された世界でしか生きていけないことに気づく。世界が浄化されると基の人類が復活するようにプログラムされているのだ。

巨神兵は「死神」や「裁定者」という形容がなされるが、原爆の父である科学者・オッペンハイマーも実験成功の際に「我は死神なり、世界の破壊者なり」という言葉を残す。そして、戦後彼は原爆開発への後悔からか水爆開発に反対の立場を示す。どうして、現実の世界を破壊したオッペンハイマーも「ナウシカ」の1000年前の科学者たちも事が起きてから後悔するのだろう。

清浄か汚濁か。こちら側かあちら側か。なぜ、二元論で切り分けて、こちらでないものを弾圧するのか。見るべきは、もっと間(あわい)にあるはずなのに。

今もこの世界では、同じ人を蹂躙するような出来事が起きている。

もっと学ばなければいけない。人を踏み躙ることや見下すことではなく、人を知るために。暴力ではなく、知性で向き合うために。

そんなことを思った真夏の夕方だった。

*

平和記念公園から徒歩数分のカフェバーに入る。検索して出てきたnoteを頼りにこのカフェバーに入ったら地元の常連客しかいなくて、静かに本を読むことにした。

レアチーズケーキが美味しくて、たまらなかった。

*

2日目、せっかく広島に来たので尾道へ行ってみたいと思い足を伸ばして行ってみることに。広島駅を出たときは焼かれるような暑さだったが、尾道に来たら海辺だからか少し暑さが和らいだ。

飛行機までの時間を考えて2時間くらいしか滞在できなかったのだけど、千光寺の上にある展望台まで行って瀬戸内海の島を見渡してきた。正直、気温がちょうどいい季節にもう一度行って島を巡ってみたい。

噂通りの綺麗な街並みに感動したけれど、やっぱり歩くために夏ではなかったな……と少しの後悔を滲ませる。

滞在時間の短さに、もうちょっとゆっくりしていきたかったと後ろ髪をひかれながら広島空港へ。

お昼に食べたラーメン美味しかったな。

帰りの飛行機は前日の座席変更で窓側が取れた上、ちょうど夕焼けに染まる時間帯だったので離陸する時間帯の空が綺麗だった。

広島、また行きたいな。次は暑くない季節に、もっとゆっくりと巡りたい。

なかなか楽しい旅だった。でも、やっぱり暑い時期に外を出歩くのはかなり体力が消耗する。次に旅へ出るなら秋か春かな。ちょうどいい時期に歩きたい。

それから、結構時期が近づいてから決めたので、今後は宿も泊まりたいところを選んでいきたい。次はどこへ旅に出ようか。

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木幡真人|masato kohata
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