見出し画像

古き良きクリスマスの名曲がAIによってスペイン語バージョンでリリースされる時代

音楽業界・産業をビジネスの側面から観察・考察するシリーズ。今回はユニバーサル・ミュージックが、AIボイスクローン技術を活用して、ブレンダ・リーの「Rockin' Around the Christmas Tree」をスペイン語バージョン「Noche Buena y Navidad」に翻訳・制作、リリースした、というニュースです。今回もChat GPT4oの手を借りて各種情報収集をいたしました。

要点

  • ユニバーサル・ミュージックは、AIボイスクローン技術を活用して、ブレンダ・リーの「Rockin' Around the Christmas Tree」をスペイン語バージョン「Noche Buena y Navidad」に翻訳・制作。

  • プロジェクトにはSoundLabsのMicDropプラグインが使用され、アーティスト自身が出力を完全に管理可能。

  • 楽曲はブレンダ・リー本人の承認を受けており、AI技術がアーティストによって監修された倫理的な方法で利用されている点を強調。

本文翻訳

ユニバーサル・ミュージック・グループ(UMG)は、AIテクノロジー会社SoundLabsと戦略的パートナーシップを結び、アーティストとクリエイターに倫理的に訓練されたAIツールを提供しています。その成果として、ブレンダ・リーのホリデーの名曲「Rockin' Around the Christmas Tree」のスペイン語バージョン「Noche Buena y Navidad」が制作されました。この楽曲には、オリジナルの楽器と背景ボーカルが使用され、主旋律をスペイン語で新たに録音しました。

今回のリリースは、MicDropというAI音声プラグインを使用して制作されました。このプラグインはユーザーが声を他の声や楽器に変換できるもので、アーティストの音声データを使用して高忠実度の音声モデルを生成し、完全にアーティストが承認し管理できるように設計されています。

現に、ブレンダ・リー本人もAIを活用した「Rockin' Around the Christmas Tree」のスペイン語版に対して非常に感動しており、自身がこれまで多くの言語で楽曲を披露してきた中でも、「Rockin'」をスペイン語で録音した経験はなく、今回の新バージョンに喜びを表明しています。また、彼女はこの曲を新しい形でファンに届けられることを「信じられないほど素晴らしい」と評しています。

このAI技術は、創造的な産業が合意のないディープフェイクから保護されることを目的とする「NO FAKES法」の支持も受けており、AIが音楽業界にもたらす新たな可能性を象徴する事例として注目されています。

なぜスペイン語への翻訳なのか?

なぜ過去のクリスマス定番曲をスペイン語にわざわざ翻訳するのか?という疑問についてまずは考えてみます。サブスクストリーミングの楽曲再生の総数は年末に向けて大きく伸びていきます。年の途中に大ヒット曲が生まれた時には一時的に大きく再生数が増えますが、基本的にはサブスク登録者数の増加と個々の楽曲再生数の増加が相乗効果となって年末に再生数はピークを迎え、主な再生楽曲数の上位にクリスマス楽曲がチャートインしてきます。

以下は2023年12月25日付のオリコンストリーミング楽曲チャートです。

7位に2018年リリースのbacknumberのクリスマスソングがチャートインしています。各配信サービスはこの時期にクリスマス楽曲を集めたプレイリストを紹介し、こぞってリスナーはそのプレイリストを聴く→定番曲はチャート上位に毎年入ってくる、という現象が起こります。

このような背景から、クリスマスにより多くの再生数を稼げる曲を掘り起こそう、と考えるのは自然であり、それをスペイン語でリリースする、というのも頷けます。スペイン語圏の音楽リスナー数とストリーミング市場の状況について、以下にまとめます。

  1. リスナー数と人気
    スペイン語は世界的に2番目に人気のある音楽ストリーミング言語であり、全ストリーミングの約10%を占めています。特にラテン音楽はアメリカ市場でのシェアも拡大し、2023年には米国トップ10,000のオンデマンド楽曲のうち約8%がスペイン語の楽曲でした​

    1. Tone Island

  2. 収益規模
    スペインの音楽産業はストリーミングを中心に成長しており、2023年上半期の収益は約2億6,900万ドルに達しました。このうち約90%はストリーミングが占め、特に音声ストリーミングが主要な収益源となっています​

    1. Digital Music News

  3. サブスクリプションとユーザー層
    多くのスペイン語圏の国で、若年層(特に16~34歳)の間でサブスク音楽サービスが普及しており、メキシコやブラジルでは80%を超える若年層がストリーミングを利用しています​

    1. Exploding Topics

と、いうことで英語バージョンだけでなくスペイン語バージョンを作ることで、このマーケットの再生数拡大を狙うため、まずは実験的にこのブレンダ・リーの楽曲から手がけた、という戦略ではないか、と考えます。

また、本人にこのプロジェクトに絡んでもらい、お墨付きをもらっており、アーティストとミュージックレーベルが協働してAIを活用した楽曲制作に取り組んだ、という姿勢も見せることで、アーティストのAIに対するアレルギーを和らげるという戦略性を感じさせます。

NO FAKES法とは?

「NO FAKES法」(正式名称: Nurture Originals, Foster Art, and Keep Entertainment Safe Act)は、2024年に米国議会に提出された法律案で、生成AIによる無断のデジタル複製から個人の声や肖像を保護することを目的としています。この法案は、AI技術が個人の権利を侵害する可能性があるとする懸念に対応し、特にアーティストや一般人が許可なくディープフェイク技術による複製で利用されることを防ぐために作られました。

主な内容として、NO FAKES法は「デジタルレプリカ」という概念を定義し、個人が自身の声や肖像を制御するための知的財産権を付与します。これには、複製が本人の許可なく作成、共有、または商用利用された場合の法的責任が含まれ、違反者には実損害および不正に得た利益の支払いが義務付けられるほか、悪質な場合は懲罰的損害賠償が課されます。また、知的財産権は個人が死亡後も70年まで保護される規定もあり、遺族や指定代理人が引き継げるようになっています​
Music Business Worldwide
The National Law Review
Manatt

さらに、NO FAKES法には、違反を発見した際の削除手続きを義務付ける「通知と削除」の仕組みや、誠実な運営を行うプラットフォームに対する免責措置も含まれています。これにより、インターネットサービスプロバイダーやAI企業が迅速に対応することで責任を回避できる体制が整えられています​
Senator Coons
Attorney at Law Magazine

この法案は、表現の自由を守るために報道や歴史的な利用、パロディー、批評を対象外とするなど、バランスの取れた規制を目指しており、エンターテインメント業界からも広く支持を受けています​
Congresswoman Madeleine Dean

日本の状況

日本においては、AIによるディープフェイクや個人の声・肖像の無断使用に対する規制がまだ十分に整備されていませんが、いくつかの関連する取り組みが進んでいます。文化庁や教育機関では、AIと著作権に関するガイドラインを策定し、AIが著作物を模倣する場合の法的な対応について議論が行われています。また、大学や研究機関がディープフェイク検出技術の開発に取り組んでおり、この技術を利用して公共機関や著名人のディープフェイク対策を支援する方針です​
Bank of Japan Meeting Insights
Bunka Portal

一方、現状の日本法ではディープフェイクによる人格権侵害について、明確に対応する法律がなく、特に声優やアーティストの声が無断で利用される場合の法的保護は不十分とされています。そのため、ディープフェイクが個人の権利を侵害しないようにするためのさらなる法整備の必要性が議論されており、特に米国の「NO FAKES法」のような包括的な規制を参考にする動きが見られます​
IAPP

また、ディープフェイクを用いた政治的な偽情報対策や、AI生成コンテンツの透明性を確保するための措置も求められています。

いいなと思ったら応援しよう!