見出し画像

●20250112 戦犯からの大脱出(後編) #12

剣道の団体戦、土壇場で同点に追いつかれた場合の
勝負の決め方は代表戦というものである。
代表戦とは、チームから任意で1人を選出し、時間無制限の1本勝負を行い勝った選手のチームを勝ちとするものである。
ただし、この大会では規定により、代表戦を戦う選手は大会本部の抽選で決められるというものだった。

全員が固唾を飲んで抽選を見守る中、選ばれたのは
両チームの大将だった。
つまり、たった今2本負けした相手との再戦である。
弟(=自チーム)が圧倒的に不利なのは明白で、
正直僕も母も「終わった」とすら思った。

今回は時間無制限。引いて逃げることもできない。
そしてここも負ければ、チームが繋いだリードを
1人で反故にした上に相手に優勝を許すことになる。
身も蓋もなく言えば「戦犯」になる。
もう勝つしかない。
しかし相手は県下指折りの実力者。
そんな状況だった。

試合は案の定、相手に押され続ける構図。
弟も必死に技を繰り出すが中々決まらない。

しかし、こちらが追い詰められている反面、
相手は良くも悪くも余裕があった。
わずかな緩みを見逃さずに飛び込んで放ったドウは
誰がどう見ても完璧に決まった。
弟はリベンジ達成。チームは優勝。
奇跡に沸く自チーム、信じられない様子の敵チーム、
母親は泣いていた。

乾坤一擲、起死回生。

この時の心情について母親に尋ねると、
「戦犯になって周囲から批判されることよりも、
日の目を見れなくても地道に努力した6年間が、
最後に戦犯という形で否定されるのが怖かった。」
とのことだった。

確かに、選ばれ方はともかく、
やっと日の目を見た弟にとって、もし負けていたら
大舞台が大きなトラウマになったかもしれない。
それが、「目立つ実績はなくても6年間頑張った甲斐がある」と感じることができたのではないだろうか。しかも、プレースタイルの違いから、
中々道場で受け入れられなかったものの、ずっと
磨いてきた得意技が土壇場で弟を救ったことが、
地道な頑張りが無駄じゃなかったと証明している。当時中学生だった僕は「劇場型だ」「自作自演だ」
「それが決められるなら最初からやれよ」と
茶化してばかりだったが、
本当に安心したのを覚えている。

ちなみに…
ミラクルを起こしたからといって大人の事情が
解消するほど現実は甘くなく、
他にやりたいこともあったため、
僕と弟は全国大会後に道場を辞めた。

そのため、全てを良い思い出として昇華することは
中々難しいものの、
剣道やってて1番感動した瞬間は、
何回も見返す度に勇気づけられるものでした。

いいなと思ったら応援しよう!