バー・レイザー#3〜アマゾンジャパンの中途採用術 職務経歴書に書いていないことを聞く by もと中の人
アゾゾンの面接は「過去の行動」に焦点を当てた質問をする
自分の履歴書や職務経歴書にネガティブなことを書く人はいません。そこには自分の過去の仕事上の経験と実績、強みなどが書かれています。そこに嘘は書かれていないでしょうが、その背景にある成功や失敗体験は見えてきません。一般的な企業における中途採用面接は、単にその応募者の過去の仕事の経験を職務経歴書に沿って確認するだけの面接が多いものと思います。
職務経歴書には書いていないことを聞く
私がバー・レイザーとして面接において徹底していたのはこの考え方です。アマゾンでは、過去の行動に焦点を当て候補者に様々は質問をしていくことでその方の本質的な部分、リーダーシップを確認する面接手法が確立されています。候補者の過去の経験やスキルセット(ハードスキル)とコアコンピテンシー、リーダーシップ(ソフトスキル)の両面を確認することで、そのポジションにあった人材かどうかを評価します。
リーダーシッププリンシプルについては別の投稿で詳述しますが、以下のリンクをご参照ください。
ハードスキル、ソフトスキルとは?
ハードスキルは入社後、後天的に獲得できるもの、と考えられています。例えば、募集ポジションに英語でのコミュニケーションが必須だとして、多少の英会話に不安があったとしても、普段コミュニケーションが日本人中心で、海外とのコミュニケーションの頻度が低い場合は、後からキャッチアップすれば良いでしょう。(もちろん、アマゾンの場合は英語必須のポジションも多く、単にTOEICのスコアの評価だけではなく、効果的なコミュニケーションを英語で取れるか米国のカウンターパートのメンバーと英語で面接の中で確認する場合も多数あります。)
私は書籍事業部の責任者でしたが、部署に異動した当時は出版業界の専門的な知識は全く持っていませんでした。しかし、業界知識を後から学ぶことで獲得し、キャッチアップを必死にすることで理解を深めました。これらがハードスキルの一例です。
一方で、ソフトスキルは後天的に容易に獲得することはできません。「協調性」「責任感」「判断力」はすぐに体得できるものではありません。こうしたコンピテンシー(=資質)などといったソフトスキルをアマゾンのリーダーシッププリンシプルの観点から確認することがアマゾンでの採用において非常に重要視されています。では、どのようにそうしたリーダーシップを見極めるのか、その手法をここから説明していきます。
参考:ハードスキルとソフトスキルの違いは?
https://jp.indeed.com/career-advice/resumes-cover-letters/hard-skills-vs-soft-skills
リーダーシッププリンシプルに対応した質問が用意されている
「あなたの過去の仕事内容や実績について教えてください」「あなたが今行っているプロジェクトについて教えてください」「志望動機を教えてください」「あなたはこの会社でどんな貢献ができると思いますか?」
一般的な中途採用面接ではこのような質問が多いと思います。しかし、これでは職務経歴書に書いてあることをだけをなぞるだけになってしまいます。面接時間は候補者により質問時間を含めて約1時間(当時私が担当していた時は45分でした)です。アマゾンではこの1時間という限られた尺で「志望動機や自己紹介」を聞くのに5〜10分を費やすのは無駄、という考え方でした。
面接を受けに来た候補者の方は、あらかじめ用意してきた自己アピール、過去の仕事内容など、職務経歴書に書かれた内容に沿って話を進めるだけです。アマゾンでは、こうした質問は推奨されません。
アマゾンの面接では、複数の面接官それぞれにどのリーダーシッププリンシプルについて深掘りするかがあらかじめ割り当てられています。バー・レイザーは、採用担当マネージャーにどういう資質がそのポジションに求められるかを事前に確認し、その資質に適合するリーダーシッププリンシプルをどの面接官が担当するかをチェックしています。
例えば、Job Level5(部署のリーダー、課長級)を面接する場合、面接官は4人(採用担当マネージャー、バー・レイザー、その部署から2名)と決まっており、4人はそれぞれ何のリーダーシッププリンシプルについて確認するかが決まっています。面接後、必ずそのリーダーシッププリンシプルについて候補者がどのような回答をし、それについてどのような評価を行うのかコメント・フィードバックが求められます。
面接にあたり、面接官はリーダーシッププリンシプルごとに定められた質問テンプレートを事前にチェックし、準備しておきます。候補者が過去の仕事でどのようなリーダーシップを発揮したかを確認するため、そのテンプレートの質問を使って掘り下げていきます。例えば、
Customer Obsessionに関連する質問
「あなたがお客様の期待値を超えるようなサービスを提供した時のことを具体的にお話しください」
「お客様」をどのように定義しているか
「お客様」を知るために何をしているか
お客様の「期待値」をどのように測ったのか
その期待値を具体的にどのように上回ったのか
アマゾンが最も重視する「顧客中心主義」について、リーダーシッププリンシプルの一番最初に掲げられたCustomer Obsessionについての質問です。
”リーダーはまずお客様を起点に考え、お客様のニーズに基づき行動します。お客様から信頼を得て、維持していくために全力を尽くします。リーダーは競合にも注意は払いますが、何よりもお客様を中心に考えることにこだわります。”
上記の質問に対する模範解答はありません。過去の自分の仕事を振り返って、客観的にその仕事を言語化できているかどうか、それを面接の中でアウトプットできるかどうかが求められます。自分は社内の間接部門にいたので外部の「お客様」はいない、という場合も、社内の他部署と連携するとき、そのパートナーは「お客様」でもあります。そうした自分なりに定義したお客様との関係性の中で、自分が成し遂げたことは何か、をしっかりとストーリーを持って話せるか?これはアマゾンの中途面接だけで必要なことではなく、現在の上司とのコミュニケーションでも求められることだと思います。
次回の投稿では、面接の中で「行動に焦点を当てるため」どのように掘り下げているのか?その基本テクニックについて書いてみます。