日本における行動経済学の『今』
「行動経済学の逆襲」
実に学びの多い良書でした。。
はたして、そこである疑問が浮かびます。
「日本においてもこの知見が活用されているのか?」
そんな疑問を解決するため、日本における行動経済学周りの動きを簡単にまとめてみました。
『行動経済学』とは
行動経済学とは、これまでの伝統的な経済学に、心理学など他の社会科学からの知見を取り入れた学問分野です。
最も大きな違いとしてよく言われるのは、その経済主体が伝統的な経済学では「合理的な経済人」であり、行動経済学では「非合理的な選択をとってしまう人間」です。
もっとざっくり言えば、より実際のぐうたらな人間に即した経済学です。
より詳しい解説は本記事の主題とは外れてしまうため、ご興味のある方は、前述した書籍や、末尾の参考文献をご参照ください。面白いです。
『学問』としての行動経済学
日本においても、2002年に川西諭、真壁昭夫、山口勝業の3名の先生方によってワークショップが立ち上げられ、これを発展させる形で2007年に行動経済学会が設立されています。2022年現在、会員数は学生会員を含め467名に上り、16団体が会員となっています。
ご興味のある方は論文の一部が下記で公開されていますので、参照されると楽しいかもしれません。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jbef/-char/ja
『行政』での行動経済学の活用
さて、本題です。
日本の行政でもこの行動経済学の知見を活用しているのか?
ご安心ください。当然、活用されています。
日本政府における行動経済学の活用は2015年4月に環境省に専門のプロジェクトチームが設立され、それを発展させる形で、2017年4月に池本 忠弘さんを代表として日本版ナッジ・ユニットBEST(Behavioral Sciences Team)が発足されています。
この「ナッジ」とは、行動経済学において重視される概念で、「人間の行動をある特定の方向にそっと誘導する手法」という意味でつかわれています。
この手法はすでに実際の行政サービスでも使われており、八王子市のがん検診の例では、送付の文言を
A.「今年度、大腸がん検診を受診された方には、来年度、『大腸がん検査キット』をご自宅にお送りします。」
B.「今年度、大腸がん検診を受診されないと、来年度、ご自宅へ、『大腸がん検査キット』をお送りすることができません。」
の2パターンで比較統計を取ったところ、Bの方が5%受診率を伸ばすことに成功しています。これは人間は利益よりも損失を回避するという行動経済学の知見をうまく活かしたナッジといえます。
このように、日本においても、ナッジの活用は日々進んでおり、より効率的な政策の実行などに活かされています。
参考文献
※ 「行動経済学の逆襲」(早川書房、2016)2017年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学教授のリチャード・セイラー(Richard H Thaler)の著作。紙ベースで読むとやや難解なので、さらりと読みたい方にはオーディオブックがおすすめです。Audibleにて配信中
※ 「行動経済学の理論とその日本における最近の活用に向けた論調を検証する」荒井 俊行 土地総合研究 2019年秋号https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p088.pdf
※ 第311回消費者委員会本会議_資料1「環境省ナッジPT(プラチナ)」https://www.cao.go.jp/consumer/iinkai/2019/311/doc/20191213_shiryou1_2.pdf
※ 日本版ナッジ・ユニットBEST公式サイト
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/nudge.html
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