年俸高騰とトップアスリート
日本では緊急事態宣言の解除を受けて、各スポーツ団体など、少しずつ試合や練習の再開を始めています。
そんな中、世界一の感染者を出してしまっているアメリカでは巨大スポーツ団体も多く、試合自体が開催できないこの状況で、お金の交渉が難航しているようです。
【MLB】まだ見えぬ7・5開幕 年俸38億円→8億円の年俸削減案に選手会反論
出典:フルカウント
アメリカには野球だけでなく、アメフト・バスケ・ゴルフなど、アメリカのリーグというより世界中から選手が集まる世界リーグのような団体が複数あります。
世界市場のスポーツ界というのは本当に様々な事情を抱えている選手がいて、飢餓や貧困に苦しんでいるわけではない日本という国ではほぼすべての選手が純粋な”夢”の探求でその世界を目指す一方で、生きるための手段としてスポーツで成功して一発逆転するしかなかった選手もいれば、貧困に苦しむ地元のたった一人の希望の存在である選手、あくまでもスポーツがビジネスの一つにあって、出稼ぎのような感覚の選手など、国や生まれ育った環境・バックボーンやスポーツに対する価値観なども含め、全く違う多種多様な超人達の集まり、というのがこういった世界市場の競技団体なわけです。
日本ではある出来事が起きたとき、良くも悪くも国を挙げて同じような価値観を抱きやすいわけです。民族もほぼ同じだし、生まれ育った環境も基本的にはほぼ一緒か想像がつく。しかし、アメリカのような場所ではそうはいかないのです。
同じ出来事に対して同じ情報を出しても共感を得るのが難しい、これは我々にはなかなか理解するのが難しい感覚な気がします。
その上で今回の新型コロナウイルスによる年俸の問題というのは、そのあたりを結構如実に表してしまったなって思うんです。
記事にあるMLBの事例を出すと、新型コロナウイルス流行が本格的になってきた3月には、選手会としては減俸についての受け入れを表明しているのです。そこでは、球団スタッフなど必要な人材もいるうえで選手だけが高額年俸を保証されるのはおかしい。という意見に賛同し、選手も快く受け入れました。
今回はその続報です。つまり、世界的には少しずつ色々なスポーツなどが再開される中で、アメリカではその見通しがまだ立っていません。
そこで、さらなる減俸を申し入れました。しかもいわゆる累進方式で、年俸が高い選手ほど高額な減額をされるというような条件案だった。
これに対し、選手会は抗議、現在交渉中ということです。
ここで考えられるのは大きく分けて3つです。
”試合再開などへの意見がまとまりにくいこと”
”アメリカの交渉文化によるもの”
”そもそも年俸が高騰しすぎていること”です。
1点目は、先ほどの様々な事情を持つ選手がいるという中においては、試合再開に対する考え方が本当にまとまりにくいと思います。日本ではシンプルに国内感染者のニュースを見て、大丈夫だって思うかもしれません。
しかし実際にはなぜ日本ではここまで感染が抑えられたのか?人種やその他の遺伝子的条件が感染及び重症化に対して何らかの影響があるのではないかなど、わかっていないことが多い。
それに、シーズンが終わって自国に帰国することを考えたときに再開への警戒心が非常に強い選手がいます。逆にとにかくお金を稼ぎたい選手は、とにかく早く再開してほしい。
そのあたりの差が一つの国のリーグとは比べものにならないくらいに大きいんだと思います。恐らく今後ある程度感染拡大が仮に収まってきたとしても、再開までの道筋は一筋縄ではいかないでしょう。
2点目では、アメリカのような国では良くも悪くも交渉、記録、書面といった形式を非常に大事にするという点です。
これも先ほどの多様性文化が象徴していることの一つでもあるんですが、価値観のすり合わせが難しい以上は、書面や記録でしっかり残さないとお互いを信用しないわけです。お金の問題となればなおさら。
日本では、やってみたら最初に聞いていた話と違った!なんてことはよくある話ですが、アメリカでは真逆です。
つまり、交渉事や揉め事は最初にやってしまい、決まったらお互いもう言い合いっこなしね!みたいな感覚です。日本でいう泥沼裁判みたいなものを最初に済ませてしまうことで、お互いそれ以降は気持ちよく仕事しようよ!ってことですから、交渉の席においては全員、超が付く強気なわけです。
実際、一般的に考えたら記事に出ている38億→8億て、8億でもすごいじゃん!って思いますけど、割合で考えたら怒るのもわかる金額です。年収380万円が今年は80万円って言われていると思ったら結構震え上がりますよね。
お互いが交渉テーブルについている以上、揉めているというよりもアメリカではこれが普通のこと、という認識です。
結局はお互いの折衷案的なところに収まるんだけど、そこまでの過程としてのポジション取りの最中だという見方ができる訳です。
そうみると今後の展開も結構楽しみなものになってきますよね。
そして、最後がそもそもの年俸高騰問題です。ここは近年、メジャーリーグを含む大手のスポーツ界では非常に危惧されてきた問題です。
例えば、テニスやゴルフなど、基本的に個人競技で賞金とスポンサーからの資金が収入源の場合はあまり問題ないわけです。
しかし、チームスポーツのように年俸という形でその選手がいるだけで支払われる固定給での収入源の場合はそういうわけにはいきません。年俸という契約形態は、基本いるだけでお金がもらえるシステムですから、契約後に調子を落として不良債権化しても選手としては超高額のサラリーをゲットし続けられるわけです。
近年ではこの年俸高騰が一向に止まらず、問題になっていました。
世界市場のスポーツでは、ライバルが世界中にいるわけです。その中で優秀な選手を取りたい!と思ったら、他のチームに負けない交渉をしなければなりません。
当然、世界で共通的に価値があるとされるのはお金ですから、高額なお金で長期契約を保障し、選手を引っ張ってくるのが常套手段になるわけです。各国のスターを集めることで世界で放映権が吊り上がり、近年では年俸30億円を超える選手が出るようになりました。多くは5~8年の複数年契約を結んでいて、成績が残せなくてもその選手は100億、200億といった収入が確定するような契約が当たり前になってきました。
超高額年俸の選手がいる一方で、ボロボロのバスに揺られて生活するマイナーリーグの選手もいる。夢を見せるにはこの格差はいいのかもしれませんが今回のような状況では当然、利益の大半を持っていっている高額年俸の選手から減額という発想になります。
正直言うと、選手会としてはこの部分には触れてほしくないのが本音なのでしょう。
アメリカンドリームという言葉は美しい。夢は大きく膨らんでいく方が選手としては嬉しいのでしょう。
しかし、夢が膨らむほど闇も深くなってしまっては、本質的なスポーツ界のためにはならないわけです。
今回のことをきっかけに、この圧倒的格差と超高額年俸というのを考えなければならないのは間違いないでしょう。
かつてのバリーボンズ選手は日本に日米野球で来日した時、年俸10億円を超えていなかったはずです。あの頃の彼の3倍以上の年俸をもらっている選手が複数いる一方で、彼以上の人気や彼以上の影響力を持っている選手はどれだけいるのでしょうか?
日本には全く足りていないスポーツ×ビジネスのセンスと、マネーゲームはあっぱれです。でも、そろそろその成長は拡大ではなく膨張になってきてしまっている印象です。
スポーツはそれ自体では医療や食品のように人を直接救うものではありません。価値が見えづらい分、適正化価格などないのかもしれません。
でも恐らく、今の年俸は高くなり過ぎな気がします。正解というのは難しいですがもう少しバランスを取った、夢を目指す人間もある程度整った環境でできるようになると少し変わってくるのかな?とも思いました。
関係ない話ですが、アメリカでの再開が現状相当遅れそうなのは事実なわけです。であれば、例えば日本でプロ野球が開催になって、日本に帰国しているメジャーリーグの選手は限定契約で参加できるとかになっても面白い気がします。
アメリカでの各スポーツの再開がいつになるかはわかりませんが、それによりこの交渉もどうなるか本当にわからないです。お金の”バランス”って本当に難しいですね。