見出し画像

工房めぐりや酒造めぐりは、本当に地域に貢献するのか?

エリアセッション:北陸
工房めぐりや酒造めぐりは、本当に地域に貢献するのか?
(インバウンドサミット 2021年6月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=1Du9PO-bxhw

スクリーンショット 2021-08-31 19.16.50

・岡本 岳大 – 株式会社wondertrunk & co. 代表取締役共同CEO
        https://www.wantedly.com/companies/wondertrunk
・林口 砂里 – 一般社団法人 富山県西部観光社 水と匠 プロデューサー
        https://mizutotakumi.jp
・山田 立 – 株式会社つくる 代表取締役 玉川堂 番頭
        https://tsubamesanjo.net/company-copy/
・Kylie Clark – 株式会社wondertrunk & co. PRコンサルタント

【ホッシーのつぶやき】
地域産業と観光の掛け算を「どう作るのか」「地域をどう繋げるのか」を学ぶセッションでした。
・酒造所は、新潟県、長野県が圧倒的に多く、伝統工芸品の経産省指定数も、石川、富山、福井、新潟が多い
・工房も、酒蔵も、茶畑も、元々観光のためにあるのではない
・『土徳』とは、富山の非常に厳しいけれども豊かな自然に感謝しながら、自然と共生してきたことで醸成された土地の品格
・「工場の祭典」の継続のポイントは、「自己肯定感」
・クラフト産業と観光の掛け算だけではなく、ガストロノミーなど掛け算を増やす
・モノづくりのルーツをたどると「信仰」がある
・ウィスキー”マッカラン”醸造所は、ティスティングもウォーキングツアーも高額

岡本:本日は「北陸北信越エリア」ということで、富山県西部観光社 水と匠の林口さん、新潟燕三条の「つくる」の代表取締役・玉川堂の番頭の山田さん、早朝のロンドンから弊社PRコンサルタントのKylie Clarkをゲストに、コーディネーター岡本で話を進めます。

 先ずこのセッションの問題意識をお伝えします。
 私、「wondertrunk & co.」の代表取締役で、2016年から海外向けPRと富裕層向け旅行会社でディストネーションプロデュースをしています。金沢のクラフト職人の工房を訪問する体験ツアーだったり、北海道の屈斜路湖エリアで持続可能性を感じられるサステナブルな自然体験だったり、山形県庄内の山伏体験、長崎の五島列島で教会巡礼体験などをやっております。我々は、地域の魅力を発信することをミッションに、「地域の生活と文化を支えてきた豊かな産業」があると感じて活動しています。

★岡本1

 酒造の数は新潟県、長野県が圧倒的に多いし、伝統工芸品の経産省指定数も、石川、富山、福井、新潟と非常に多いです。このような中で地域産業が観光と結びつく、工芸×観光で「クラフトツーリズム」、日本酒×観光で「酒造ツーリズム」、農業×観光を組み合わせた「アグリツーリズム」があると思っています。
 「訪日前に期待すること」に、「日本の酒を飲むこと」24%、「美術館・博物館」21%とあり、ぴったり合う項目ではありませんが、20%を超える方の中には体験をしてみたいという方も必ずいらっしゃると思い活動しております。
 例えば、金沢の漆の工房のツアーや、酒蔵巡りにお連れすることも多いのですが、ただ来てもらうだけでなく、本業の工芸品や日本酒が売れて欲しいと感じました。また静岡の茶畑で、新茶の時期が素晴らしいのですが、超繁忙期で観光客を受け入れる時間も余裕もないと言われます。工房も、酒造も、茶畑も、元々観光のためにあるのではないことを強く感じます。
 今日はインバウンドサミットなので観光が主軸になりますが、北陸北信越の地域の魅力を伝える時に、観光の目線だけでは協力してもらえないので、どうすれば地域産業、生活文化と、インバウンドをつなげられるかの問題意識として進めたいと思っております。
 話が長くなりましたが、皆さんの自己紹介と活動のご紹介をお願いいたします。

林口:一般社団法人富山県西部観光社“水と匠”のプロデューサーの林口と申します。最初のスライドは“水と匠”の仕事というよりは、私がこれまでやってきた仕事のビジュアルです。観光業を専門にしていたわけではなく、どちらかというと現代アート、音楽、デザインとかをしており、また私は浄土真宗門徒でして、仏教、科学、地域といった分野をつなげるプロジェクトのプロデュースをしております。

★林口1

 2017年と2018年に「工芸ハッカソン」を富山県高岡市でやりました。高岡市には高岡銅器や高岡漆器という伝統産業がありますが、非常に苦境に立たされています。何か打開策は無いかということで、この中に観光も入るのですが、外の方をお招きして工房ツアーをしながら、地域の伝統産業の方たちをマッチングして、一緒に作品を作ったり、商品開発しました。これらも“水と匠”の事業につながっています。“水と匠”は、2019年に立ち上がりました広域連携観光地域づくり法人の候補で、法人登録を目指しており、完全民間主導のDMOです。
 私たちのミッションは「富山の『土徳』を伝える」です。もちろん地域の経済活性化とかは当たり前ですが、私たちが目指すのは『土徳』でしかありません。『土徳』とは、民芸運動創始者の柳井宗吉がこの土地を訪れた時に、この土地の価値を『土徳』だと言われたのが謂れです。私の解釈は、富山の非常に厳しいけれども豊かな自然に感謝しながら、自然と共生してきたことで醸成された土地の品格のようなモノだと思っています。富山が持つ『土徳』の価値は、世界の人々にも重要な価値観で、未来の豊かな暮らしへの大きなヒントを含んでいると思っています。

★林口3

 事業内容は、①マーケティングデータ分析。Yahooさんと提携し、検索データ、人流データといったビッグデータを活用して、ターゲットを決めたり、ツアーの比較などをしています。②ツアーの実施。私たちはクリエイティブ層だったり、外国文化に興味のある方をターゲットにしており、工房めぐりであったり、背景にある寺院を巡っていただくツアーをしています。③地域商社として富山の良いモノを販売。伝統産業も多く、食も豊かなので、それらをキュレーションして、ターゲットに向けてオンライン販売したり、富山のデパートで販売もしています。④ディベロプメント。砺波平野の散居村という風景の中の“アズマダチ”と言われる典型的な古い建物をリノベーションして、お宿とレストランを作っています。もう一つは、城端別院善徳寺という由緒あるお寺の研修道場を改修して、お宿と、行動を学ぶスペース、展示、カフェ、ショップを計画中です。ここは、私たちの拠点にもなり、物販の拠点にもなるので、私たちがミッションとしている富山の『土徳』を体感してもらう重要な場所になります。

山田:「株式会社つくる」の代表戸締役で、燕三条で銅板を叩いて茶器や酒器を作る「玉川堂」という町工場の山田です。玉川堂は二百年の歴史を持ち、現在19名の職人が、40畳ほどの畳部屋でほぼ手作業で仕事をしております。
 玉川堂は数十年前からご希望の方の工場見学を承っており、2012年に見学に来られたお客さんは600名でしたが、一昨年6,000名を超え、外国の方は約10%になります。

★山田2

 見学者が増えた大きなキッカケは、2013年から続けている「工場の祭典」というイベントです。「燕三条」という所は新潟県の真中にあり、燕市と三条市を中心に、JR上越新幹線の燕三条駅を中心にした金属加工を中心としたモノづくりの町で、昔から様々なアイテムを作ってきました。「工場の祭典」は、燕三条の小さな地図を配って、お客様が勝手に工場を巡る超放置のイベントで、毎年10月に行ってきました。端から端まで車で1時間かかるエリアに、町工場が2000社、3000社が点在しています。

山田5

 「工場の祭典」は、ピンクの揃いのTシャツを着た職人さんが現場でお客様に説明し、間近で火花や熱を感じ、薬品の臭を嗅ぎ、五感を感じてもらうイベントです。初年度は54事業所で5日間に1万人が参加し、年々、参加工場も動員数も増え、一昨年は113事業所、4日間で56000人を超えるイベントになりました。去年はさすがにオンライン配信で、23日間ライブ配信や動画配信を実施しました。今も月1回のライブ配信を続けています。
 海外にも早くから出展し、一番大きかったのは3年前のロンドンのジャパンハウスで2ヶ月間開催したものです。またミラノサローネやシンガポール、台湾、スイスでも開催しました。すると必ずお客様が反応を見せ、実際に燕三条まで来てくださったり、インターンシップで来てくださる形にまでなりました。
 一般的な新潟のイメージはお米やお酒だと思いますが、燕三条は食に関連する完成品を作っており、カトラリーや包丁、ナイフ、鍋、釜、茶器、酒器、コーヒーの道具など、金属モノはほぼ燕三条で作っています。また、それらを実際に使っていただく体験として、農家さんと連携を取り、収穫体験や試食、食に関連するイベントもしています。燕三条エリアは、風光明媚なモノや、名物の食べ物はありませんが、町工場を起点に、全国からお客様に来ていただく活動も行なっています。

岡本:カイリは燕三条、高岡、北陸エリアに精通しており、「ロンドンから見た、北陸のクラフトツーリズムの可能性」をお話いただければと思います。

カイリ:私はオーストラリア出身で、東京の大学で勉強し、沖縄で働いた後、イギリスに移住、現在もロンドンに住んでいます。20年以上、日本に関連した仕事をしており、2002年〜2016年までJNTOロンドンでマーケティングを担当しました。産業観光では、約10年前に全国の見学体験施設情報を掲載したウェブサイトを英語で作成しました。
 2016年から2019年まで「ジャパン・ハウス ロンドン」の創設ディレクターをしました。ジャパン・ハウスは外務省の事業で、2017年にロンドン、ロサンゼルス、サンパウロの3都市に開設し、日本への理解を深め、多様な魅力を伝えることを目的とした事業で、ショップ、レストラン、ギャラリー、シアター、ライブリーがあります。 2018年9月は燕三条の金属加工技術を紹介したイベントをし、職人によるワークショップも全てがソウルアウトしました。

ジャパン・ハウス ロンドン

 2020年に岡本さんのwondertrunkに参加しました。ここでは「パンテクニコン」を紹介します。パンテクニコンは2020年ロンドンにオープンした「日本と北欧」をテーマにしたショップやレストランを集めた複合施設で、日本と北欧の文化に共通する自然、食、デザインなどを紹介しています。昨年の「ロンドンクラフト」では、群馬県の土田酒造とのコラボイベントで「日本酒と塩麹」のワークショップをし、日本のモノづくりと日本酒、伝統文化を紹介しました。これからも多彩なゲストをお招きしていきたいと思います。

岡本:山田さん、林口さん、どうやって「工房の方たちを巻き込んで」きましたか?、「工房の皆さんは観光に何を期待」されていますか?

林口:私は作り手では無くて、しかも田舎が嫌いで出て行き地域に戻ったのが約8年前、浦島太郎状態でしたが、地元の同級生に地域のキーパーソンを呼んで飲み会を開くようお願いしました。すると伝統産業の職人さんや行政マン、町づくりに取り組んでいる人たち、大学生が集まりました。地域で何かやろうと思うと、しっかりコミュニケーションを取ることが本当に大事です。今、一緒に活動しているメンバーもその時の人達がほとんどです。
 高岡市の場合「高岡伝統産業青年会」という若手の職人さん、問屋さんたちに元気で、危機的状況を何とかしなければと立ち上がった人たちですが、彼らが工場を開いてくれたり、色々な分野の方たちとつながっていたので、私はそこに入れてもらった感じです。

山田:「工場の祭典」であまり苦労した覚えはありません。「来る者拒まず、去る者追わず」でやってきました。始まった時は54事業所、直近は113事業所と倍増しましたが、毎年20増えて10減って少しずつ増えてきたのです。参加したけど忙し過ぎるからやめた方、もっと売れると思っていた方もいました。これまで言われたモノだけ作って終りだった職人さんが、エンドユーザーに触れて、仕事内容を分かりやすく説明する時、自分の仕事の棚卸しになったとか、「お父さん格好良い」と言われて自己肯定感が湧く、そんな体験の繰り返しでした。どちらかと言うと、売り上げや動員数というよりも、お客様との繋がりだとか、見られるので工場の中がきれいになったとか、見えないプラスの積み重ねが「やって良かった」となり、そう思った人が「お前も参加したほうが良いよ」と隣の工場に声を掛けたりして増えてきました。

山田7

岡本:ご家族の話は面白いですね。お子さんや家族の方に仕事の素晴らしさが見えるのが凄い効果だと思いました。燕三条は「工場の祭典」以外にオープンファクトリーをされている工場も増えているのですか?

山田:2013年の頃、通年見学できる所は玉川堂を含めて4軒ほどしか無かったのですが、イベントを繰り返す度に増え、今では毎年2〜3件が設備投資されて見学できるように改修され25〜26軒になりました。いわゆる物見遊山観光と違い、モノ作りの現場をそのまま見せますので、日祭日は休みますし、工場は広くないので15人〜20人来ると一杯になり、大型観光バスで訪れる所ではありません。

岡本:「売上だけではない」のがポイントだと思いますが、「もっと売れる」や「知名度」など、そういう「期待にどう応えようとされているのか?」をお聞かせください。

林口:職人さんたち、最初は工場を見せたことが無かったので、皆さんたどたどしく説明していましたが、年々上手になり、エンターテイメントしてくれるような方も出て、お客さんもすごく喜び、職人さんは誇りを取り戻していくのが本当に嬉しかったです。
 最初の頃、とにかく危機的な状況にある産業を何とか知ってもらいたいと、人が来てくださるだけで喜んでくださり、PRにもなったので、皆さん協力してくださいましたが、それだけでは続かないと思っています。モノが売れることには直結していないのです。
 もちろん高岡の「能作」さんのように、“工場全体を大きな産業観光拠点”として作られた所もあり、コロナ前は賑わっていましたが、そこまで設備投資できる所は少ないですし、高岡漆器の体験をした方が、漆器を買って帰ることはほとんどありませんでした。販売につなげることを考えないと観光に結びつけるのは難しいと思います。とは言っても、まだまだ知られていない部分もあるのでPRは大事で、私たちが外に出てPRをやるべきだと思っています。今まで首都圏でPRすることが多かったのですが、これからは世界に出て行きたいと思います。ジャパンハウスなどでのPRはすごく良いので、コロナが収束すればご一緒したいと思っています。

★林口8

 今、クラフトとツーリズムの掛け合わせをやっていますが、さらに資源を掛け合わせたいと思っています。富山湾はお魚が美味しく、ここには発酵食もたくさんあるので、ツーリズムとクラフトとガストロノミーを組み合わせていく、食と器と日本酒の掛け合わせていくことを考えています。またモノづくりのルーツをたどると「信仰」があり、仏具や寺社仏閣を作る技術が伝統産業になっているので、背景も伝えたいと思います。これらの価値を評価してくださる方を連れて来たいですし、見ても買えないという実情もありますので、工房内に売り場を整備したいとも思います。

岡本:カイリ、ウィスキー醸造所「マッカラン」の紹介をお願いします。

カイリ:イギリス・スコットランドのウィスキー醸造所「マッカラン」のお話をします。マッカランは、シングルモルトウィスキーの代表銘柄で、この写真は「ザ・マッカラン・エステート」です。ティスティングは約1500円、ウィスキー醸造所のウォーキングツアーは1人当たり約1万5千円です。ここの土地の話やウィスキーの製造に関する話を聞いたり、「マッカラン・バー」で素晴らしい景色を見ながらウィスキーをいただいたり、スコットランドの食材を使ったユニークな食事が提供されるなどバリエーションが用意されています。

★ザ・マッカラン・エステート

岡本:最後のまとめに入ります。
 地域の産業とインバウンドの掛け算を、どのように作っていくのが良いのか、どのように繋げていけるのかを話し合いましたが、ポイントは3つあると思います。
1点目は、仲間とのつながりコミュニティーです。観光だけで全てを解決するよりも、地域が一丸となって地域を盛り上げることがとても大事だと思いました。
2点目は、お金が取れる仕組みが欠かせない。マッカランの話のように、試飲料を取る。お土産を買えるようにすることが重要だと思いました。
3点目は、林口さんがまとめられた、クラフト産業と観光の掛け算だけではなく、色々な掛け算を増やしていくことだと思いました。
 皆さん、ありがとうございました。



いいなと思ったら応援しよう!