いろんな意味でトライアル
紺田さん所有の蔵を改修して、地域住民の交流サロンにするというビジョンまでは、高島町のアイリッシュパブを手本とすることは、検討メンバーでイメージが固まっていた。当時はリノベーションという言葉が無かった。機能転換という意味でコンバージョンと言っていた。ただ、どういう空間にデザインするのがいいのか、我々の手に負えなかった。
そこで、友人鍔さんの住まいと同じ集合住宅に設計事務所を構えていた谷重さんに、蔵改修の設計を任せてみることにした。誰に依頼するかは勘だ。今から思えば、このプロジェクトすべてが直観で進めてきた。それが良かった。
谷重さんから、蔵の空間の良さをそのまま残しながら、一部改修する提案図面が提示された。「これでいい、ところで改修費は?」見積金額は700万円だった。
この金額を知って、県庁と市役所に支援策はないのか窓口に出向いた。2017年度が始まってから1ヶ月が過ぎようとしている頃、全くの新規の事業支援なんてないと門前払い。その数日後、大野町住民で市の部長をされていた方から電話があり「翌年度なら新しい補助制度を作ってあげるからどうだ」と。そこで、メンバーが急遽招集されて緊急ミーティング。一年待って市の補助をもらうか、自分たちで資金を持ち寄って直ぐに始めるかの二者択一。この頃は、高島町の視察で刺激を受けた自分たちでまちづくりしたいという情熱が煮えたぎっていたので、後者を選択。18人で500万円を持ち寄った。残り200万円は、大野町信用組合から融資を受けることにした。
もろみ蔵の改修経費を抑えるために、自分たちでできることはワークショップで、そして職業訓練校の生徒のみなさんにも配管工事を手伝ってもらった。設計者の谷重さんが依頼されたようで、こんな形で協力者の輪を拡げることができるんかと感心したものだ。
金銭的な負担を抑えることができる嬉しさもあったけど、参加メンバーの裾野が拡がることの喜びが大きかった。何事もトライアル、このプロジェクトの根幹が据えられたように記憶している。