Meta社とUMGとのグローバル契約
毎週、音楽産業のトピックについて英文記事を一つ選んで要約しご紹介する連載、第三回目です。ユニバーサルミュージックグループ(UMG)とMETA社との間に新しい契約が締結された、と言うニュースがありましたので、上記記事からその概要をお伝えします。
"Facebook parent company Meta and Universal Music Group have signed an expanded global, multi-year deal."
Facebookの親会社であるMeta社とUniversal Music Group (UMG)との間に全世界に拡大した複数年の契約が結ばれた
前回のUMGのQ2決算発表のサマリの中で、Facebook、TikTokからの収益は反映していない、というメモがありましたが、Meta社との間のDeal=契約が締結され、おそらくはQ3以降の決算に反映されるものと思われます。
記事文中にも
Within those quarterly results, which saw UMG’s overall revenues up 9.6% YoY, UMG announced that its ad-funded streaming revenues had declined slightly, down 3.9% YoY.
Part of the reason for that decline, explained UMG’s CFO, Boyd Muir, was that Meta stopped licensing premium videos for Facebook from UMG in May.とあります。
音源による収益をセグメント別に見ると、サブスクによるストリーミング売上とAd-funded(コンテンツ上で表示される広告の売上分配)売上の二つに分かれますが、この売上成長が対前年比3.9%と鈍化しており、これはMetaへの高画質ビデオのライセンスを止めたことが理由の一つ、とされています。
今回の契約では、利用が少なく効果が得られなかった高画質ビデオの提供を取りやめ、むしろ、より売上が見込める領域に集中している、とされています。
そもそも、UMGとMeta社はどんな契約を結んだのか?
レコード会社の売上の源流は専属契約を締結したアーティストが実演した録音原盤を様々な流通形態を通じて収益化することです。その他にもMerchandising(アーティストブランドを活用したグッズ企画・販売)、コンサート興行、出版事業などもありますが、本流は「如何に原盤で収益を上げるか?」です。
そういう前提を踏まえて、Meta社との契約についてわかりやすく紐解きます。TikTokが短尺の縦型動画プラットフォームとして飛ぶ鳥を落とす勢いでソーシャルメディアとしての地位を確立したのを見て、すぐにMetaはFB、InstagramでそれまでのStoriesと言うサービスの上位版とも言えるReelsのサービスを開始しました。このReels、利用したことのある方はお分かりかと思いますが、ユーザーが自分の作った動画コンテンツに好きな楽曲をBGMとして利用することができます。BGMに使いたい楽曲はReel作成画面上で簡単に検索して利用できますし、友人やインフルエンサーが使った楽曲がテンプレート化され、他のユーザーも使用して、楽曲が広がっていきます。
これは、勝手にMeta社が音源を利用しているのではなく、レコード会社が音源とそのデータベースを提供し、それをサービスに組み込んでいるわけです。レコード会社は原盤を使用したMeta社が得た広告収益の一部を売上として得る、と言う構図となっています。何気なく使っている音源ですが、Meta社の広告費がレコード会社に還流され、ひいてはアーティストにそれが還流されることになっています。
“The new agreement expands monetization opportunities for UMG, and its artists and songwriters, even further with short form video, building on Meta and UMG’s joint track record of innovation and collaboration.”
とも書かれています。
さらに、
Meta and UMG said that they will work together “to address, among other things, unauthorized AI-generated content that could affect artists and songwriters”.
とあり、アーティストや作曲家に影響を及ぼしかねない未確認のAIによって生成されたコンテンツについて共に対応していく、ともしています。
My Insight
ユーザー生成の短尺コンテンツはレコード会社音源を使用しており、それが収益源となるし、何よりユーザーのエンゲージメントを高めるというプロモーション効果があるため、レコード会社にとって成長のドライバーともいえます。一方で、昨今のフェイクコンテンツのようにAIによって生成されたコンテンツがすでにソーシャルメディア上で散見されるようになってきました。
無断でAIが既存アーティストの楽曲を取り込み参照し、それによって楽曲生成を行うことにUMGは高い警戒感を持っていますし、それに対処することをどのプラットフォーマーにも求めています。
上記のようにレコード会社は「原盤」を作成し、流通頒布することで収益を得ていますから、勝手にアーティストの録音物=原盤をAIに食わせているんじゃないよ、と言う観点もありますし、AIが容易に「原盤」に類するものを作成してしまうことが一番の脅威、と捉えているのではないか、と推測します。