「ポーランド訪問記②」
こんにちは。
ポーランド視察について続きを書きたいと思います。
3.ワルシャワ地区社会福祉センター
ポーランドには社会福祉センターという日本でいうと児童相談所と福祉事務所を合体させたような機関があります。
社会福祉センターは各市町村ごとにあり、ワルシャワ市内は特別区として18か所の社会福祉センターがあります。それぞれのセンターは専門分野があり、訪問したセンターは家族支援を専門にして、ボーラ地区というところを担当しています。(他に高齢者支援、精神疾患を専門にしたセンターや、驚いたのは健常者の居場所づくりなど住民の自主活動支援を専門にしているセンターもあるとのことでした。)
ポーランド社会保障法を基づいて活動し、家庭訪問を行って調査・診断をしてケースに対応するのが基本的な仕事の流れです。病気、貧困、失業などを対象に地区人口の4.5%ほどの人がケアの対象で、2000人ほどへの金銭援助、独居老人のサポート、600人へ生活援助サービス、事務所へ来た人への少量提供(ポーランドでは、来所者には必ず温かいスープを与えるのが義務だそうです。)を行っているとのことでした。
・ポーランドにおける児童虐待対策
児童虐待の予防について、日本では乳児家庭全戸訪問事業を行い出産時から育児をサポートできるような体制をとっていますが、ポーランドでも同様に「子ども健康手帳」というものを配布して18歳までの定期健診の結果を記録していく制度があるようでした。
児童虐待の通告については、病院が一番多く、外傷などから発覚することが多いそうです。通告後は訪問などして調査を行い、重いケースでは強制的な介入として、日本と同様に立入調査や一時保護を行うそうです。
その後、里親や施設に預ける場合に、ポーランドで教育効果なども加味して委託先を選択されるそうで、血のつながった祖父母よりプロの里親が優先されることもあるそうです(急を要するときは福祉センターで決定可能)。これは、虐待などで子どもがダメージを受けても年齢が若いほど回復率するという根拠に基づいているそうです。
(ポーランドでは、里親委託率が高いので、こうしたプロ里親が出現するのかなと思いました。)
昨年、同センターでは82件の里親委託を行い、12件ほど里親から元の家族へ再統合支援を行ったとのことでした。
・ポーランドにおける家庭問題
ポーランドでもDVは深刻な家庭問題で、DVを行った人はブルーカードというものが作成され、そこへその人の記録がなされて、当該人物の治療に役立つ機関へ情報提供される制度になっています。個々人の原因に対処するというよりは、家族問題として取り扱い対処するプログラムになっているそうです。
また、親の年金で暮らしながら家から出てこない引きこもりがポーランドでも社会問題になっているようでした。
センターよりお土産に高齢者の方がセンターの作業所で裁縫で作成したイチゴをいただきました。
4.子どもの権利庁
子どもの権利庁とは、ポーランド共和国憲法72条に定められた機関で、子どもの権利条約など子どもに関する法令を遵守して子ども個人の尊厳が完全かつ調和的に守られているか確認する機関です。(日本でいう厚生労働省のような児童に関する政策を所管する役所は別であります。)
世界で唯一の国立のオンブズマンで、子どもの権利擁護に関して個人、学校、政党などあらゆる機関へ申し立てする権限が与えられ、調査や子どもの代理人になることができます。また、自ら立法権も有しています。
子どもの権利庁はワルシャワ市内の住宅街にひっそりとあり、普通の家のような外観でした。権利庁では長官が自ら出迎えてくれ、説明をしてくれました。(長官は閣僚のランクだと大臣クラスになります。)
子どもの権利庁は、下記の四つの部門にわかれています。
・子どもの教育(学校などで体罰など不適切な教育が行われていないか監 視する)
・裁判・法律関係(司法手続きなどの代理を行う)
・国際関係(国際結婚による親権問題、難民問題を扱う)
・社会保障関係(金銭的援助や政策に関する問題を扱う)
また、子どもが直接権利庁へ申し立てできるような窓口もあり、「子どもによる信頼電話」が開設されています。ここで来る子どもからの相談内容の上位は、「家族への不満」、「学校・友人への不満」で基本的には匿名で連絡を受けますが、本人の希望があれば学校など調査して心理や法律の専門家につないで問題解決を行うそうです。
・子どもの権利庁の介入(指摘)する意義
子どもの権利庁が実際に介入して実現した法律や取組として、刑事法の子どもへの性犯罪に関する法改正や、体罰の禁止(2010年)、地方における学校のスクールバス開通などがあります。
権利庁は介入先の機関の権限を奪うのではなく、基本的には、元の権限を持っている機関に実施してもらいます。また、あえて介入することで社会への問題提起となり、そういった効果もふまえて介入しているそうです。(当該機関の上級機関に対しても介入できるそうです)
・子どもの権利庁への理解
子どもの権利庁は、子どもの権利条約を具体化するために設立され、様々なキャンペーンや取組を通じて国民の理解を得てきました。
長官が自分の子供を叱ったことがあるとインタビューで答えたら「体罰長官」と炎上したことがあり、なんでもすぐに反応するのではなく、子どもにとって何がだめなのか常に境界を考えさせられるとおっしゃってました。
上記の二つの訪問先の考察
・子どもをサポートする社会的資源
福祉センターでは、職員一人あたり地区の500人ほどの子どもをカバーしているのに対して、日本では子どもの人口と児童相談所職員数の比率を単純計算すると、職員一人当たり4000人をカバーすることになります。また、虐待通告件数との比率でも職員一人当たり年間30件ほど持つこととなります。(この日本の比率を聞いて福祉センターの職員さんは絶句していました。)
他にも学校の教師や保育士、民生委員など多くの人が子どもを見守ることに参加しています。しかし、地域の見守り機能の低下や子どもの問題の多様化によってすべての子どもに目が行き届いているかわかりません。
福祉センターでは、センターがやらなければならない仕事は職員が行い、その他の活動は地域のボランティアに協力してもらっているとのことでした。(ボランタリー制度として、75名ほどが居場所づくりなどに参加しているそうです。)
同様に日本においても、私自身子どもの居場所づくりに関わっていて、何か機会さえあればそうしたボランティアに参加したいという大人は多いと実感しています。
専門職だけで子ども守るのではなく、日常において大人が気軽に子どもと関わる機会づくりも必要ではないでしょうか。
・アドボカシーは代理であって、代行になってはいけない。
子どもの権利庁で私が個人的に印象に残った話が二つあります。
一つは、長官が全国の学校の入学卒業式やその他の行事できるだけ参加するようにしているという話です。これは、形式的に呼ばれて挨拶するということではなく現場視察を兼ねていて、常に子どもがどのような環境にあるのか現場に行くようにしているとのことでした。
もう一つは、「どうやって子どもにとって良いと判断をして行動するのか?」との質問に「それはとても難しく、これという基準はない」という回答でした。続けて、「これは、私たちにもわからないが、現時点の悪い状況から脱することを優先する」とお話いただきました。
上記の話を聞いて、権利庁は一方的に子どもにとって良いことを決めて行動している(代行)のではなく、子どもからの委任を意識しながら行動して(代理)、状況改善に努めているのがよくわかりました。
PIECESの会議などではよく、困難な状況にある子どもたちは「炭鉱のカナリア」で私たちが将来直面する社会課題について警告を発しているという捉え方をします。
そういった子どもたちの問題をみんなの問題と捉えて、当事者たちと社会課題を考えていきたいと思いました。
続きはまた次回!
(本文中の内容は私個人の見解であり、所属する組織の見解とは一切関係ございません)
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