【片桐はいり x 森下圭子 x おおすみ正秋】昭和のアニメ 対談 第二回
「日本人ならではの表現 〜オバQと小津映画の共通点〜」
おおすみ
当時、TBSの忠隈さんというプロデューサーがね、オバQを一緒に始めるときに与太話をしていてね。「オバQってのは、小津安二郎だね」と言いだしたんですよ。
片桐
ええええーー。ちょっと待って、、。えー。
森下
おもしろい(笑)
おおすみ
僕は、それ聞き逃さずに、「面白い、それで行きましょうよ!」ってのっかったんです。
森下
乗っかったんですか(笑)
おおすみ
オバQってのは、原作の藤子不二雄の漫画からそうだけど、丸いちゃぶ台の前に座って会話するってのが、意外と多いんだよ。オバQと正ちゃんがね。
片桐
そういえば!
おおすみ
インスタントラーメンができるのを正ちゃんと2人で3分間待ってるシーンが結構ある。ただ待ってるだけ。それも静止画で。そういうときは、小津安二郎方式で、ほぼ正面に近いカットの切り返しのほうが面白い。
片桐
確かにオバQの横顔って記憶にないですものね。
森下
ないない(笑)
おおすみ
説明的には横の方がわかりやすいけど、面白さが伝わるのは小津安二郎の正面。そして子供の目線だからカメラが低い。テーブルの上ギリギリにカメラを据えた気分で絵を描くと、落ち着くんですよ。なんだかんだ必然的に小津安二郎の絵になってしまう(笑)
片桐
わぁ。でも私、先ほどの授業で、静止画がなぜ日本で広がったのか、って話を聞いた時に、小津先生のことが頭を横切ったんです。もともと日本人はそういうものを見慣れているのがあるんじゃないかなって。何か小津映画の世界に落ち着きを見出すってマインドがある。
おおすみ
そう、小津安二郎の会話シーンは、基本的に正面で切り返して、口だけパクパク動いてるだけなんですよ。
森下
まさにリミテッド(笑)
片桐
確かに口だけ動いているのが多いですよね。すごくわかります。
おおすみ
小津は、ワイプアウトとか、フェイドアウトで時間経過を描かない。
片桐
サイレントの時代はわかりませんが…。
おおすみ
小津映画の時間経過ってのは全部、一発ポンと床の間に飾るような国宝級の物を間にはさむだけ。オバQではそれを縁側に下がっている風鈴をチリンとはさむだけで、何ヶ月か経ちましたともできるし、ちょっとした会話の「間」としても使っている。小津さんは両方ともやってるんですよ。で、オバQの世界でやったけど、見事に成立した。
片桐
オバQでやったんですね(笑)
森下
おもしろい(笑)
おおすみ
アニメは事前にフェードイン、アウトをきちんと何秒でやるかを決めて、撮影しなくてはいけない。それを映像が完成する前に計算してやるなんて馬鹿らしいし面倒臭いと思っていたから、とり入れただけなんだけどね。
片桐
それが省略や、必然性や制限からの発想ってことが逆に面白いです。お金と時間がなかったからという制限からの発想だというところがすごく面白い。なんとかこれだけでやらなきゃという発想から生まれてきたんだとしたら、私はそれが一番好き。
森下
そんな片桐さんも面白い(笑)
片桐
私はみんなが頭をひねって、知恵と工夫で出来上がってきたものに、なぜか胸が踊り、よりワクワクするんです。おおすみ監督のアニメに魅せられて、子供心にそういうものが焼きついちゃったから、こういう人間になったのかもしれないですね(笑)。
おおすみ
へえ。
片桐さんも森下さんも熱心にメモを取りながら
片桐
生まれて初めて観た映画はディズニーの「101匹わんちゃん」なんですけど、やっぱり日常的に観ていたのは夕方の再放送枠のアニメですから。今そういうものが好きで追いかけているのは、この原体験があったからなんじゃないか(笑)、なんて今日の授業を聞いていて思いました。
おおすみ
片桐さんは、映画の監督したことあったっけ?
片桐
いやいやないです。
おおすみ
俳優としての発言というより、非常に監督っぽいよね。
片桐
っぽくないです(笑)監督志向ゼロです(笑)
おおすみ
口説いて一度アニメの監督やらせてみたいよね。
片桐
いやいや無理無理(笑)でもやっぱり、ピクサーやハリウッド映画も面白いんだけど、お金あってなんでもありっていうのが透けて見えると、途端に興味がなくなる(笑)
森下
へえ。
おおすみ
話がリミテッドアニメーションっぽいな(笑)
片桐
アニメ静止画の時代は、私たちにとっては情緒が育つ時期で、色々汲み取ろうと思ってテレビに釘付けでしたからね。そういう育ち方をしてるんですよね(笑)
森下
授業にもあったけど、アメリカではリミテッドアニメやろうと枚数制限し始めたら、内容まで簡素になっていったというのが対比として面白いですよね。
片桐
日本はむしろそうならないように工夫しようとするじゃないですか。そこから生まれてきてるとは思わなかったよね。それが小津先生から繋がっていて(笑)
森下
オバQに繋がるという(笑)
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話題はリミテッドアニメーションと歌舞伎の関係性に。
第三回「歌舞伎とリミテッドアニメーション 〜古典芸能の動きの秘密〜」につづきます。
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第一回
静止画表現とは? 〜巨人の星の裏話〜
第二回
日本人ならではの表現 〜オバQと小津映画の共通点〜
第三回
歌舞伎とリミテッドアニメーション 〜古典芸能の動きの秘密〜
第四回
演技と演出 〜すべてに意表をつきたい〜
第五回
キャラは関係で描く 〜ムーミンをヒッピーの世界へ〜
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