イラストを描くのに解剖の知識はいらない話
はじめまして。まさおと申します。
私は趣味でイラストを描いていますが、普段は看護師をしており、手術室看護師として5年以上勤務ていた経験があります。なので職業柄、解剖の知識はある程度持っていました。
ちょうど3年前、趣味でイラストを描いていた私は、『医療で培った解剖の知識を、イラストにも活かしたい』そう考え、美術解剖を勉強することにしました。
半年ほど必死で勉強していたのですが、けっきょくその勉強は必要なかったな。と今では思っています。
私がイラストに解剖の勉強は必要ないと考える理由を3つお話しします。
①イラストが堅苦しくなるから
前述したように、私は手術室で5年以上勤務しており、解剖の知識はそれなりにありました。
解剖がわかるのは私の強みだ!この強みを活かしたイラストが描けるようになりたい!
そう意気込んで、美術解剖の勉強し始めました。
※解剖学→生物の構造を学ぶ学問
※美術解剖→生物の構造を美術に活かすようにするための学問
ふたつの学問をざっくり説明するとこのような意味になると思います。
骨格筋の名称は知っていたので、全く解剖をやったことがない人より、かなり理解できたと自負しています。
でもここで問題が発生します。
解剖を集中的に勉強している期間、どうしても視野が狭くなってしまう、ということです。
私は解剖の知識が増えれば増えるほど、他者の描くイラストを見て、「この人全然解剖わかってないじゃん」「これが評価されてるとかどうなってるんだ?」と思うようになっていきました。
もちろん評価されているイラストには、魅力があるわけです。
イラストは総合力です。構図、シルエット、配色、ストーリー性、他にもたくさんの要素が積み重なって1枚の絵になります。
その魅力を私は「解剖が違うからおかしい」と切り捨ててしまうようになりました。
「いや、それは個人差ある。解剖を勉強してもちゃんと他の絵の魅力がわかる人だっているよ!」という声が聞こえてきそうですね。
確かにその通りです。
ですが、美術解剖をみっちり勉強したことがある人なら、あーなんかわかる……と感じるのではないでしょうか。
というのも美術解剖を1から勉強しよう、なんて考える人は、真面目な人が多いからです。
かく言う私もかなり真面目な性格をしていています。学生時代は“真面目だから”という理由で一定層から嫌われていましたからね。
そんな持ち前の真面目さで美術解剖に取り組んだ私は、勉強した解剖の知識を自分の絵にどんどん投影させていきました。
人体の比率を全部考えて、一つ一つの骨格筋を意識してイラストを描きました。
ふと気がつくと、目の前のクロッキー帳には、筋骨隆々のマッチョばかりが描かれていました。
少年キャラも美少女キャラも、なんかみんな薄っすらマッチョなんですよね……
ん?なにこれ。
わたし、こういう絵が描きたいんだっけ…?
はい、もちろん違います。
私はリアルな人体が描きたかったわけではなく、可愛らしいキャラクターイラストが描きたかったんです。
せっかく大変な思いして勉強したんだから、この知識を使いたい!
だから頭身を全部しっかり合わせて、筋肉のつき方や関節の可動域も全部意識して描かなきゃ……!
そんな気持ちが自分自身のイラストを堅苦しいものにしてしまっていたんです。
私は美術解剖の勉強をパッタリやめました。
美術解剖から距離を置くことで、他の人の描いたイラストの良さにも目を向けることができるようになりました。
美術解剖の沼から抜け出せて本当に良かったです。
②難しすぎるから
解剖はかなり難しいです。
筋骨の名前を覚えるだけでも骨が折れます。
勉強し始めは、描く時間よりも参考書を読み、人体の仕組みを理解することに莫大な時間を費やさなくてはなりません。
時々、基礎をちゃんとやりたいから解剖を勉強する、と考えている人がいます。
ですが、それは完全に間違いです。
キャラクターイラストおいて、解剖は“基礎”ではなく“応用“です。
ある程度、キャラクター絵の“テンプレートの形”を習得した上で勉強しなければ、とても扱いきれませんし、膨大な量の知識に振り回されてしまいます。
すべての骨格筋を覚えたうえで、可動域・筋肉の弛緩と収縮・360°の見え方を覚えて、それをアウトプットできるようになる。
無理です。難しすぎます。何十年かかるかわかりません。
それなら、イラストにおけるテンプレートの形を覚えてしまったほうが圧倒的に早いですし、デジタル作画であれば3Dポーズを活用する方法もあります。良い資料はこの世にたくさんあふれています。
ハードルの高い解剖を勉強しても、画力に直結するのはずっと先の未来です。
ならば、他の手段を駆使して絵を良くしていく努力に時間を使った方が効率が良いと私は思います。
③やらないとすぐ忘れるから
私が美術解剖を勉強している期間、他の人が描いた絵を『解剖が間違ってるから』と切り捨てていた話を前述しました。
そのくらい私は当時、頭の中が解剖一色になっていたんです。
それはなぜか。
忘れるのが怖かったからです。
美術解剖は、やらないとすぐに忘れてしまいます。
本当にびっくりするくらい一瞬で忘れます。
解剖の勉強はとにかくまずは暗記です。人体にはどんな骨、筋肉、靭帯があるのか、そしてどう収縮し拡張するのか。関節はどのくらい動くのか。全て暗記しなければなりません。
まず暗記して覚えなければ、そもそも理解ができませんし、まず描けません。
私は、もともと解剖の知識があったので理解することはできたのですが、実際に描くことにかなり苦しみました。
せっかく難しいことを理解したんだから、忘れないように勉強したことを活かして絵を描かなきゃ!
そう思い、無理やりキャライラストに解剖の知識を詰め込んでしまい、可愛らしい絵からどんどんかけ離れていきました。
我に返った私は美術解剖から離れましたが、今はせっかく勉強したことをほとんど忘れてしまいました。
キャラクターイラストを描く上で使わない知識がほとんどだからです。
使わなければ知識は定着しないまま、忘れさられてしまうのです。
上記の3つの理由を踏まえて、私は美術解剖は勉強しなくても良いと考えています。
それでも解剖の勉強は楽しかった
最後に
私は“イラストを描くのに美術解剖の勉強は必要ない”と考えています。でも、勉強をしたことを後悔はしていません。
私はこの経験を通して、使わない知識は勉強してもあまり意味がないと知ることができましたし、なにより解剖の勉強はとても楽しかったのです。
そもそも絵を描くことは回り道の連続です。
いろんなことを試して、失敗して、また試す。トライ・アンド・エラーを何度も繰り返しながら、その過程も楽しめることも、絵の魅力の1つです。
いつもと違う道を散歩してみたり、探検するのはとても楽しいですよね。新しい発見にわくわくするものです。
でも、わざわざ興味のない道を“ここを歩かないといけないんだ”と無理に通る必要はありません。
真面目な人ほど、基礎から頑張ろう!などと思って、美術解剖の海に飛び込みます。
けれど、解剖を知らずしても描けるイラストは山程あります。その道をわざわざ歩かなくなっていいと私は思っています。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
楽しいと思える方法で一緒に成長していきましょう!
まさお
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