ポーランド訪問記③

こんにちは。

ポーランド視察について続きを書きたいと思います。

5.子どもの友協会(NGO)

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 子どもの友協会は、1919年に設立された孤児なくしたいとの目的で設立された民間団体が母体となっており、今は全国に300ほど支部(下部団体のようなもの?)があるそうです。ちょうど、今年が100周年記念で様々な寄付イベントを行っており、大統領夫人がメインサポーターになっています。
 現在の各支部のメインの活動は街の居場所づくりを通じて、子どもの孤立などを予防することです。放課後の子どもがレクリエーションや文化的な活動を行えるように各都市に居場所が設置され、8~15歳の子どもが通っています。料理や乗馬体験、ボルダリング体験やピクニックなど集団支援がメインでしたが、最近では個別支援を行うプロジェクトも発足しているそうです。
(居場所はワルシャワ市内に71か所、それぞれ通っている子どもが30人ほど、1~3人ほどの専従スタッフとボランティアで運営されているそうです。)

・行政とのすみわけについて
 元々は、労働者街で子どもをサポートする互助団体的な存在で行政との関係は薄かったそうですが、90年代以降にワルシャワ市も意義ある活動だと認めてくれ、連携するようになりました。2013年より正式に補助金が出るようになり、ワルシャワ市内の社会福祉センターや学校とも情報提供などの協定を結んで活動し、2016年にはワルシャワ市以外の自治体とも協定を結んでいます。
 居場所に通っている子どもは主に親や学校、裁判所から紹介されてくるそうです。(なんと、裁判所が必要と認めたら居場所に通うことを命じることができるそうです。
 行政が補助金をつけたり、裁判所が通所が問題解決に必要と認めるくらい、居場所への信頼が厚いことがよくわかりました。ポーランドでは社会福祉センターなどと協定を結ぶ基準や児童福祉で補助金の要件はかなり厳しく、2011年に里親制度改正時には児童養護施設も同時に質を向上させるために評価を行ったところ、ワルシャワ市内の100か所中、30か所しか条件をクリアできなかったそうです。

・居場所の効果
 居場所での子どもの発達についてもきちんと評価をしており、通学率の向上、成績の上昇、友人関係が良好になったなどの結果が出ているそうです。居場所ができたことで若者が集まり、地域の雰囲気がよくなったと地域住民のイメージもよくなったと仰っていたのが印象的でした。
 また、居場所でインターンをしている学生たちが子どもへ「将来の夢は何?」とインタビューしている動画を見せてもらいました。子どもたちが照れながら「医師になりたい」、「美容師になりたい」、「大統領になりたい」など答えている姿や、それに突っ込んでいる学生たちの姿がとてもほっこりしました。(PIECESとかでも作りたい。。。)

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 ここでは、100周年記念のキーホルダーをお土産にもらいました。子どもの友協会のロゴが印字されており、子どもの手と大人の手が重なり合っている素敵なロゴでした。

6.ワルシャワ危機介入センター


 ワルシャワ危機介入センターは2012年に設立された機関で、DVなど深刻な家族問題に対してのサポートを行い、24時間開設のカウンセリング窓口(ポーランド国内では合計10か所)や一時避難所があります。(日本だと配偶者暴力相談支援センターにあたるようなところです、)
 訪問した事務所は12名の心理専門職の職員がいて電話、対面でもカウンセリングを行っているそうです。驚いたのは、被害者だけではなく、加害者も一緒に通所もしくは収容してケアを行うとのことでした。社会福祉センターは金銭的なサポートなど行い、危機介入センターは心理的な側面でのサポートを行うという役割分担になっているそうです。(ブルーカードに危機介入センターの職員がセラピーなどの経緯を記録。)

・ケアの流れ
 ワルシャワ危機介入センターは窓口は24時間開いており、基本的にクライアントが自分で来所するか、裁判所の命令で来るかのどちらかで、必要であればセンターの職員が家庭への聞き取り調査を行ったり、被害者をシェルターへ避難させます。
 また、ポーランドでは、基本思想として、日本のような接近禁止命令など被害者を隔離することだけでなく、加害者も含めて問題解決するというDV対策になっています。
 DV禁止法が2005年に制定されここでDVの定義やその後の措置についても定められ、裁判所は当事者へ治療を受けることを命ずることができ、実際の決定も圧倒的に治療の措置が多いそうです(国として心理的な治療が有効であることを認めているといことです。)
 ペアで来所してもらい、事実認定、職員による面接を行います(1ケース、最低10回は面接するそうです)。ケースによっては半年以上、治療が続くことがあるそうです。

・DVから見えてくる家族問題
 職員の方が話していて印象的だったのは、暴力は連鎖するということです。実際に対処したDV加害者の8割が自身も子どものとき両親がDVを行ったり、児童虐待を受けていたという経験があるそうです。「子どもには声がない」(子どもは意見表明できないという意)ということわざが昔のポーランドにはあったらしく、子どものケアも含めた家族のケアについてはまだまだこれからだと仰ってました。


カウンセリングルームなども見せていただきました。

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上記二つの訪問先の考察

・居場所の必要性
 子どもの友協会の行っている子どもの居場所について100年の歴史を積み重ねながら地域や国の理解を得て、労働者街の互助組織から国家の保障する子どもの精神的なセーフティーネットとして発展してきました。
 日本においても近年は「子ども食堂」という食事や学習支援をきっかけとした子どもの居場所がつくられ来ています。以前、とある有名な社会活動の先生に子ども食堂についてヒアリングを行ったところ、「子ども食堂は「子ども」という名前がついているが実質は多世代交流拠点である。地域に人が住み続ける限り、子ども食堂は地域の財産として存続し続けると思う。」というお話をいただきました。
 わずか数年で3000か所にも増えた「子ども食堂」の動きを止めずに、居場所が社会的な価値を生み出していることが引き続き日本でも理解してもらえるような発信が必要だと思いました。


・相談支援という社会保障の到達点
 特定の社会的なリスクに応じた給付を行うというのが社会保障の原則です。近年は社会保障の土台にある自助、互助が機能せず、複合問題(8050問題のような)が生じ、制度の隙間が生まれてきました。
 しかし、「相談支援」や「カウンセリング」の効果の評価や環境を整備することによって、個別にカスタマイズした支援の提供が可能になるのではないでしょうか。
 日本においては、生活困窮者自立支援制度に相談支援や家計相談などの事業が盛り込まれて、下記のような意見も出ています。

平成30年4月24日 衆議院厚生労働委員会 参考人質疑
早稲田大学法学部 菊池馨実教授
 「要保障事由の発生に対しての公的給付という社会保障の捉え方の限界が明らかになってきています。(中略)事故ないしリスクに着目した捉え方は、貧困や生活困窮をもたらし得るリスクの発生という、いわばマイナスの事態に対する保障という側面に着目した捉え方であります。しかし、こうした捉え方では、人々の発達や成長に向けた支援、サポートといった積極的な意味での保障を規範的に支える論理とはなりがたいわけです。
 (中略)相談支援は、(中略)国家レベルでの対応の網の目からこぼれ落ちた人々の困窮に対し、地方レベルで、個々人のニーズにあわせてオーダーメイドで支援していくための画期的な仕組みとして評価でき、それは戦後日本の社会保障の歴史的到達点と位置付けられるものでもあります。」


 権利行使すべき人へのアウトリーチ、権利を行使する際の意思決定支援、個別ニーズへカスタイマイズ支援という流れがあって、取りこぼしを防ぐことができます。
 様々な現場のケアを適切に評価して組み合わせることで少しでも制度の隙間に漏れてしまう人をサポートできるのではと感じました。


以上で長くなりましたが、ポーランド視察の内容と考察になります。
1週間という短い間でしたが、様々なことを考えるきっかけや知見を得ることができました。引き続きライフワークである社会福祉、社会保障について研鑽していきます。


(本文中の内容は私個人の見解であり、所属する組織の見解とは一切関係ございません)


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