バー・レイザー#5〜アマゾンジャパンの中途採用術 面接のテクニックS.T.A.R by もと中の人

「過去の行動」に焦点を当てる面接って、どうやるの?
本連載の第三回で、アマゾンの中途採用面接では過去の行動に焦点を当てた質問を行うことを紹介しました。簡単そうに言いますが、面接応募者=候補者の具体的な過去の行動は通り一遍の質問では炙り出すことができません。本稿ではその具体的なテクニックについて説明してまいります。

リーダーシッププリンシプルを重視する面接
アマゾンの中途採用面接では、アマゾンが独自に設定したリーダーシッププリンシプルを候補者がどれくらい兼ね備えているかどうかを見極めるために、過去の行動に焦点を当て、その行動が入社後に再現可能なのかどうかを候補者の答えの中からエビデンスを見つけることを重視しています。

リーダーシッププリンシプルを備えた人物であるかどうか、具体的にどのように面接の中で確かめるのでしょうか。例えば、アマゾンのリテール部門、ベンダーマネージャー職に応募してきた方について考えてみましょう。その方が仮に職務経歴書に「XX小売りのバイヤーとして、売り上げ目標〜〜を達成」書いてあるとして、その情報の数値実績をなぞるだけでは、その候補者が "Customer Obsession" すなわち、顧客第一の視点を持って行動してきたかどうかを見極めることができません。

そこで、アマゾンでは過去の振る舞い、「行動」に焦点を当てた面接を行います。面接での質問も「これまで対応してきた中で最も難しかったお客様について具体的な事例を挙げて教えてください」という具体的な問いかけからスタートし、それを実現できたのはなぜか、どのように実行したのか、どのような判断基準・材料を用いたか、などを多角的に聞くことにしています。

リーダーシッププリンシプルを確かめるために糸口とする質問はそのひな型がすでに準備されています。面接官は、どのリーダーシッププリンシプルを確認するのか、事前に指示されます。ある人はBias for ActionとDive Deep、ある人はEarn trustとHave backbone, Diasagree and Commitを確認するように決められ、確認するリーダーシッププリンシプルが重ならないようにしています。

面接のアプローチ S.T.A.R.テクニック
アマゾンの中途採用面接では、一つのリーダーシッププリンシプルについて確認をするために推奨されている時間配分はおよそ15分
です。45分の面接時間の中で、最初のアイスブレイクで5分、15分X二回のリーダーシッププリンシプルの深掘り、最後の候補者からの質問タイム10分で45分という時間配分をしています。

この時間配分で、どのように質疑応答のキャッチボールを重ねていくか、が求められます。面接では、大抵の場合多くの候補者はその実績だけを語ろうとします。その実績を聞いておしまい、ではなく、その詳細を引き出していくことが面接官に求められます。その詳細を引き出すテクニックとして体系化されたのが、S.T.A.R.テクニックです。

S.T.A.R.テクニックはSituation、Task、Action、Resultの頭文字をとった質問を深める手法です。最初に投げかけたリーダーシッププリンシプルに関する質問に対して候補者が語るストーリーを以下の観点から深掘りします。

  • Situation: その候補者が話す事例は、どのような状況下で起こったことなのか?

  • Task: その時の候補者の立場、職種、仕事内容は何だったのか?

  • Action: その時、候補者はどんなアクションをとったのか?それはなぜか?

  • Results: どんな結果となったのか?できるだけ定量的に確認する。

具体的な質問とその回答例を紹介しながら、どのように質問を掘り下げ、評価をしていったのかを見てみましょう。

質問:これまで対応してきた中で最も難しかったお客様について具体的に教えてください
この質問はCustomer Obsessionを確認するための質問です。アマゾンが重視する顧客中心の考え方、行動が過去の仕事でどのように発揮されたかを確認します。アマゾンでは単にお客様から求めらたことをそのまま実践するのではなく、むしろ「お客様の代わりに」お客様の気づいていないニーズを満たすことが求められます。
例えば、Kindleという電子書籍サービス・端末をそれが存在する前から多くの顧客が求めていたわけではありません。むしろ紙に印刷された本の方が良いと考える読者が圧倒的でした。しかし、現在は多くの読者に電子書籍サービスをご利用いただいています。お客様の代わりに、どのような読書体験を提供すべきか、を考え、改善し続けた結果、現在のような大きなサービスになったと言えます。

中途採用面接では、候補者の過去の仕事のお話から、顧客をどのように捉え、何をしてきたかを確認することが重要です。アマゾンでは通販で商品を購入していただくお客様だけでなく、マーケットプレイスに出品する出品者、商品を供給するお取引先など様々なタイプのお客様が存在します。また、ファイナンスや法務などの間接部門はある意味ビジネス部門をお客様と定義しています。こうした様々なタイプの「お客様」はどの会社にも存在し、そのお客様の定義をどのようにしているか、ということも重要な確認ポイントとなります。

質問によっては、社外のお客様でなく、社内のお客様にどんな対応をしたのか、ということを聞く場合もあります。
ある候補者の方はこの質問に対して、かつてご自分がPM(プロジェクトマネージャー)として社内システムエンジニアにシステムの仕様を伝える仕事をしていた際に、受注先の企業からシステム仕様について非常に多くの要求を受けた時のことを話していただきました。

顧客企業から示された予算額と要求仕様を検討すると、とても要求を満たすシステムを納品するには工数と予算のバランスが合わないことがわかり、このまま要求を受けることができない、という状況に陥りました。顧客の言う通りに要求を飲んでしまえば、エンジニアに負荷がかかるか、あるいは、他部署のエンジニアも借りてこないといけないことになり、逆に顧客に断り方を間違えば他社に案件を奪われてしまうかもしれない、という判断の難しい状況でした。

まずSituation、Taskの確認では、「どんな点が判断として難しかったのか」「自分一人で担当したのか?チームで対応したのか?」「上司とどのように相談したか?」「工数を判定するためにエンジニアとどのように協議したか」「その時の自分の役割、チーム構成は」ということを確認し、上記のようなお話の大枠をつかみます。

この過程で、候補者が自分の実績を誇張して職務経歴書に書いていることがしばしば露見します。「〜〜というプロジェクトを成功させた」と書いてあっても個人の実績ではなく、チームの実績であった、とか。実際にプロジェクトをリードしていたのは上司だった、などです。ここでこだわるべきは、主語は誰なのか?です。自らが率先して行ったことなのか、それともチームや同僚、あるいは上司が主語なのか?です。

続いて、Action、Resultsでは「どのように顧客に回答、お断りしたか(または引き受けたか)?」「その時の顧客の反応は?」「対案はどのように検討したか」「社内の説得はどのように行ったか」などを確認します。

ここでも実績を誇張している場合が炙り出されます。例えば、前年比120%を達成、と書いてあっても、実際の目標数値は150%だということもあります。結果として目指す目標を大きく超えた120%なのか、未達の120%では大きく評価が変わります。多くの場合、職務経歴書には120%としか書いてありません。

STARで概要がつかめたら、深掘りを続けます。この候補者は、社内のエンジニアに負荷をかけることはできないと判断し、要求通りの仕様を受けることはできない、とお断りしたとお話くださいました。そこからさらに「お客様をどのように説得したか」「どんな反応を示したか」を聴き出します。

この候補者は、改めて顧客の要求仕様の中で優先順位付けをさせてもらい、短期的に必要な機能と中長期で満たせば良い機能の洗い出しをした結果、中長期で行えばよい開発は延期として、最初の要求仕様から外すことができた、というお話をしてくださいました。このように、単にお客様の要求を全て満たし、うまく行ったという話より、お互いにとって益となるアサーティブなコミュニケーションを取れるかということの方が重要です。なぜならこのような場面はアマゾンでは頻繁に生じるからです。

職務経歴書には、多くの場合、上記の事例としては「XXXXという顧客からの案件に対してPMとしてシステムエンジニアと顧客との間に立って納期通りにプロジェクトを進めることができた」とだけしか書いてありません。しかし、深掘りすることで上記のようなストーリーが見えてきます。

上記の回答をした候補者に対して、私の評価はCustomer ObsessionはPros(強み)と評価しました。

次回以降、他のリーダーシッププリンシプルに対応する質問も交えて、私が過去に担当した面接の事例を紹介していきます。

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