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第一話 部室にて

小説「ファイトクラブ」


第一章

第一話 部室にて


真夏の雨…。

サァァァァ…。

校庭のグラウンドの土は雨で泥になっていた。
今年一番の蒸し暑い日、俺は内藤先輩に呼び出され部室にいた。

サァァァァ…。

夏休み、しかも日曜日の学校、誰もいない…。
サッカー部の汚い部室には男たちの汗の臭いがツンと鼻につく。

俺の名前は和佐田健二。16歳。高校1年。サッカーの腕はかなり自信がある。
一年で、いきなり今年の夏の大会でレギュラーを奪い取ったほどだ。
ハッキリ言って他の先輩よりずっと上手い。
身長は170と小柄だが、身体能力は周りの連中よりもずば抜けている。

健二

サァァァァ…。

だがこの前の夏の大会でミスをしてしまった。
先輩の指示をムシして、勝手なプレーをしてしまい、その試合は負けてしまった。
しかも3年の先輩にとっては最後の夏。
俺は内藤先輩に呼び出されるだろうと、うすうす感づいていた。

サァァァァ…。

内藤先輩と言うのは、18歳の高校3年の先輩。サッカー部のキャプテン。
超ガタイが良くて、身長は180を越えている。
いつも茶髪のリーゼントで、性格は短気。暴れだしたら止められない。

 内藤先輩

先公を殴って停学になったという話なんてザラで、他校の生徒と喧嘩という噂もよく聞く。
子供の頃から何か格闘技をやっているという事も聞くが詳しい事はよく知らない。
隣町の高校に殴り込みに行き、番長を半殺しの目に合わせたり、暴走族のリーダーとストリートファイトしたり、ここら辺の不良共を全てを仕切っているという噂。
どこからが本当でどこからがデマなのか分からないが…。
とにかくこの学校で内藤先輩に歯向かう者はいない。

だが、今日…。

「テメーのせいだ、コラ!」

ドスゥッ!!

「ぐぼ…っ!」

はじめて、歯向かう男が現れる。

「立てよ…」

いきなり髪をつかんで俺の腹にひざ蹴りを食らわしてきた。効くぜ、チクショウ。
ヤキ入れられる事は覚悟してきたけど、ホントに短気な人だ。

「おい、聞いてんのか、健二。あぁ、オメーがあん時、一人でボール持たずに俺にパスしてりゃ、あの試合勝てたんだよ。ざけやがって!」

ズムッッ!


今度はボディーにモロだ。高校生なのにヘビー級の豪腕パンチだ。

「くっ…はぁはぁ」
「何か言えや。一年坊がぁ」
「…で、でも…行けると思ったんス。俺の実力なら…あれくらいのガード突破して、1点取れたっスよ。だから…」
「なっ、何イキがってんだこのガキぃ!」
「だから、内藤さんにパスするより俺一人で行く方がよかった筈です」

俺だってなめられちゃ困る。これでも一年でレギュラーで、内藤さんほどじゃないけど身体能力には自信がある。
ここで腰抜け扱いされたら、この先ずっと殴られ続けるだろう。俺は硬く拳を握った。

「上等だ、健二。俺ぁブチ切れたぜ」
「おぅ、かかってこいや」

ヤツの顔がだんだん険しくなってくる。俺の突然のナマイキな態度に完全にキレたみたいだ。
さらに胸ぐらをつかみ、顔を近づけてくる。

「テメー、俺を誰だかわかってんのか」
「能書きタレんのは、俺をぶっ飛ばしてからにしてみろや、センパイ」
「泣かすぞ、コラァ!」

ズン!ズンッ!
ドボォォッ!!

わき腹にボディブローの連打と強烈なボディアッパー、ヤツの丸太の様に太い逞しい腕が俺の体に食い込んでくる!!

「くっっ…うぅっ、ああぁ…」
「おい健二。まだまだこんなもんじゃすまさねえぞ、てめえはぁ!!」

内藤はシャツを脱ぎ、下に着ていたタンクトップ一枚になった。小麦色に焼けた肌に、ゴツゴツした筋肉。
いつも着替えの時ひそかに見ていたが、マジで凄い体だ。
ぶ厚い胸板は黒のタンクトップからはみ出しそうなくらいデカい。
肩も上腕二頭筋のちからこぶもボディビルダーの様にパンパンだ。
それでいて、見事に締まった腹筋で、逞しい逆三角形…。

(こんな男に喧嘩を売っているのか、俺は)

とその体を見ていると。また太く逞しい腕が飛んできて

ズムッ!!

またボディブローだ。さすがの俺も上体をくの字に曲げて胃液を吐く。

「はぅっ…うぅ、うっ…」
「汚ねえな、俺のボンタンが汚れんだろうがっ!!」

内藤は健二のシャツの胸倉をつかみ…。

ズンッ!ズンッ!
ドムッッッ!


またボディ、またボディ。そしてまたボディ!
健二は腹を抱えて悶絶する。
ファイティングポーズをとっている内藤は、まるでテレビのK-1選手を見ているようだ。
そんな奴と、俺は今戦っているのか。

「オラ、オラ、どうした健二。さっきまでの元気はよぉ、この俺に上等ぶっこいて、やっぱ口だけかぁ?」
「はぁはぁ…」
「ほらよ。殴らせてやるから、かかって来いやぁ」

顔を突き出し、殴ってみろとばかりに挑発している。

(バカにしてやがって…)

これには健二も腹を立てた。一発くらいヤツにパンチを食らわせたい。

「おらぁ—っ!!」

健二は思いきり踏み込んで全体重かけて殴りかかった。

ズムッッ!!!

「うっっ…ああぁ!!」

だがパンチを食らったのは、健二の方だった。
健二のパンチを素早くかわし、内藤はまたボディーブローを打ち込んできたのだ。
強烈な威力だ。

「どうだ?カウンターのボディーブローは?」
「げぼぉ…ぅぅ…」
「テメーの勢いと、俺のパンチ力が合わさって強烈だろう?」
「…はぁ、はぁ…んで…なんで、テメェ…腹ばっか、ボディーばっかし…殴んだ?」
「ああ?顔面殴ると跡が残るだろ。先公にチクられてまた停学になりたかねぇしな、腹なら証拠は残らねえ、ケンカの基本だぜ」
「なるほどな…結局、テメェ…先公が恐ぇのか、へへ」
「んだと!」
「…それと、さっきから…テメーのパンチ全然効いてねえぞ…手ぇ抜いてんのか?」
「…の野郎!」

内藤は本気で痛めつける気になったんだろう。健二はシャツを脱がされ上半身裸にされた。

「…はぁはぁ」
「おお、いいガタイしてるな」

これでも高一にしては鍛えてる方だ。ウェイトトレーニングもして、ガタイには自信がある。
焼けた肌に六つに割れた腹筋。厚い胸板。

「殴りがいのある体だぜ。よし、俺がてめえの腐った根性鍛えなおしてやらあ」

ドスドスドス…
ドスドスドス…

「はうっ、はうっ…」

サッカー部の部室に生々しい肉体をぶん殴る音が響く!
しかし健二も殴られっぱなしではない。

バキィィィッ!!

健二ははじめて内藤を殴り返した。内藤はとっさの出来事に一瞬何だか分からない。

(……!?)

一瞬の隙を健二は逃さない。

(今だ!)

すかさず健二は内藤の顔面にパンチを連打!

バキッ!バコッ!
ズンッ!バキィッ!

「はうぅっ…ぁああっ…うおぉっっ!!」

健二はボディの痛みを耐え、流れる汗を拭かずに内藤を殴り続ける。
だが…。

「あんま、ちょーしのってんじゃねえ、ガキ!」

内藤は健二の拳をつかみ、握りつぶす勢いだ。

(しまった…)

ズムッッッ!!!

また太く逞しい腕から繰り出されるボディーブローに、健二は悶絶して倒れた。

「んな、クソみたいなパンチ効いてねぇんだよ!
「はうぁ…ああっ…!」
「本物のパンチを教えてやる」

内藤はタンクトップを脱ぐと、とうとうその見事な肉体をあらわにした。
ゴツゴツに鍛え上げられた岩のような背筋、バキバキに割れた腹筋の山。

(す、すげぇぇぇ)

そして内藤は健二の髪をわしづかみにし、

「来い」

とだけいうと、内藤は誰もいない雨のグラウンドに健二を引きずっていった。

「あ…ぅぅ」

人の気配がない雨のグラウンド、ずぶ濡れの男が二人。

「オラァァァ!」

ドボッッッ!!!

「ううぅっっっ!」

ドムゥッ!
ズムゥッッ!!


「はうぅ!!…げぼぉぉ」

健二は泥だらけになりながら、倒れても倒れても何度も立たされ殴られ続けた。
腹筋に拳が食い込む音が、誰もいないグラウンドに響きわたる。
鍛え上げられた逞しい筋肉に、泥に汚れた二人の男。

「まだ寝るのは早えだろ」

だがそれがまだほんの序章であることを、この時二人はまだ知らなかった。
内藤と健二。
この二人はのちに、伝説に残る幾多のファイトを築きあげるのだ。

「オラ立てよ」
「はぁはぁ…き、効かねえなあ…ぐぼっ!」

その物語が始まる。


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