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第12話 リーダーシップ研究にはどのようなものがあるの?~その2

 今回は、第11話に引き続いて、1970年代以降のリーダーシップ研究のレビューを行いたいと思います。1970年代に入ると、唯一絶対のリーダーシップ・スタイルが存在するという単純化されたものの見方に変化を促し、リーダーシップの有効性は、リーダーがおかれた状況に依存するという、より現実的なものの見方が提供されるようになりました。「コンティンジェンシー(条件適合)理論」の展開です。このような見方を最初に提唱したのはフィードラーという学者です。その他の理論としては、ハウスの提唱する「パス・ゴール理論」が有名です。ここでは、その2つの理論についてレビューしたいと思います。
 フィードラーの理論では、個人のリーダーシップ・スタイルを人間関係志向かタスク志向のいずれかに評価し、状況要因として、①リーダーと成員の人間関係、②タスクが構造化されている程度(部下の職務範囲が明確に定義されている度合い)、③リーダーの職位に基づくパワー(雇用、解雇、懲戒、昇進、昇給などに対してリーダーが持つ影響の度合い)が考慮されました。リーダーと成員の人間関係が良く、タスクがはっきりしており、パワーも十分あるという状況は、リーダーにとって最も好意的な状況を指しています。逆に、リーダーと成員の人間関係がまずく、タスクもあいまいでパワーも不足している状況は、リーダーとして最もやりづらい非好意的な状況を指しています。そして、状況好意性が高い場合と極めて低い場合では、タスク志向のリーダーが有効であり、状況好意性が中程度である場合では、人間関係志向のリーダーが有効であるとの結論を導き出しました。フィードラーの認識では、個人のリーダーシップ・スタイルは、人間関係志向かタスク志向かいずれかに固定されていたものと仮定していました。よって、リーダーシップの有効性を改善する方法は、状況に適用したリーダーを選ぶかリーダーに合うように状況を変えるかの2つしかありません。
 「パス・ゴール理論」では、フィードラーの固定的なリーダー行動に関する考え方とは対照的に、ハウスは、リーダー行動は状況に応じて可変的であると認識しています。そして、個人のリーダーシップ・スタイルを、①指示的リーダー(タスクの達成方法を具体的に指導する)、②支援型リーダー(親しみやすく、部下のニーズに気遣いを示す)、③参加型リーダー(決定を下す前に部下に相談し彼らの提案を採用する)、④達成志向型リーダー(困難な目標を設定し、部下に全力を尽くすよう求める。)の4つに規定しました。パス・ゴールという用語は、有能なリーダーは、パス(道筋)を明確に示して、ゴール(業務目標)の達成を助け、障害物などを少なくすることで、その道筋を歩きやすくするという確信に由来するものです。状況要因としては、「部下の個人特性」と「集団の仕事環境特性」という2つの要因をあげています。前者の典型は「部下の仕事能力」であり、後者の典型は「タスクの不確実性」もしくはそれに起因する「役割の曖昧性」です。基本的にこの理論では、リーダー行動は2つの状況要因を補うべきとされています。つまり、部下あるいは業務環境に欠けている者をリーダーが補完する場合、例えば、タスクがあいまいでストレスが多いときには、指示的リーダーシップ・スタイルをとって、タスクのあいまいさをリーダーが取り除くことによって、従業員の業績と満足は上昇する可能性が高い、しかし、タスクがすでに明白であったり、部下社員が上司の干渉を受けなくてもタスクを処理できるだけの能力と経験を持っているのに、指示的リーダーシップ・スタイルをとれば、くどい、あるいは人を馬鹿にしているとみなされがちです。リーダーシップの研究は、このころになってようやく、リーダーの行動のみでなくリーダーを取り巻く状況やリーダーとフォロワーとの関係性にも視点が向かうようになり一段と現実に近いものとなってきました。

 1980年代以降になると、認知理論に影響を受けた研究とマクロ的な視点から集団や組織の変革をキーワードとした研究がなされるようになりました。このころの認知理論の影響を受けた研究の代表例としては、「帰属理論」が挙げられます。この理論では、フォロワーの行動や結果を知ったリーダーは、なぜそのような行動や結果が起こったのか、原因は何なのか情報探索をし、それらに基づいて判断(原因帰属)します。例えば、リーダーは、フォロワーの低業績の原因を、作業の困難性や運という「外的に帰属」する場合よりも、能力ややる気の不足という「内的に帰属」する場合に懲罰行動をとることが明らかになっています。「帰属理論」は、リーダーがフォロワー行動の原因をどこに帰属するかによってリーダー行動に差異が生ずる。つまり、リーダー行動発生の内的過程を説明しようとしたものです。
 この年代のもう一つの研究の特徴は、「変革型リーダーシップ理論」の展開です。この理論が登場してくる背景には、大量生産によるプロダクトアウト型事業運営が転機を迎え、戦略とマーケティング主導の事業運営の必要性が増すと同時に、従来からのやり方を根本から改めるような企業変革が求められるようになったことが挙げられます。決められた業務を遂行するマネジャーではなく、変革の先頭に立つ変革型のリーダーの資質や行動が注目されるようになりました。

 ここまで述べてきた、リーダーシップ研究において、フォロワーのことをどのように考えてきたのかについて考察してみますと、1970年代頃までは、フォロワーの追従は当然のこととして、リーダーの特性や行動、そして状況要因との関係について、リーダーからの一方的な働きかけを中心に研究がなされてきました。1980年代に入りようやく、従順で受動的なフォロワー観から、主体的で能動的な認知者としてのフォロワー観へとフォロワーに関する認識の転換がはかられ、フォロワーの認知にも踏み込んだ研究がなされるようになりました。簡単に言うと、物言わぬフォロワーから物言うフォロワーへの認識の転換です。しかし、1980年代になされた研究の多くは、リーダー抜きのフォロワーの研究でした。
 ところが、1990年代以降、近年の研究では、リーダーとフォロワーとの相互影響関係の視点が重視されるようになり、より現実を捉えたものになってきました。第3話でも説明させていただいたとおり、リーダーシップとは影響力の問題です。リーダーが影響力を行使し、フォロワーがそれを受容して、フォロワーのものの考え方や行動、感情の変化が現れ、リーダーからの影響を受け入れた場合に、リーダーシップという現象が現れます。そして、フォロワーはリーダーに無条件についていくのではなく、フォロワーの追従は、リーダーと相互影響関係を続けながら形成されていきます。つまり、リーダーがフォロワーに影響力を行使しても、リーダーが何らかの意思決定を行うまでに、フォロワーがリーダーに対して一定の影響力を行使して、リーダーの言動を修正させたりすることもあります。現実の場面を考えれば、リーダーの言動を、フォロワーが単に全面的に受け入れて、追従することはほとんどありません。よって、フォロワーの認知と働きかけを考慮しない限り、現実のリーダーシップ現象の解明は困難です。つまり、リーダーとフォロワーとの相互影響関係を考慮することが重要になってくるのです。現在のリーダーシップ研究においては、このようなリーダーとフォロワーの認知と行動を含めた双方向的な相互影響関係を考慮に入れたダイナミックな研究が多くなされるようになってきました。筆者も一貫して、このような視点からリーダーシップの本質を捉えようとするものです。

 以上、前回と今回で、リーダーシップ研究についてどのようなものがあるのか、その系譜について説明してきましたが、これまでの研究の成果をまとめますと、次の3つになると考えます。①リーダー行動は「仕事」と「」の2次元でとらえることができる。②有効なリーダー行動には、唯一絶対というものは存在せず、状況によって異なる。③リーダーの影響力はフォロワー全てに均等ではなく、フォロワー個人個人が、リーダー行動をどのように捉えるかによって影響の受け方や反応が異なる
 これらの研究成果をもとにして、リーダーシップの本質を捉えるには、リーダーとフォロワーの認知と行動を含めた双方向的な相互影響関係を考慮していくことが大切なことがわかります。今回もお読みいただき、ありがとうございました。

(参考文献)
金井壽宏『変革的ミドルの探求-戦略・革新指向の管理者行動』,白桃書房,1991年。
坂下昭宣『経営学への招待[第3版]』,白桃書房,2007年。
淵上克義『リーダーシップの社会心理学』,ナカニシヤ出版,2002年。
Stephen P.Robbins,(1997),Essentials of Organizationai Behavior,5th Edition,Prentice-Hall,Inc.(高木晴夫監訳『組織行動のマネジメント 入門から実践へ』,ダイヤモンド社,1997年。)


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