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所詮この世は裏切りの連鎖〜バケツと行く大阪マラソン2025〜

未だかつてないとか、まだ誰もやったことのない、という言葉に敏感な体質です。我々アーティストですから、日々新しいものを生み出すことに飢えています。

今回の我々の挑戦はバケツで42.195kmフルマラソンの完走。

自分自身は大阪含めてフルマラソンの経験が複数あります。ミュージシャンとして声を傷めてしまった時期に、自分の場合すぐに復帰するんですけど、ネガティブなニュースはすぐに伝染するのに比べて、健康なことは全くもって話題にならなかったりして、そんな時に友人が誘ってくれたことがきっかけでした。
その後来年も、つぎはこちらに、なんてあれよあれよという間に何度か挑戦を重ねて、タイムを狙うなら話は別ですけれど明日走れと言われてもまあなんとかなるでしょう(それは言い過ぎせめて三日前には言ってくれ)、と思えるくらいに完走は問題ないレベルです。
今回の彼の前代未聞の挑戦をサポートすべく、ペースメーカー兼カメラマン兼警備員みたいな立ち回りが自分のミッションです。

前日名古屋でのライブを終えて大阪移動、最初に見た光景はなんと雪。正直ドン引きです。忘れもしない初めてマラソンを走った時も雪の降る東京マラソン。満身創痍で乾杯のビールを華麗にスルーして小刻みに震えながら温かいお茶をしばく有様。

当日5時起床。まずはソロで朝6時にFM802に入り。
前日にワンマンライブの片付けがあってそこから即移動。翌早朝の生放送に一緒に来てくれるマネージャーの尊さよ(自分だったらこんなアーティストの担当絶対に嫌です)。

未だかつてとかまだ誰もやったことのない、みたいな枕詞に我々は反応してしまいます(2回目)。フルマラソン前に朝の6時台に生放送に出演したアーティストはまだいない、と聞けばガタッ(起立、と自然に脊椎反射で動いてしまうのです。

FM802DJの大抜卓人さんに優しく見送られそこから大阪城近くのスタート地点に到着。今回の相棒であるバケツくんならびに2名のスタッフ、他のアーティストランナーの皆さんと合流です。なにこの戦地で戦友に遭うような安心感。
そしてスタートギリギリまで広報のお仕事。走らせていただいてますから。ただ気持ちは浮ついていて正直何を言ったかよく覚えていませんし、何をやっているのか自分でもよくわからないまま、気づけばスタート地点へ移動を促されていく。

この時、自分の頭の中はたった一つのことで埋め尽くされていました。


(トイレ行きてぇ…。)


当日のコンディション、雨でないだけまだ幸運ですが、晴れ間にほんのり雪。演出か特効かよと思うくらいの雪。ぱっと見綺麗で最初はみんな楽しそう動画を撮ったりとかしているんですけど、これが後にじわじわ効いてきます。我々は第2WAVE(というスタートの区切りがあります)の濁流に飲み込まれるようにスタート。

これはわりとランニング、マラソンあるあるなんですけど、いざ走り始めると、汗をかいて水分が蒸発、尿意が消えていくことがあります。自己ベストで走った時もそうでしたが、途中にトイレ休憩を挟むことなくゴールまで辿り着くのが理想ではあります。なので一旦この意識は忘れよう、虚無の世界へ。走ることに集中。
序盤、3万人が一斉に走り出すわけですから、かなり進路に苦労します。視野視界7割くらいの連れのバケツの進路を確保すべく常に2,3m先を走り先導、右折や左折に指示を出しながらの進行。しかしながら5km走り始めても全く汗が出る気配がない。

「ボス、トイレ行きたいかもしれません…」

ですよね。内心、その言葉を心のどこかで僕自身も待っていたのかもしれません。次のトイレポイントを見つけたら入ろうと約束してもうひと頑張り。7kmあたりのトイレ地点を見つけて飛び込むも、考えることは皆同じで既にトイレは大大大行列。おおよそ10分のタイムロス。
ちなみにフルマラソンは1km/6分のペースで行くと、10kmを1時間(60分)で行けるわけです。つまり単純計算40kmを4時間を少し過ぎた(残りの2.195km分を足す)くらいでゴールできる計算になります。
予行演習である10km走、20km走の時はこれくらいより少し遅いペース1km/6分20~30秒で走っていたので、最後まで維持できれば5時間くらいでゴールできますし、少なくとも30kmまでそのペースで行ければあとは歩いても完走できる、という計算を当初していました。
この時点で常に1km/6分30秒のくらいのペースであることは目視。かなりランナーが渋滞している中で、むしろ上出来くらいに考えていました。ただこのトイレの混み具合や、気温のことを考えて、この時点で目標をだいたい5時間から、タイムのことは忘れてバケツと無事完走に切り替えます。むしろここからが大阪マラソンの始まり、くらいの気持ちでリセット、リスタート。

沿道からもランナーからも注目を集めるバケツ。小さな子供たちが親御さんに真剣に尋ねています。「ママ、あれは何?」バケツです。ちょっと天才的なドラムを叩くお茶目なYOUTUBERでバンドマンBucket Banquet Bis(バケットバンケットビス)です。通称ビスたんです。

普段仕事でお世話になっているGREENS、FM802の前を通過します。確かスタッフがいてくれるはず。そこで記念に写真を撮る予定だったのですがこの辺りは沿道も混雑していて巡り会えず。たくさんの応援の方々、ボランティアの方々の派手なカラーの格好に対して、我々スタッフの地味すぎるモノトーンな服装が仇に(それはそうでしょうに)。ただ最後になんとかスタッフ一名見つけ出した時にはもう時既に遅し、激流に流されるようにそのまま走り出す2人。

次のポイントにしていた御堂筋ではなんとか予定通りカメラを受け取ることに成功。2,3メートル先を走りながら、時に並走しながらバケツの勇姿を納めなくては(カメラを持ちながら走るのって結構技術が必要で、今もカメラを持っていた左腕が42.195km走り続けた足と同じくらい張っています)。そして、そのまま今度は先回りしていたスタッフにカメラを渡して回収してもらう段取りも完璧。そこから先はしばらく走ることや、ペースメイク、彼の進路取りに集中します。ここまでは計画通りに進んでいました。順調です。

ただこの時点で実は彼の足はだいぶキテいたみたいです(バケツブログ参照)

15kmを過ぎたくらいから徐々に遅れ出すバケツ氏。振り返るとキラリとひかるバケツと自分との間に少し距離が出来てしまう、どうやら少しずつペースが落ちてきている。なんとかペースを取り戻させるために、まず早めに、いざという時用のエナジーチャージジェルを序盤にもかかわらず注入。うーん、それでもあまり変化なし。また、給水や給食ポイントは混雑を避けるために常に先回り、2人分ゲットして彼の元に運ぶ。
みたいなことをきっかけに再浮上を促すも、どうにもペースを戻すことは厳しそう。それならばゆっくりでもこのペースを出来るだけ維持させるべし。ここで一旦大嘘をつきます。

「とりあえず20kmまで走れれば大丈夫だから!頑張ろう!」

大丈夫な根拠は特にありません

以降、大嘘は更新されていきます。

「さあここが正念場、25kmまで走れれば完走できる!さあ行こう!」

その保証はどこにもありません

「さあここが正念場、30kmまで走れれば絶対完走できる!さあ行こう!」

"正念場"多め安売りの大バーゲンです。

自分の経験上半分の20kmまで来てしまえば、ここまで走ってきて諦めてしまうのは勿体無い、ならばいっそゴールへ、みたいな"勿体無い心理"が働くはず。ただゴールポストが常に先に動かされ、公約が少しずつズラされていくこの状況。自分だったら激怒していたと思います。

もう物理的に背中押しちゃう

声をかけるその度にファイティングポーズをとり、決して歩かない、足を止めずに前に前に走り出すバケツの姿に、なんだか既に涙腺が緩んでいました。ただそれも長く続かず、その後、一向に鞭を入れ続けてもその効果が薄くなってきたように感じました。そうだ鞭がダメなら飴に変えてみよう。ここで言葉の飴と鞭を入れ替えることに。

「かっこいいよ、ナイスランだよ!」

急にやたらと褒め出す

「尊いよ!輝いているよ!30km走ってるだけでマジ奇跡!」

ほぼボディビルの大会みたいになってます

今回のマラソン参加は彼の挑戦があってのこと。絶対一緒にゴールしようと、彼と運命を共に心中しようと、あらゆる言葉を駆使して鼓舞し続けるのでした。この時点ではまだ自分に余裕があったので給水があれば水分を、給食があればフードを、常に先回りして2人分を確保。混雑に巻き込まれないようにと思ってのことなのですが、ここでひとつトラブルが起きます。

大阪マラソンは32km地点にご褒美的なフードエリアがあります。一番の混雑が予想されるところを先回り、そうそうに自分の食事を終わらせ彼の食材を確保して待っていました。それを片手にバケツの到着を待つのですが、1分いや2分経ってもバケツが来ないのです。何かトラブルがあって立ち止まっているのか、それともあんなに目立つ金物を自分が見逃して、気づかずにに先に行ってしまったのか。その時ちょうど集合していた2名のスタッフと緊急三者会談。作戦会議。
"1人はここで残ってバケツが通過するか確認して、もう1人は先に行ったかもしれないからそれを追いかけて!連絡を取り合って!"と指示を出し、一旦自分も走り出すことに。

走り出して数分、この時、一つ自分の中でひらめきがありました。沿道のファンの方々から名前を呼んだり、ありがたい声援が聞こえてくるわけなんですけど、

「うちのバケツくん見ませんでしたか?」

そう、わからないことがあれば聞けばいい!社会に出て一年目の鉄則なのです。
"わからない"、"まだかも知れない"という答えが続き、するとそのうちの1人が言いました。

「先に行きました!」

マジか…あいつ…(全俺が泣いた)。

あんなにボロボロになりながら、走ることを止めず、先に進んでいただなんて。
そこから自分はペースを上げ、数分後には無事人ごみの中から一際光る銀色の後頭部を発見。即追いつき、再会を喜び彼の背中を叩きました。

するとその衝撃すらしんどそうなグロッキー状態(先輩やめてくださいよみたいな拒否反応)。ここまできたらなんとか絶対にゴールさせてあげたいのです。ただこの時にはもう、時間切れとなってしまったランナーを送迎する収容バスが刻一刻と背後に迫ってきていました。
こういった都市型マラソンは交通の制限もあります。設定されている制限時間があり、それに間に合わないと足切り、道路が閉鎖され、最後尾を走っているバスに収容されていきます。で、途中からこのバスの姿がコースの折り返しがある度に反対車線に見えてくるのです。バス経験者は皆一様に語るんですが、車内は終始無言でどこかとても暗い重たい雰囲気とのことです(まあそうですよね)。

"あと一回だけトイレに行こうと思っています"とバケツ。正直ここでトイレに行くと時間がかなり厳しくなるとも思いました、が、フルマラソンは何よりメンタルなんです(あと膝の頑丈さ)。ならばあと一つだけ我慢して止まらずに頑張って、次のポイントに行こう。なんとか次のトイレスポットまで粘走、辿り着き行列に並びます。
すると忘れもしません、僕とバケツの間に並んでいたメンズがバケツ姿を見てこう言いました。

「どうしてこうなったかはわかりませんが、僕は応援しています」

そうです、話すと長くなるんですけどありがとうございます。

深く頷きながらも、横を見ればもうたかが10数センチくらいの段差ですら、乗り越えるのがギリギリな様子。

さあここからと走り出すも、なかなか前に足が進んでいかない。かくいう自分もこの時点ではかなり足にキテいました。振り返るごとにバケツ氏と距離が空いてしまう。次第に給水地点や給食ポイントで先に準備して待機する作戦も、各チェックポイントごとに彼を待つ時間が長くなっていきました。

そしてこの辺りから段々と、制限時間が拡声器でアナウンスされるようになっていました。"あと何分で閉門です!"みたいな。自分たちの背後に段々とあのバスが迫ってきている気配を感じます。

37km付近最後の給食ポイントで先行して給食を確保し、人混みを避けて見通しのいいところで待機する。待つこと30秒、そして1分。それでもバケツの姿は見えません。またしても何かトラブルが起きて立ち止まっているのか、それとも自分が見失ってしまったのか、いや、ここまで来ると人もばらけているので見落とすことは考えにくい。迫り来る制限時間。

ここでふと最悪の展開が頭の中を過ぎります。
我々はアーティストランナーと言って、大阪マラソンの広報。大切なランナーの枠をバンドとして2つ頂いているわけなんです。抽選に落ちて参加できない方もいらっしゃいます。そこを2人とも完走できず時間切れ、タイムアウトになるのもまた申し訳のない話なのです。しかしながらそれとは別に今回の大阪マラソンは、バケツと心中、本人にも絶対に2人でゴールしようなと言い聞かせてここまできているわけです。

永遠に感じる1分1秒。

そして、ひとつ決断を下します。

止むなし、すまぬビス。

以前誰かがこう言ってました。マラソンは最も人間性がでるスポーツだと。ここにその証拠が残っています。

フルマラソン42.195km道のりを初めて走った時、生まれてから死ぬまで、人の一生、人生を擬似体験しているような感覚でした。誰と行くか一人で行くか、勝手にライバルを定めるもよし、己の限界に挑んで攻めたペースで行くもよし、最後まで一定、同じペースを守り抜くもよし。性格や、人間性が多いに露出するものだとも思いました。

いざというときに仲間を見捨てて行くタイプです🆕

(先、行くわ…。)
所詮この世は裏切りの連鎖!仲間を見捨てて、2人分の食料を口に放り込んで走り出す。
ただ一応、途中沿道のファンの方にも引き続き確認します。意外と「バケツは先に行ったかも」「いえまだ見ていません」錯綜する情報。あれ、やはり見落としていたのかも?40kmの最後の給水所、後ろを振り返り入念に見渡す、しばらく待つもその姿は見当たらず。

すまぬ、バンドで2人ともリタイアは上記の理由でちょっと申し訳ないのでとりあえず先を急ぎ、ひと足先にフィニッシュ地点の大阪城へ到着し、ゴール地点のスタッフと無事落ち合うことに成功。

仲間を見捨てこれから1人ゴールするところです
清々しい顔してますけど何か?

スタッフから教えてもらい、なんとこの時点で収容時間スレスレをバケツがどうやらまだ走っているとの情報をキャッチ。なのでこのままゴール地点で彼を祈るように待ちます。


あと10分で締め切りです、


あと3分で締め切りです、


あと2分、


あと1分、


あと10秒。








最後までバケツ現れず。

その後控え室に案内され、いくつかのご挨拶や手続きを済ませる。それが終わっても一向にバケツの姿が見えません。スタート地点にスマホの類は預けてあるので我々は一切手ぶら、連絡の取りようがありません。上着も預けてあるのでもしかしたら震えているかも知れません。なんと大阪城ゴール地点でバケツ行方不明。バケツ大捜査線が始まります。

そこは経験者かつ名探偵カナイ氏の推測が働きます。
おそらく、収容バスに一般の方と一緒に載せられ(バケツを外せないまま)搬送されており、その最寄りの救護室にいる可能性が高いのでは、ということを話していたその矢先にこのツイートを発見します。

ビンゴ(何が)!
ゴール地点から歩いて20分の距離のあるこの救護室、今の彼にとっては遥か彼方地球の裏側のように感じることでしょう。すぐさまスタッフが保護に走りまして、無事確保。事なきを得て宿泊先のホテルで合流し、再会のハグ、全力で彼を労うのでした。

ただ彼が最も天才的エンターテイナー、youtuberたる所以はこれにとどまりませんでした。最後の最後、ゴール後にこんなサプライズを用意してくれていたのです。

最終関門が閉鎖されるまさにその決定的瞬間が記録がばっちりyoutubeに残っているではありませんか。41.4km地点、残り800m、最も完走に近かったバケツ。その背中がエモすぎる。やはり何かを持ってます、このバケツは。

改めて沿道に応援に来てくださったの方に感謝ですし、当日ネットで気にかけてくれていた皆様もありがとうございます。イベントを支える沢山のスタッフやボランティアの方もにも感謝ですし。全てのランナーに漏れなくリスペクト。
そして何よりバケツくん、Bucket Banquet Bis(バケットバンケットビス)お疲れ様。最高にかっこよかったよ。君は世界一かっこいいバケツです。是非みなさん今後とも彼のドラマーとしての活躍を、彼のYOUTUBEをよろしくお願いします。

フルマラソンはもっとも人間性、人の性格が出るスポーツだと自負してしまいました。つまり今回、自分の人間性に新たな1行が追加されるわけです。

・いざという時に仲間を平気で切り捨てるタイプです🆕

いやいや言い訳がましいですがバンドとして最悪な結果をなんとか回避した、ということにしておきましょう(性格よ)。

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🎢音楽で奏でる空想遊園地やってます🎡

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<ここだけの話は、503名限定の秘密のメンバーシップで>

余談ですが早速来年もぜひ!?とお声がけ頂いて、
自分はいつでも全然歓迎なんですけど、バケツくんはちょっとどうかわかりません!とお茶を濁しておきました。

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MasatoKanai
褒められても、貶されても、どのみち良く伸びるタイプです。