高校生3年間、3畳の部屋で一人暮らしをしていた。
僕は県外の高校に進学したため、
下宿で一人暮らしをしていた。
そこは学生限定の築50年以上のとても趣のあるアパートだった。
趣がありすぎて火災報知器すら付いてなくて消防法か何かの法律に引っかかったりしていた。
その趣あるアパートの中でも最も安く最も狭い部屋に僕は3年間住んでいた。
3畳の部屋で家賃は1万だった。
トイレ、洗濯機、洗面所、キッチン全て共用。
風呂は風呂桶が壊れていてシャワーのみだった。
僕は学校に友達がいなくて、
一人暮らしだから当然家でも話す相手がいなかった。
僕の部屋は3畳の和室で、
奥に細長い部屋だった。
収納は一応ある程度。
僕の部屋を初めて見た姉は「独房みたい」と言っていた。
僕もそう思った。
ただ、僕はその暮らしにそこまで不満は無かった。
自分の城を持ったという感覚は、何事にも変え難い喜びがある。
三畳の部屋だと、小さなちゃぶ台と、
布団を敷いたらもう終わる。
家具とか、レイアウトとか、そういう次元じゃ無い。そもそもシンプルにならざるを得ない。強制ミニマリズム。
僕は高校に馴染めなかったから、日々この三畳の部屋で鬱々としていた。
常に部屋で悩んでいると、部屋にいるだけで鬱々としてくる。
感情が部屋にこびりつくのだ。
思い出はいくつかある。
弁当を作って、冷ますためにしばらくキッチンに置いていて、
戻ってきたら卵焼きだけ無くなっていた。
あれはネズミのせいなのか、同居人のせいなのかいまだにわからない。
また、廊下を挟んだ向かい側に女子大生が住んでいて、時々キッチンで喋った。
彼女は僕が味噌汁を作るのを見て、「自炊できるなんてすごいねー」なんて言いながらカップ麺を食べていた。
僕はクラスで一言も話せない系男子高校生だったから「ハァ…ソスネ…」としか言えず、もちろん仲良くもなれなかった。
あとは、よく漫画を貸してくれた女子大生の人の部屋の前を通ると、ギシギシとした軋む音と小さな喘ぎ声が聞こえて、
まあ、大学生だしやるよな、なんて思いながら通り過ぎた。
こんなことがあっても興奮どころか、罪悪感すらあるのが共同生活のリアルだと思う。
僕は大学に落ちて浪人が決まり、
3年間住んだ部屋を引き払った。
引き払ってしまうと、意外と愛着があったのだと気づいた。
地元の友達がわざわざ来て家に泊まった時、
寝袋に入ってギリギリ2人寝れるレベルだったが、案外問題なかった。
友達も、意外と居心地良かったな、なんて言っていた。
部屋は寝られれば問題ないものなのかもしれない。
僕はこの経験から、どこにだって住めるな、と思った。
あれも欲しい、これも欲しいという欲望の渦に飲み込まれそうになった時、僕はこの部屋を思い出したい。