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Classic Collector's/Masao Nakajima

豊穣な音楽経験が生んだ、大人のピアノアルバム

 cd,booklet                                                                     これは、独自のセンスと感性で綴られた、”大人の”ピアノアルバムである。   中島正夫は、本作と前後して、ポーランドのブラツラフのシンフォニーオーケストラとブラームスの交響曲第1番を録音し、自然な感興に充ちた正統派のドイツ音楽を聴かせている。それと併せて接すればなお、彼の音楽性の高さとキャパシティーの豊かさに感嘆せざるを得ない。中島正夫は、16歳からプロのピアニストとして活動を始め、ザ・グレンミラー・オーケストラ、ルータバキン、リー・コニッツ、ゲイリー・フォスター、エディゴメス、エルビン・ジョーンズ、ランディー・ブレッカー、といったビッグ・ネームたちと共演を果たしてきた。またまた同時に、リサイタルやオーケストラの共演などクラシック畑でも活躍。真に”多彩”な音楽経験を誇っている。しかし彼は、桐朋学園等で指揮とクラシック・ピアノの研鑽を積み直し、著名作曲家の戸田邦雄、間宮芳生,指揮法の最高権威高階正光や、世界的ピアニストで名教師イヨルク・デームスに師事した。そして自己の音楽を改めて提示したのが、2枚のアルバムである。なぜここにプロフィールの一端を記したかといえば、本作では、こうした豊穣な経験を有するがゆえに表現可能な、滋味隘れる音楽が展開されているからだ。まずは選曲からしてユニークというほかない。ショパン、バッハ、プーランク、ピアソラ。通常のピアニストには、ほとんど発想不能の並びだろう。『ロマン派、バロック、近代、現代』、『東欧,中欧、西欧、南米、』の作曲家の、それぞれ民族性を内包した音楽が揃う。さらに言えば、フランスに亡命したショパン、同地の様式に多大な影響を受けたバッハ、パリっ子のプーランク、同留学したピアソラ、、、、と”フランス繋がり”もある。ジャズのセンスが生きる曲も多いし、よく見ると、プーランクとピアソラでバッハ同様の『前奏曲』と『フーガ』を構成しているようにも撮れる、、、、などなど、全てが示唆に富んでいる。 ショパンの『スケルツォ』は、出だしから1音1音丁寧に運ばれる。絶妙のルバート交えながら、左手をさりげなく歌わせ、時に細かな動きを強調して聴くものをハッとさせる。バッハの『平均律』は、美しく澄み切った前奏曲と、丹念に紡がれたフーガが続く。中でも第1番ハ長調の前奏曲は、無心の境地ともいうべきピュアな音世界だ。荒々しく弾かれることの多い第2曲ハ短調の前奏曲も、ここでは最も優しい。これらはどの曲も落ち着いた風情で、枯淡の念をも感じさせる。プーランクとピアソラは、グルーブ感のある洒落た逸品。中でもピアソラは、凡百のクラシック・ピアニストには出し得ない味わいと余裕充分の展開が耳に優しい。勢い任せに突っ走ることとなく、じっくりと慈しむように弾かれたピアノ音楽。声を荒げない大人の会話がここにある。                                                                                                                                                                           (補足)2010年以降、、ベルリンで、リオール・シャンバダール(ベルリン交響楽団、音楽監督)、マーク・レイコック(フィラデルフィア管弦楽団、ベルリン交響楽団、指揮者),コリン・メーター(ロイヤル・アカデミー・オブ・ミュージック・ロンドン、プロフェッサー)、等に師事。今迄、日本のオーケストラ,ポーランドのブラスラウで、wroclaw score orchestra,ベルリンで、Berlin Sinfonietta,などを指揮。



                       柴田克彦(音楽ライター)

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