僕の好きな先生(2の2)【エッセイ】一二〇〇字
前回の(2の1)の「怖い先生」とは真逆な話です。
半世紀以上前。北海道・北空知の進学校にいた。高校2年のときの現国の授業で、ある「遊び」を楽しんでいた。先生へのいたずらなのだが、出入り口の引き戸に黒板消しを挟むような、クラッシックなものではない。
庄司先生が入ってきた。戸を開ける音もせずに、こっそりと。下向き加減で、生徒の方も見ずに、教壇に。教師になって間もないと記憶する。
「きょうは、〇〇ページからですね」と言ったとたんに、私が挙手をする。
「 先生! 質問があります!」と、「お遊び」が始まる。
私の質問が終わるやいなや、牛角が手を挙げる。
「先生、菊地くんの質問に関連して、僕もあります!」と。彼は、剣道部で全道大会にも出られるような、猛者。気合がはいっているし、ドスもきく。ゆっくりと、余裕をもって淡々と、論理的に質問を展開する。
牛角の話が終わると、次の質問者が、間髪入れずに挙手。
毎回ではないが、文章の解釈の問題で、決定的な答えがない箇所になると始まるのだ。牛角の提案で、剣道の団体戦を真似て、悪ガキ5人で、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将を決め、順に質問し、授業を妨害するのだ。授業が始まる前に、打ち合わせする。
「あのさ、ここの解釈、なんとでもできると違うか」「あ、そうだよな。じゃ、きょうは、ここにするべ」と。
最後の大将は、学年のベスト3に入る秀才、井斎(シャレではなく)。止めの突きの、一撃。先生は、立て続けの質問を制することもせずに、その都度考えている。われわれは、大将までが終わって、その回答を、ニタニタしながら待つのだった。
先生は、黒板に向かってチョークを持つのだが、何を書くわけでもなく、考えている。上を向いたり、下を向いたり、落ち着きがない。正面を向いたかと思えば、今度は教科書を、じいーーっと見ている。他のページを開いたり。終いには、教科書の束を上から、下から、横から覗き始める。
そして、チャイムが鳴る。
「では、終ります」と、入ってきたと同じような格好をして、退室するのだった。
先生の仕草をクラス全員が凝視し、口に手を当て笑いを抑えているのでシーーーンとしていたが、退室後、一斉に笑いが起きるのだった。
話は、以上だが、付け足さなければならないことがある。その庄司先生は、職員室では質問に来た生徒にきちんと対応するのだ。われわれの教室での質問が絶妙ということと、職員室は、先生たちに囲まれ心強いからだろう。
もうひとつ、先生は、同窓会には必ず出席しているようだ(私は出席したことはないが)。
(牛角は、北海道警の機動隊員に、井斎は、医者になった)
このエッセイは、「空を飛ぶ土竜」さんの、このエッセイを読んでいて想い出がふと浮かびあがってきました。
「空を飛ぶ土竜」さんは、高校教師。国語の先生です。定年退職後も教員を続けていらっしゃいます。ご自身、“尾崎豊の敵”とおっしゃっておりますが、そんなことはありません。尾崎が土竜先生の教え子だったら、悲しい結末は待っていなかったように思います(『卒業』は生まれなかったかもしれないけども)。それほどに生徒思いの先生。彼のエッセイは、その人間くささ、優しさを感じさせてくれます。勝手にエッセイの師と仰いで読ませていただいています。短歌も、いい。(土竜先生と比較しないでくださいね)
最後は、やはり、この曲でしょう。
忌野清志郎『僕の好きな先生』