【片桐はいり x 森下圭子 x おおすみ正秋】昭和のアニメ 対談 第五回
「 キャラは関係で描く 〜ムーミンをヒッピーの世界へ〜」
———フィンランドを代表する映画監督カウリスマキに出てくる役者もほとんど動きが少ないですが、日本人の動きと繋がってるような気も、、、。
片桐
そうカウリスマキ!すごくテンポが独特で。
森下
今日の授業であった精神性の話は、ぜひフィンランドのアニメ制作者にも聞いてもらいたい。今のアニメーションは慌ただしい印象があるというか。この前に作られた日本のムーミンはゆったりとしたリズム感でムーミンの世界を描いている。親は安心して見せられて子どもは夢中になレテ。だから、オリジナルの物語に近いと言う人も多いんです。って、原作本があることを知らずに、日本で作られたムーミンアニメがオリジナルだと思ってる人もフィンランドには多いのですが。
おおすみ
今は説明しようとしすぎてテンポなんか関係ない。コントロールができてないからね。
森下
前のムーミンの面白かったところは、「間」だ、という人がフィンランドにいたんですよ。今新しく作っているムーミンの映画は、イギリスのアードマンとフィンランド人が一緒に作っているんです。わかりやすいけど、余白というか含みとかを考えると。フィンランド人にはついていけないと言われています。そう言う意味では、日本で培われてきたムーミンのテンポはオリジナルの物語に近いという人もいたんですよね。
森下さんの筆箱は、ニョロニョロ
おおすみ
ムーミン始めるときに、キャラクター相関図をまず作ったんです。それぞれのキャラクターに対する関係性や、態度を書き込めるからね。トーベヤンソンの書いた原作には、全くムーミン一家が出てこない話があったりバラバラすぎて、ムーミンを中心にした一つの世界としては描いてない。だからTVで初めてムーミンを完全な主人公にしてヒッピー的な世界を作った。
片桐
へえ。
おおすみ
あの頃はヒッピーが憧れの時代だったからね。キャラの関係性を書き込んだ表を脚本家に渡したんです。例えば「ムーミンとミィが出会うシーン」を描く話だよ、となれば相関図を見て、二人を線で結ぶと何を書けばいいかが見えてくる。
森下
それでいうとムーミン好きの知り合いが、ずっと悩んできた話を聞いたことが。人によって自分の態度が違うことが良くないという教育を受けてきていて、そうできない自分に悩んでいたんです。でもムーミンの原作読むと、ムーミンなんて、スナフキンといるときと、スニフといるときとの態度が全然違う。その話をしたら、腑に落ちて泣き出したんですね。
おおすみ
同じ人物がいろんな人の前で態度を変えるのはある意味あたりまえだよね。だけど、その上でキャラが変わらない本人がいるからキャラクターとして成立する。ミィはムーミンが好きだから、態度が変わるし。ノンノンもムーミンのことが好きだから、ミィにとってはライバルという関係が生まれる。だから意地悪しちゃったりする。そういうのを全体で見せることで、ミィの可愛らしさが見えてくる。それこそがキャラクターってものだからね。
森下
ムーミン原作の魅力ってのは、出会うキャラによって一人の性格がどんどん変わるのが面白いんです。それが昭和ムーミンのアニメに生かされてるんですよね。
フィンランドのムーミン美術館で一話だけ昭和ムーミンも上映されていたので何度か足を運んだのですが、言葉が分からなくても画面に釘付けになる子供が多くて。それはテンポだったり、登場人物の関係性の変化が面白いとかあるのかもしれないです。キャラクターの性格をはっきりと設定しすぎちゃうのが、いまのアニメで気になるところです。
おおすみ
フィンランドの人たちが日本の私のムーミン(昭和ムーミン)を気に入ってくれているというのは、トーベ・ヤンソンさんに国際性があるということですからとても嬉しいですね。ムーミン谷の住人たちに生き生きと動き回ってもらうには、フルアニメーションがふさわしいのです。
片桐
そうなんですね。
おおすみ
彼らには精神的緊張を表す静止画は必要ありません(笑)。コンピュータによるアニメがそれを解決してくれるから。手描きによるアニメに代わるものとして、モーションキャプチャーが普及し、片桐さんのような俳優さんとアニメーターとの距離をグンと近づけることになります。俳優のフィジカルモーションがそのままアニメの動きになるのです。
俳優さんとアニメーターはもう同じ場所に立っているかも。そう思いますね(笑)。
(対談終)
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第一回
静止画表現とは? 〜巨人の星の裏話〜
第二回
日本人ならではの表現 〜オバQと小津映画の共通点〜
第三回
歌舞伎とリミテッドアニメーション 〜古典芸能の動きの秘密〜
第四回
演技と演出 〜すべてに意表をつきたい〜
第五回
キャラは関係で描く 〜ムーミンをヒッピーの世界へ〜
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