政務調査会ってなんだ
自民党総裁に菅さんが就任し、党三役人事の総務会長や政務調査会長というニュースを見たら、昭和の時代に霞ヶ関の文書課で勤務していた頃のことを思い出しました。
文書課では法令班の末端に座り、法律案が国会に提出されるまでの流れを目の当たりにしていたのです。
法律案はまず省内の原課(個々の政策に関わる担当課)でその原案が作られ、大臣官房(会社でいうなら総務部みたいな所)の法規担当課(省庁によって総務課とか文書課とか呼ばれる)へ持ち込まれます。
原課の法律案は官房の法規担当課での省内審査で揉まれ省としての法律案になります。
省としての法律案が固まると、法律案は原課によって内閣法制局に持ち込まれます。内閣法制局では担当参事官によって揉みに揉まれるのですが、この内閣法制局による審査を受けている案の段階で、原課は並行して他省庁との法令協議のプロセスに入ります。(国会に提出する前に法律案は全閣僚一致で閣議決定されなければいけないので、閣議に提出される前に全省庁の同意を取り付けておく必要があるのです)
この法令協議がこれまた難物で他省庁から切り出されてくる難クセを一つ一つ潰していくのです。
全省庁の同意も取り付け内閣法制局の審査も通って法律案が完全な形になると、事務次官等会議を経て閣議にかけられる訳ですが、その前には与党審査なるものもあります。
閣議決定して国会に法律案を提出しても与党に反対されちゃ成立しないですもんね。
なので法律案を自民党本部に持ち込んで事前審査を受けておく訳です。
自民党の法律案審査を担当するのは政務調査会で、政務調査会(審議会)を通った法律案は最終的に総務会で承認されて与党審査が終わります。(この与党審査の流れを「政審、総務」と呼んでいました)
ちなみに、自民党本部の会議室は「リバティ」という名前が付けられています。「リバティ3号室」てな感じです。ある時、与党審査のために持ち込んであった箱いっぱいの関係資料の原稿に誤りが見つかって、与党審査の直前に慌てて差し替えを持っていき「リバティ」で皆んなでドタバタと差し替え作業をした記憶は鮮明です。
閣議前の事務次官等会議にかけられるまでに与党審査は終えていなければならないのですが、まれに時間に迫られて与党審査が完全に終わらないうちに事務次官等会議にかけられることもあったりします。
こういった案件は「党と未調整のもの」と見出しがつけられ事務次官等会議に諮られていました。業界では「党未」(とうみ)と呼ばれていました。
どうして政府が作る法律案が閣議決定される前に、外部組織である一政党の審査を受けなければならないのか?最初は疑問だったのですが、日本が議院内閣制をとっている限りはそういうことなんですね。わかったようでわからない話やけれど。
ともあれ、こうして晴れて法律案は閣議にかけられるのですが、閣議に提出する法律案は青い升目の用紙にタイプされるので「青枠」(あおわく)と呼ばれていました。この法律案をタイプした青枠は何頁にもなるのですが、これを「こより」で綴じるのがルールでした。紙を長細くよった「こより」でね…これもまた知られざる職人芸の世界です。
ま、あれこれ、しんどかった文書課時代ですが、首相官邸や国会議事堂、自民党本部やらに足を踏み入れたりと、なかなか経験できない世界を垣間見ることができた二年間でした。
(あ、首相官邸には官邸参事官室に書類を届けに行ったのですが、正面玄関を入るとホテルのドアマンのような人に案内され、さすが首相官邸はすごいなぁと思ったのですが、ふつう事務方は裏手の通用口から入るんだそうです。なんで行く前に教えてくれやんかったんかなぁ)