CEOとCTOの兼任ってどうなの?
はじめまして株式会社SmiqleのCEO兼CTOをしている鈴木(@suzuki7342)です。
今回は起業して半年、CEOとCTOを兼任してみてのどうだったかについて書き残します。また、実際に兼任についておすすめかどうかも書いているので気になる方は最後の方まで読み飛ばしてください。
企業におけるCEOとCTOの役割とは?
CEOとCTOのそれぞれの役割について簡単に理解
CEO(最高経営責任者)は企業全体の戦略的ビジョンを策定し、最終的な意思決定を行います。主に経営戦略、人事、財務、営業、マーケティングといった側面を統括します。
CTO(最高技術責任者)は企業の技術戦略を担当し、技術開発やイノベーションをリードします。技術的な意思決定を下し、技術部門の運営を監督する役割です。
両者の役割は異なりますが、現代のビジネス環境では、技術革新が企業の競争力に直結するため、経営者にも技術に対する深い理解が求められています。そのため、CEOとCTOの役割を兼任することで、技術と経営の一貫した戦略を実現できます。
CEOとCTOの兼任のメリット
経営と技術の連携強化
CEOとCTOを兼任することで、経営戦略と技術戦略のシームレスな統合が可能になります。経営者が直接技術的な課題や可能性に関与することで、技術的な優位性が経営戦略にどのように反映されるかを迅速に判断できます。例えば、新技術の導入がビジネス成長にどう寄与するか、あるいはどの技術が競争力を高めるかといった判断が容易になります。
意思決定の迅速化
経営と技術に関する重要な意思決定が一人のリーダーによって行われることで、情報の伝達や意思決定のプロセスがスムーズになります。特にスタートアップや急成長企業においては、スピードが命です。複数のリーダーが異なる方向で判断すると意思決定に時間がかかりますが、兼任によってその問題を回避できます。
競争力の強化
技術革新が競争優位性の源泉となる現代企業において、CEOが直接技術戦略に関与することで、最適な技術を選び投資することが可能になります。技術に精通したCEOは、投資家やパートナーとの交渉でも技術的な視点を強調し、企業の価値を高めることができます。
CEOとCTO兼任のデメリット
負担の増加
CEOとCTOを兼任することは、その分責任が大きくなります。経営全般に加えて、技術戦略の策定や部門のマネジメントまで一手に担うことになるため、業務負担が増加するのは避けられません。特に、企業の規模が大きくなると、その負担は膨大になります。兼任が可能であっても、常に高いパフォーマンスを維持するのは難しい場合があります。
役割の衝突
経営者としての目線と技術者としての目線は時に異なります。経営者としては収益や市場拡大を重視しがちですが、技術者としては品質や技術的挑戦を重視する場合があります。このため、両方の役割を兼任することで、短期的な経営戦略と長期的な技術戦略とのバランスを取るのが難しくなることがあります。
視野が狭くなる可能性
CEOとCTOとしての役割に集中しすぎると、企業全体のビジョンや市場動向への洞察が浅くなりがちです。特に、企業が急成長している場合、CTOの技術的な視点が強くなりすぎて、経営の他の側面(例えば、マーケティングや財務)が疎かになることも考えられます。
シリコンバレーの成功事例
CEO兼CTOとして最も有名なのはイーロン・マスクです。彼はSpaceXやTeslaで技術革新の先頭に立ち、自らのリーダーシップで企業を急成長させました。彼のように深い技術的理解を持ちながら経営をリードできる人物は非常に貴重と言えるでしょう。
他にも、Metaのマーク・ザッカーバーグやTwitterのジャック・ドーシー、Tumblrのデイヴィッド・カープなどが、CEO兼CTOとして有名です。また、スタートアップ初期にCEOとCTOを兼任し、企業が成長したタイミングでCTO職を他の人に引き継ぐケースも多く見られます。Airbnbのブライアン・チェスキーがその一例です。
実際に兼任してみてどうだったか
ここからは、私自身の経験についてお話しします。実際に私は、半年間CEO兼CTOとして起業し、従業員を雇わずに数名の業務委託者と共に開発を進めました。そのうえで、私はプロダクトオーナーとしても役割を担っていたため、CPO的な業務もこなさなければなりませんでした。
経営者としての半年間
この半年間で、経営者として行った主な業務は、起業手続き、法人口座の開設、創業融資の申し込み、複数のアクセラレータープログラムへの申し込み、そして弊社に興味を持ってくれたVCとのコミュニケーションです。なお、本格的な株式での資金調達は行っていません。
技術者としての半年間
技術者としては、技術選定やアーキテクチャ設計、ベータ版の実装、そして想定される利用者へのヒアリングを行いました。
時間が足りない現実
実際に兼任してみて、最も実感したのは「時間が全然足りない」ということです。アクセラレータープログラムへの申し込みなど、締切があるタスクは最優先になりがちです。その間、開発に十分な時間を割くことができず、申し込みが終わった後にようやく開発に集中しようと思ったころには、開発スケジュールが遅延しないよう必死に取り戻すことに追われる日々が続きました。
正直、ここに本格的な資金調達が入ってきたら、ほとんど開発に手をつけるのは難しくなってくると感じています。
経営者としての悩みが技術的優先度へ影響
また、経営者としての意思決定に迷った機能については、どうしても開発にも迷いが出てしまいました。特に、どの機能を優先すべきか、ユーザーにとって本当に必要なものは何かを決める際に、経営者としての視点と技術者としての視点のバランスを取るのが難しく、その結果、開発に一貫性が欠けてしまう場面もありました。
CEOとCTOの兼任はおすすめか?
イーロン・マスクのように、誰の意見にも左右されず、突き進むことができる天才的な人物であれば、CEO兼CTOとして素晴らしい成果を上げることができるでしょう。特に、ディープテックのように革新的な技術が経営戦略と密接に結びついている事業では、CEOとCTOを兼任することが非常に効果的です。
一方で、特別な革新技術が必要ないサービスや、ビジネスロジックに価値がある事業の場合、CEOとCTOを分けた方が賢明かもしれません。こういった場合、ビジネス面と技術面をそれぞれの専門家が担当することで、両方のプロセスが加速し、目的達成に向けた効率が高まる可能性が高いと考えます。
ただし、たとえCTOに技術的な実装を任せる場合でも、ビジネスのコア(なぜそれが必要なのかという点)についての共感が欠けてしまうと、技術的視点に偏りがちです。もし創業者がエンジニアなのであれば、初期段階ではCEO兼CTOとして自らプロトタイプの開発を行い、事業が成長しシリーズAに向けて本格的に開発体制を整えるタイミングで専任のCTOを迎えるのが理想的かもしれません。
まとめ
CEOとCTOを兼任してみた結果、経営と技術の両方を一手に担うことの難しさを痛感しました。特に、時間のやりくりや意思決定においては、両方の役割を同時にこなすことで、思った以上に負荷がかかります。それでも、スタートアップ初期には、技術的なビジョンと経営戦略を一貫して統括できる点は大きなメリットだと感じています。しかし、長期的なスケールに向けては、経営と技術を別々に担う体制を構築することも重要だと実感しました。