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トゥーランドット

二期会 創立70周年記念公演 ジュネーヴ大劇場との共同制作
オペラ『トゥーランドット』全3幕 ルチアーノ・ベリオによる第3幕補作版

無事終演いたしました。
2組のキャスト2回ずつの計4日間の公演。
東京文化会館の大ホールが平日昼の公演も含め4日間ともほとんど埋まるという、物凄い反響ぶりでした。
ご来場くださいました皆様、本当にありがとうございました。

今回のトゥーランドットは、ベリオ補作版であることと、チームラボが初めてオペラの空間演出をするということで、かなり特別な公演となったと思います。

チームラボ

今回特に注目されたのが、チームラボの参加でした。
チームラボがオペラに関わるとどうなるのか、期待と不安とがありましたが、素晴らしい光と闇の世界を作り上げていました。
もちろん賛否両論ではあるでしょうが、僕はとても良かったと思っています。
全てのシーンでレーザーが使われていたわけでもなく、演出家が「クイズショー番組」に仕上げた謎解きのシーンでは客席天井にまで及ぶレーザーが大活躍でした。
また、深層心理を表す演出のシーンでは、三角形の舞台セットに映し出されたプロジェクションマッピングはため息が出るほど美しく、想いの交錯する場面や、姫の心の解放であったりを見事に支え表現していました。

ベリオ版

今回は通常演奏されるアルファーノ補作版ではなく、ベリオ補作版ということがもう一つの特徴となりました。派手に終わるアルファーノ版と比べ静かに終わっていくベリオ版に違和感を持っている方もいらっしゃると思いますが、今回は演出、そしてチームラボとの相性がとても良かったと思っています。最後のトゥーランドットの心の解放や、愛を静かに受け止めていく様子が、最後の静寂に感じられると思っています。
確かにベリオ補作箇所からはかなり「ベリオ感」は強いです。しかし、今回の演出でのトゥーランドット、カラフの「狂気」からの流れには合っていたのかもしれません。

演出

今回はまず「男性優位」の世界がここでは逆転していると言う事。
舞台にある大きなボックスに合唱の皆さんが入っているのですが、上段のホワイトボックスには女性、下段の牢獄のような暗く狭いブラックボックスには男性。
ホワイトボックスの上に立てるのは皇帝のみ(ラストではトゥーランドットとカラフが立ちます)。
そして男性ダンサーやペルシャの王子、カラフには男根 - 花 - がついています。
今回は首を切られる=花をもぎ取られる ということになっていました。
ペルシャの王子は、舞台上部からあわられたトゥーランドットダブル(黙役)に花をもぎ取られ倒れます。その時に、全身黒い衣装で後ろに赤い薔薇を引きずっているのが特徴的な女性ダンサーたちに、儀式のように頭髪も全身の毛も剃られます。
ここから連想するに、ピンパンポンもマンダリーノも、この謎かけに破れたのかもしれません(4役ともに頭髪はなく、もぎ取られた跡がある。大臣三人は体の毛もない。マンダリーノは全身銀色の衣装)。今回プログラムに載っていたあらすじがあらすじになっておらず、最初歌ってたのが誰なのか分からないという方が多かったようです。第一声を歌うのがマンダリーノ(役人)です。
男性ダンサーは選ばれ戦士として存在しています。しかし立場はやはり女性が上です。女性ダンサー(今回はトゥーランドットダブルと女性ダンサーがプーティンパオとして機能している)には逆らえない。彼らの精子が注射器で抜き取られるというシーンがあり、それによって上層階の女性は子を授かっているのです。
男は基本的に女性のいる上層階に行けないのです。
また、今回の演出ではカラフはティムールに、トゥーランドットは皇帝に、DV、虐待を受けていたように描かれています。どちらも健全な親子関係ではない。2人とも、そこから脱却したいという思いは共通しています。
(後日追加修正予定です)

マンダリーノについて/役作り

通常は、マンダリーノ(役人)は威圧的に命令を伝え去っていくだけですが、今回は、かなりキャラクターが特殊でした。
演出家からは「ゲームショー番組の人気司会者、コメディアンのような」というオーダーがあり、かなりトリッキーな動きをアクセントとして入れる指示が入っていました。
ピンパンポンは番組のプロデューサー的な位置付けとのことでした。
そして歌唱が終わった2幕後半や3幕もかなりの時間舞台に存在し続けます。
1幕と、2幕の前半までは光を反射するパラボラアンテナ、エリザベスカラーのようなものを付けています。それと黒いマントがこのショーでの衣装なのです。
チームラボの光の世界を暗示するかのような衣装でしたので、なるべく客席に反射が届くように向きを色々変えるなど自分なりのアレンジを入れました。2幕後半からは、パラボラは無くなり、マントのみ。
ここからの在り方に少し悩んだ時期があります。演出からあったオーダーだけでは、ここにいるための一つの「線」につなぐのは難しいので、自分なりのベースが必要だと。
それで、メイクや最後の死に方などのこともあり、考えた結果、シルクドソレイユなどに出てくる「クラウン」をベースに考えることにしました。また、北欧神話に出てくるトリックスター「ロキ」のような一面もあるかなと考えました。

1幕冒頭のシーンは、ショーもそのものを楽しんでいるのではなく、「こんな世界おかしいだろ」というわざとらしい笑いに。
ベリオ版に変わってから行われる「殺し合い」の演出も、マンダリーノは積極的にかかわらず、皇帝の杖を持ち防戦一方の形なので、攻撃的な要素はなるべく持ち合わせない方向で作っていきました。リューやティムールの死も心が締め付けられるくらいに悲しむ。若干「型」に寄せた作り方をしました。演出からもダメもなく「perfect!」と言葉をいただいたので、ホッとしています。

3幕はメイクが渦巻き状に歪んでいます。このメイクの変化は一つの時代の終わりを暗示してるのだと思います。
殺し合いの後舞台の盆が周り、殺し合いで刺された(設定の)マンダリーノは遅れて舞台袖から出てきます。最後に倒れ、一つの時代が終わったことをアクセントとして表現しています。皇帝が崩御しているのでそれでほとんど伝わるのですが、マンダリーノが倒れ宦官であることがわかる傷口をあらわにして倒れたことでその時代の終わりを念押しする形になっていると思いました。

音楽面では稽古の中でかなり全体のテンポが変わっていき、本番の時は冒頭のマンダリーノの部分はかなりゆっくりになっていましたので、動きもそれに合わせたっぷり時間を使いました。

このあとは後日追加していこうと思います。




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