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周りを不幸にする、幸福な漢の話

短編初投稿小説 エピソード 3

膝十字靭帯断裂という不運に見舞われ、ラグビー選手としての価値を無くした漢は、人生初のドン底の精神状態を経験したのだ、暫く立ち上がる事が出来ずに傷心の旅に出る事を模索し、1年間の交換留学の道を選んだ。

交換留学制度を利用して海外の異文化に触れ、学び、見識を深め人間形成に深みと幅を持たせる。

なんて綺麗事はこれっぽっちも思って居なくて、今自分が置かれている環境から逃げ出したくて現実逃避がしたかったのが当時の本心だったが此処でまた、漢にとっては幸か不幸か新たなる世界観を経験する事に。

そして初めての海外生活の場はアメリカ合衆国カリフォルニア州立大学であったのだ! 当時漢が在学するD大学のK教授がカリフォルニア州立大学でもゼミを行っており、交換留学制度が昔からあった。漢は無理なくこの制度により名門校での異次元とも云うべき時を過ごす事ができたのだ。

そこでの1年は、良くも悪くも日本人として21年ほど生きてきた価値観を根底から覆えす様な落雷に打たれた様な(撃たれたことは無いが…)衝撃を受けた。

根本的な価値観や基準は勿論だが細かく云うと…

家族のあり方・大事にべきこと・人々の夢・権利と義務の自覚・人生の楽しみ方・学校での学び方・異性との関係、価値観・働くという事の意味・週末のパーティ・運転免許・飲酒・レディーファースト…例を挙げればいけばキリがない位に違いすぎる世界、カルチャーショックなんていう言葉だけでは片付けるのは難しい、経験した人には伝わると思うのだが。

ホームステイ先のモーリス家の人々は心も経済も豊かで穏やかで、漢は120%の歓迎を受けた、漢には夢の様な日々が始まり数ヶ月前までの心の傷はいつの間にか既に癒え失せ忘れていたのだった。

ホームステイ先の姉妹の次女、キャサリンとの恋…もしかしたら漢の勝手な思い込みかも知れない、いやいや心地よく切なく儚い思い込みだったが、それで良かった。

当時観た洋画の様な展開を勝手に自身にリンクさせて妄想だけが頭の中に充満していた。そしてこの殆ど妄想かも知れない様な人生初の異人種との勝手な恋心が漢にとっては、凄く新鮮且つ刺激的で斬新だった。

サンタモニカビーチでの夕陽、フィッシャーマンズワーフでのランチ、数え上げたらキリがないが勝手に恋心を生み出してしまう環境がこの場所には十二分に備わって居たため漢はいとも簡単に妄想の世界に引きずり込まれてしまった。

この恋?妄想?によって、今まで持ち合わせて居なかった異性への新しい価値基準が出来てしまったのだった、これは本人にとっては凄くキツい事で後々の漢の異性関係・人生に大きな影響を与える事になったのだが、本人には此れも当時の漢は気付かず後になって思う事ではあるのだが。

人生とは全く上手くいかないもので、しかしだからこそ面白い物なのだと思う。

経験して初めて気付いたりする事って凄く沢山あって、でもそれって経験しないと解らない事ではあるとつくづく思う。

しかし、この漢は単純と云うかポジティブ思考と云うか単細胞と云うか…まぁ本人が一番幸せな性格ではあるこの手の人間は本人の自覚がなく、全く気付かないものだが。

あっという間に交換留学の期間の1年が過ぎようとしていた頃…更なるチャレンジなのか? 更なる現実逃避なのか? 漢はある行動を画策し実行に移そうとして密かに準備を進めて居たのだ、計画には資金がいると漢はバイトに明け暮れる事となった。

それから間もなくして1年の交換留学期間が終わりを迎え、漢は絵に描いたようなホームステイ先のファミリーとの感動的な別れを味わい、堪能しアメリカ合衆国を後にしたのだ、さようならアメリカ合衆国!

しかし行き先は母国、日本では無かったのだ!




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