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3D解析でゴルフ指導!?これからの時代の指導者とは??

科学の進歩はスポーツの指導をどう変えるのか?

今、 欧米を中心に話題となっているマイケル・ジェイコブスと言うコーチがいます。
ゴルフを専門に指導するコーチ。 彼はまだトッププロの選手を指導した経験はない。しかしアメリカのゴルフ雑誌「ゴルフプロ」においてコーチとしてトップ50にランクインしています。



彼は従来の指導者のような、自身の経験や理論に基づく指導ではなく、「ジェイコブス3D」 という、物理学や生体力学などの科学的知見をもとに作られたソフトを用いて徹底的なデータ解析により指導を行っているそう。

今後、彼のような新しい形のスポーツの指導者は出てくるのか?また、スポーツ指導というものはこれからどのように変わっていくのかを考察していきたいと思います。


一つの事実として、これまでのスポーツ指導はコーチや指導者の経験や一般的な理論をもとに展開されることが多かったということ。
この打ち方は良い、この打ち方はダメ、理由は自分がうまくいかなかったから、ということも実際に少なくないわけです。

自分と違うフォームや考え方を理解できない指導者に当たってしまえば、未来ある選手の可能性が潰されてしまうという危険性は確かにあると思います。

しかし、一方で経験の力とは大きなもので、実際に選手としてプレイしてきた指導者の方の言葉は説得力があり、それにより新たな気づきを与えられることは決して少なくないのもまた事実。

このように、現状のスポーツの指導においては経験や感覚に偏り過ぎていて課題もあるが、今回のマイケル・ジェイコブス氏のような科学やデータを最優先するという考え方もまた万能ではないと言えるというのが実際のところでしょう。

例えば、人の目とは想像以上に正確ではないのです。

あなたがもし、色鉛筆やカラーマジックのようなものを持っていたら是非試してみてください。

まず、目をつぶり全ての色鉛筆をぐしゃぐしゃに混ぜます。それぞれの手に一本ずつ色鉛筆を取り、目をつぶったまま両手を顔の真横に勝てた状態で持っておきます。つまり、片手に一本ずつペンを持っていますが、何色かわからない状態ですね。

次に目を開けて、少しずつ両手を顔の正面に持って行きます(この時、顔は正面を向いたまま、目も左右に動かさず正面を向いたままにしてください)。すると、あるところで自分が何色のペンをそれぞれ右手と左手で持っているのかが見える場所があると思います。最初に色が認識できた場所(角度)を覚えておいてください。

次に、同じようにペンを持ったまま今度は正面から、つまり見えている状態から少しずつ横方向に手を広げていってください。さっきとは反対に色が見えなくなる場所があると思います。

いかがでしたか?これ、誰がやっても基本的に間違いなく、一度見えた後の方が認識できる範囲が広がるんです。
めちゃめちゃ不思議じゃないですか?これ実は、見えてる!ってことじゃないんです。だって、見えているんだったら横から正面に持ってきたときも同じ場所で色が認識できるはずです。これは、一度正面で認識できた色は脳が勝手に補正をかけて色を足しているんです。つまり、スマホのアプリみたいに脳は勝手に画像編集をしているわけです。

さらに、人の目には認識できるスピードの限界があります。

例えば、野球のバットや、ゴルフのクラブ、サッカーボール、スポーツで使われる道具は実際ものすごく曲がったり歪んだりしています。

しかし、野球を見ていて打った時にバットがしなっていることやゴルフのクラブも大きくしなっていること、サッカーボールも蹴る瞬間に大きく潰れていることを僕らの目で認識するのは不可能です。

道具はしなったりへこんだりしているのにそれをほとんど認識できない。
”ズレ”が生じるのはある意味必然といえるかもしれません。
僕らはスポーツを見ていてもプレイしていても、実際に起きていることと認識できていることに大きな差があるのが事実です。

これを表現する言葉として、これまでは感覚や経験といった培われたものが主に使われてきました。
しかし、彼らもまさに感覚であり経験でしかないものですから、具体的な説明をするのは難しい。この差を埋めてくれるものの一つとして、 化学や物理学といった視点からのアプローチは非常に有効なものの一つといえるでしょう。

当然、一方で疑問も生じてきます。


それは、科学や物理学に基づきデータが取れたものでも、感覚とずれている場合があるということ、これがスポーツには往々にして起こります。

例えば、世界のホームラン王、王貞治選手が畳の上で行った真剣での素振りは非常に有名です。その時にダウンスイングと言われる上から下に振り下ろすような練習を彼はずっとしていましたが、試合の映像を見ると彼は綺麗なレベルスイング、つまりほぼ水平にバットを振っていました。

このように、科学やデータで見た数値とプレーしている本人の感覚や意識が全く違う!ということがスポーツの世界ではたくさんあります。

そして、科学的に正しい理由付けをして説明をした方がうまく修正できる選手もいれば、理論や理屈はめちゃくちゃでも、感覚的な説明をした方が実は理解ができてその先の成長につながる選手も非常に多いのです。

1つ1つの動きを取ってみてもそうでしょう。この選手はこの動きに特徴がある、と思って本人に聞いてみると、その動きは実は意識しているものでなくて、自然に出来ているもの、実は全然違う他の人は当たり前に出来ている部分の動きをその選手は強く意識しないとできない、なんて事もあるわけです。

”本人が感じる感覚”に科学やデータは入っていけませんから、ここの間にはまだまだ壁があります。

こういった指導者の方が出てくることはある程度予想されていました。

しかし僕はこれから先、指導がこういった形に全て変わっていくという風には全く思いません。

ただ一つ間違いなく言えることは、選択肢が増えたということ。

これは選手だけではなくコーチとしてもそう。これまでは考えられなかった”競技を経験していない指導者”が出ることは間違いないだろうし例えば、経営のプロやマネジメントのプロがプロ野球の監督をしたっていいわけです。

スポーツの世界だからおかしいと思われるかもしれませんが、ビジネスの世界であれば普通のこと。サラリーマンが独立起業しラーメン屋さんになっても何もおかしいはないのです。

選択肢が増えるということは非常に素晴らしいですが、逆に言うとどの情報をどう取り入れるのか、これを選ぶのがより難しくなったということです。

僕らの頃は例えばコーチが2人いて監督が1人、全部で3人の指導者がいる。それぞれから少しずつ違う指導をされることはあるわけです。たったそれだけでも僕らにとってはパニックです。

しかし、これからの時代の選択肢の多さはこんなものではありません。

監督やコーチが言ったこと、雑誌に書いてあること、 YouTubeでプロが情報発信していたこと、科学やデータで導き出された正解、自分の感覚、おそらくすべてが正解に聞こえておそらくすべてが間違いに見えるでしょう。

そして、スポーツの奥深く難しいところは、この莫大な情報のうち何を選ぶかは、自分にしかわからないということ。

なぜか。それは、スポーツにおいて何よりも重要なエッセンスは他の誰でもない自分自身の感覚だからです。
この自分自身の感覚だけは、他の人に共有もできませんし、理解しきれません。
同じ特徴を持った選手が、同じ指導を受け、同じ練習をしたとしても、同じ成果は得られません。

ここがスポーツの奥深さであり難しさでしょう。


今後は、ますますこういった科学や、物理学、生体力学を用いた指導や理論が増えてくるでしょう。 

でも、大事なことはバランスだと思っています。


近年、科学が目覚ましい発展を遂げていることは間違いありませんが、万能かと聞かれれば全くそんなことはありません。

例えば、ゴルフではスイングや風向きなどの修正はいくらでもできるかもしれませんが、試合の大事な局面においての緊張感だったりフラストレーションだったりを定量的に測ることはできませんし、完全に無くすこともできません。 

経験に裏打ちされた正義と、科学やデータに基づいた正義、これらは同じではないかもしれませんが、かといって争うことはしてほしくないなと思います。
どちらの理論を持つ方も、もう一方を否定するのではなく純粋に競技のため、スポーツ界のため、未来ある若い才能のために、協力し合えるようになっていったらいいなと思います。

例えばですが選手に、経験値的な感覚論での指導と科学やデータ的な指導を両方を行う、その上で選手の方にどちらを選んでもいいし、どちらも選ばなくてもいい、どちらかを選んだことで、君に対する評価は変わらないし、どちらも選ばなかったとしても、君の選択を尊重する。でも、どんな選択肢を選んだとしても今後もアドバイスは続けていくよ。

そんなふうに声をかけられたら、どんな選手が育つんだろう。ということは非常に気になります。

ですが、どちらが選ばれた・どちらが優秀なのか、そういった議論がすぐに出てきそうですね。だって、複数の指導者に別のアドバイスをされてパニックになるのも、実は迷っているのは理論についてじゃなくて、”人間関係”だったりします。
指導した人達の顔色をうかがいながら、ご機嫌取りをしながらプレーする子供たちを横目に小競り合いする指導者の方を見た経験もないわけではありません。

技術の進歩と、その使い方の進歩がイコールでないのが悩ましいところです。

今後、こういった形で異業種から指導者や監督が誕生することは大いに歓迎です。

同じ山を登るために、いろんなルートがあっていい、スポーツ界でも少しずつそういった事が進んできているのかなと感じました。

大いに選択肢が増え、ユニークな経歴を持った選手や指導者がたくさん誕生してくれると面白いなと思いました。


 PS. 

データと自分の感覚を合わせる、ということにおいて日本で一番すごいのはタレントの武井壮さんだと思います。彼がOne TOKYOという 本田圭佑さんが立ち上げたサッカーチームの監督に就任したことはまさに新しい時代のスポーツの始まりといえるかもしれません。 



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