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バー・レイザー#7〜アマゾンジャパンの中途採用術 「協調性」について深掘りする〜その2 by もと中の人

「協調性」について深掘りする

前回の連載では、「協調性」を見極める際にアマゾンのリーダーシッププリンシプルの一つ"Earn Trust"を掘り下げる質問について説明しました。周囲から信頼を得ることのできる人であれば、チームと協力して物事を進められるでしょうし、あるいは、リーダーとして組織を引っ張る立場の方は、チームからも他部署からも信頼を得られなければ成果を出すことができないでしょう。

一方で、組織において自分の属するチーム、あるいは他部署と仕事を進めていく上で、信頼を得るために単に迎合的な付き合い方で関係を構築すれば仕事はうまくいくでしょうか?

仕事を進めるには様々な関係者と複雑な利害を調整しながら物事を進めなければならない場面が多数あります。相手先の都合に合わせて、本来は突き返さなければならないことも呑んでしまい、それで相手先から信頼を得ても、今度は身近なチームメンバーから総スカンをくらってしまう、と言うことはないでしょうか?

部下は上司をよく見ていて、他部署の横槍や問題の押し付けなどを鵜呑みにしてくる上司のために積極的に動こうとしません。あるいは、自分がマネージャーの立場として、他部署の言いなりになって調整できない部下には危なかしくって責任ある仕事を任せられない、ということもあるでしょう。

他部署やチーム内の複雑な利害をうまく調整できる人を採用面接で見極めるにはどうしたら良いでしょうか?
そのような経験や資質を持つ人を見極めるにはどのような質問が有効でしょうか?

この問題に対するアマゾンのリーダーシッププリンシプルは"Have Backbone; Disagree and Commit"が有効です。アマゾンのサイトからHave Backbone; Disagree and Commitの定義を改めてみてみることにしましょう。

Have Backbone; Disagree and Commit
リーダーは同意できない場合には、敬意をもって異議を唱えなければなりません。たとえそうすることが面倒で労力を要することであっても、例外はありません。リーダーは、信念を持ち、容易にあきらめません。安易に妥協して馴れ合うことはしません。しかし、いざ決定がなされたら、全面的にコミットして取り組みます

アマゾンでは誰もが「リーダー」であることを期待します。上記の文章は主語が「リーダー」となっていますが、「アマゾンの社員は誰でも」と言い換えてもいいかと思います。そして、上記の文章で「安易に妥協して馴れ合うことはしません」とあり、さらに「いざ決定がなされたら、全面的にコミットして取り組みます」ともあります。これを面接の中でどうやって見極めるか、というのが「協調性」のまた別の側面を探る一つのアプローチになります。

では実際にHave Backbone; Disagree and Commitを備えた人であるかを見極めるための質問とそれに対する回答、さらにはどのように回答を深掘りし、その回答を解釈・評価するか、を説明して行きます。

質問:上司、あるいは同僚と意見が対立した時のことを話してください。その時にどう対処しましたか?

この質問をした際に、ある候補者の方(マーケティングマネージャー)は、マーケティングの予算執行について他部署と意見が対立した例について話を始めました。まずはS.T.A.Rを使って、お話の輪郭を明確にします。

「予算の執行額はどれくらい大きかったのか?(事業全体への影響)」「プロジェクトの規模は?チームの人数、他部署の決裁者の職位は?」「上司の関与の度合い」「なぜ意見が対立していたのか」などのSituationやTaskを細かく聞き出しました。

こうすることで、この候補者が自分の責任でそのプロジェクトを遂行していたのか、上司のサポートを得て物事を進めていたのか、関連部署との調整の難易度を把握します。候補者の現職の立場は課長であり、応募してきているポジションが課長級であるのに、実際は係長・チームリーダーレベルの調整しかしていない、という場合はこうした質問のやり取りで確かめることができます。

続いて、Action, Resultsを確認します。「マーケティング予算を執行するためにどのような説得を試みたか」「その論拠はどのように組み立てたか」「その論理構造について相手はどのような反応を示したか」「結果として予算執行はできたのか(できなかったのか)」「実際に執行したあと、期待した結果を得ることができたか」「どのように効果測定を行ったのか」

Resultを確認するには候補者の所属した企業の機密事項に触れないように配慮しつつ、できるだけ具体的な数字を確認しました。例えば「そのマーケティングコストは前年比でどれくらい増加し、それに見合う投資結果として売上はどれくらいだったのか?その結果は目標値に対してプラス何%だったのか?」などです。

候補者は、普段の仕事できちんと振り返りをしていればこれらの質問に答えることができるはずです。しかし、話せない人が多いのが実情です。PDCAを回す、とよく言われますが、PDCAを回していると思い込んでいても、こうした客観的質問に答えられないことが多いのです。質問に答えられたとしても、説得する論理構造が曖昧であったり、結果測定の手法が恣意的なものであったり、Action, Resultsを聞くことで様々な角度で評価することができます。

STARで輪郭をつかんだら、さらに深掘りによってリーダーシップを確認する

この一連のやり取りで確認したいのは「Have backbone」です。確固たる自分の考えを持ち、いかに利害関係者と建設的にコミュニケーションをとっているか、説得する際にどのような情報・数字・データを用いて行っているか、を確認し、過去の行動の中に「Have backbone」を示す要素があるかを確認します。

深堀りを進めるには、Why-What-Howを何度も繰り返していきます。「説得を試みるために、どのようなロジックを組み立てたか?そのロジックの根拠となった数字は何か?その数字はどのように導いたか?」「説得した結果、対立した上司はどのような反応を示したか?」「結果的にあなたのロジックが認められなかった時、次にどうしたか?他者の意見を取り入れてコミットしたか?それはなぜ?」などの質問を繰り返します。

この質問を通じて、結果的に自分の意見を通すことができた、と言う場合や、自分たちのチームのことを配慮しながらも他部署との落とし所を決めた、と言う場合など、様々なケースをお聞きすることができます。

一連の質疑応答の中で重要なのは、「建設的に異議を唱え、議論の末に決まったことには、自分は納得していなくてもコミットしたか?」という点です。大企業のような上意下達の意思決定ではなく、スタートアップ企業のような自由闊達な議論をしながら、一方で意思決定のスピードを早めるためにはこの考え方、スタンスが大事です。

アマゾンでは、事実や数字に基づいたロジカルな議論を尽くすことが推奨され、その論拠が正しければ、たとえ上位の職位であってもそれを認め、同意されたことにコミットします。こうした企業文化にフィットするかどうかは非常に重要であり、一定の職位以上の面接では多くの場合、Haveback bone disagree and commitを確認します。

「協調性」を因数分解すると

  • 周囲から信頼を得て、他の人と調和しながら仕事を進めていくことができる
    →Earn Trust

  • 建設的な意見を用いて、利害関係者と一つの目標に向かって仕事を進めることができる
    →Have Backbone; Disagree and Commit

このように分けて考えることができます。

参考

時には、「上司(あるいは他部署)の意見にはどうしても納得ができず、自分の意見を押し通した」と言う場合もあります。こうした回答の時にはイエローフラグを立ててメモに残しておきます。他の面接者とのインタビューの中で似たような利己的な発言が見られたかを採用決定会議の中で確認します。複数の面接者からケースこそ違えど利己的な発言が見られた、などのフィードバックが得られれば、イエローフラグからレッドフラグに評価が変わり、採用を見送る、という場合もあります。



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