見出し画像

ストリーミングサービスはAI音楽に対して行動を起こす時が来た

音楽業界・産業をビジネスの側面から観察・考察するシリーズ。しばらくおやすみしていましたが復活します。今回はAIテクノロジーを使って作成された音楽のサブスクストリーミングプラットフォームにおける現在の扱いについて言及された以下の記事を紹介します。

記事要約

  • ストリーミングサービスはAI生成音楽に対する具体的な対応策を講じる必要がある。

  • AIが許可なく著作権で保護された音楽を使用して学習した場合、その音楽の使用を禁止するか、ロイヤリティ計算で不利な扱いにすべきである。

  • AI音楽のラベル表示や使用データの透明性を高めることが提案されている。

  • 現在、AI生成音楽がアーティストのロイヤリティを希薄化させる可能性がある。

  • デジタルストリーミングプラットフォーム(DSP)は迅速な対応が求められている。

ストリーミングサービスはAI音楽に対して行動を起こす時が来た
近年、人工知能(AI)の進化に伴い、音楽業界にも新たな潮流が生まれています。特にAIによって生成された音楽が増加する中、ストリーミングサービスはこれに対する具体的な対応を求められています。興味深いことにドイツのストリーミングチャートの48位にAIを用いて作成された楽曲がチャートインしています。

AIが音楽を生成する際、多くの場合、既存の著作権で保護された楽曲を無断で使用して学習を行っています。これにより、オリジナルのアーティストや作曲家の権利が侵害される可能性が指摘されています。専門家は、AIが許可なく著作権音楽を使用して学習した場合、その音楽の使用を禁止するか、ロイヤリティ計算において不利な扱いにするべきだと主張しています。

さらに、AI音楽の透明性を高めるために、AIによって生成された音楽には明確なラベル表示を行うことや、使用されたデータの透明性を向上させることが提案されています。これにより、リスナーやアーティストがAI音楽と人間が制作した音楽を区別しやすくなり、公正な環境が整うと期待されています。

現在、AI生成音楽の普及が進む中で、アーティストのロイヤリティが希薄化する懸念が広がっています。AIによる大量生産された音楽が市場に溢れることで、個々のアーティストが得られる収益が減少する可能性があるのです。

このような状況を受けて、デジタルストリーミングプラットフォーム(DSP)には迅速な対応が求められています。具体的には、AI音楽の取り扱いに関するガイドラインの策定や、アーティスト保護のための新たな仕組みの導入が必要とされています。ストリーミングサービスが先手を打ってこれらの課題に対処することで、音楽業界全体の健全な発展が期待されます。

AI技術の進化は避けられない現実ですが、それに伴う課題にも適切に対応することで、人間とAIが共存する新しい音楽の未来を築くことが可能です。ストリーミングサービスがこの変革期において重要な役割を果たすことが求められています。

AI音楽がDSPに供給され、収益化される仕組み、裏側

サブスクストリーミングサービスがまだなかった頃、アーティストが創作した楽曲はレコード会社がCDやレコードなどフィジカル媒体に複製し、流通させ、小売から売上を回収してアーティストに分配していました。デジタルダウンロードコンテンツも原則として大手レコードレーベルが配信事業者に供給していました。ここでは純粋に売れたものに対して収益分配される仕組みが整っていたと言えます。

翻って、サブスクストリーミングサービスが一般化すると、「月額利用料金の総額を再生された回数によって分配する」と言うビジネスモデルになります。月額使用料の総額は、有料会員数に月額使用料を乗じた金額ですから、会員数が増えるか、もしくは利用料金をあげない限り、総額は増えません。利用料金総額という同じパイを全ての再生数を元にした計算で分配する、ということになります。メジャーレーベルのアーティストの1再生も、インディーアーティストの1再生も、AIを用いた音楽の1再生も、同じパイから分配されます。(厳密にはDSPとメジャーレーベルの契約体系はもう少し複雑だと私は認識しています)

メジャーレーベルを介さずともDSPには楽曲を登録することは可能です。例えばTune Coreと言う音楽ディストリビューションサービスを用いれば、メジャーレーベルと契約のないアーティストも楽曲を配信することができます。こうした配信ディストリビューターの存在が、AI音楽の流通も可能にしています。そして、これは一方でメジャーレーベルの存在価値を揺らがせるものとなっています。(もちろん、メジャーレーベルは強かで、こうしたディストリビューターで配信しているアーティストを発掘し、レーベルにスカウトしたりもしていますが)

技術的には、過去にリリースされたアーティストの楽曲をAIに学習させ、その学習内容を元にコンセプトや曲調を設定すればAIが過去の楽曲を模した曲を作成することは可能になっています。そうした楽曲が配信ディストリビューターを通じてDSPに登録され、それが再生されれば、同じ1再生として利用料金総額の分配対象となるわけです。(注:Spotifyは再生回数が年間1000回に満たない楽曲への分配を行わないというリリースをしています。)

オリジナルの記事では、それでもなおDSP側の対策がまだ追いついていない、という指摘となっています。楽曲がAI学習による成果なのか、生身のアーティストが作成した楽曲なのか、その分類をどのように行うか、が問われています。技術的にこれを克服するのはメジャーレーベル側も協力が必要ではないかと考えます。
生身のアーティストである」ことを証明する機能が、今後メジャーレーベルの存在価値の一つとして認められるようになるかもしれません。


いいなと思ったら応援しよう!