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バー・レイザー#6〜アマゾンジャパンの中途採用術 「協調性」を見極めるには? by もと中の人

長い中途採用活動を経て、ようやく採用を決めてチームに迎え入れた人が他のチームメンバーとソリが合わず、チームの和を乱したり、チームワークに影響を及ぼしてしまった、という経験をお持ちの方は多いと思います。私自身も経験してきました。
中途採用によって、チームに一時的に緊張感が生まれ、それが良い化学反応となっていくのは良いのですが、そのような期待とは反対の結果となってしまったことがあります。採用後、時が経つにつれてチームメンバーが1 on 1で不満を口にするようになり、状況を聞くと中途採用で採用した方に問題があったとき、そして、その問題が根深く、修正できないものであると、これはとても厄介な問題です。

当然のことながら、職務経歴書や履歴書に自分のことを「協調性のない人」だと書く人は誰もいません。しかし、事実として仕事では優れた実績を過去に残してきた人が協調性のない方だった、という例を私は今までたくさん見てきました。

こうした採用のミスマッチを回避するにはどうしたら良いでしょうか?
採用候補者の「協調性」を見極めるには、どのような質問が有効でしょうか?

アマゾンの中途採用面接において採用している「過去の行動を焦点に当て、求めるリーダーシッププリンシプルに合致するかを見極める」という考え方・方法は、上記の問いに対する一つの答えでもあります。

「協調性」に通じるリーダーシッププリンシプルの一つは"Earn Trust"が挙げられます。もともと、このEarn Trustというリーダーシッププリンシプルは、Vocally self criticalというリーダーシッププリンシプルとは別でしたが、ある時期から統合されていました。アマゾンのサイトからEarn Trustの定義を改めてみてみることにしましょう。

Earn Trust
リーダーは注意深く耳を傾け、率直に話し、誰にでも敬意をもって接します。たとえ気まずい思いをすることがあっても間違いは素直に認めます。リーダーは自分やチームの体臭を香水と勘違いすることはありません。リーダーは常に自らを、そしてチームを最高水準のものと比較し、高みを目指します

アマゾンでは誰もが「リーダー」であることを期待します。上記の文章は主語が「リーダー」となっていますが、「アマゾンの社員は誰でも」と言い換えてもいいかと思います。そして、上記の文章で「間違いは素直に認めます」とありますが、これを面接の中でどうやって見極めるか、というのが「協調性」を探る一つのアプローチになります。

では実際にEarn Trustという資質を持った人であるかを見極めるための質問とそれに対する回答、さらにはどのようにその回答を解釈・評価するか、を説明して行きます。

質問:あなたが今までで一番大きな失敗をしてしまった時のことを話してください
この質問はEarn Trustを見極めるためのきっかけとなる質問です。興味深いことに、この質問をしても「自分には失敗の経験はありません」と話される候補者の方も多く、意外に感じました。アマゾンでは、失敗することを尊重し、そこから何を学び、次にどうつなげるか、を重視されます。失敗について謝罪を求められることはなく、なぜ失敗したかという客観的な分析を求めらます。

”たとえ気まずい思いをする事があったとしても間違いは素直に認め、自分やチームの間違いを正しいと言ったりしません。”とあるように、自らの失敗を客観的に振り返り、言語化して他者に共有できるかどうか、が重要です。

ある候補者の方はかつて自分が立案した計画が達成できなかったことについてお話ししてくださいました。例によってSTARテクニックで、Situation、Taskを確かめるため、「その計画は自分一人で作成したのか?」「その計画がビジネスに及ぼしたインパクトは?」などを聞き、その方の責任範疇の広さ、その計画の難易度を確認します。
難易度が高い課題にチャレンジして失敗したのか、それとも、その職位にしては簡単なことに失敗したのか、あるいは、「失敗」というより「ケアレスミス」だったのか、を聞き出します。

Action、Resultでは、「その計画立案をどのように行ったか?」「失敗したと判断した時、どのような行動をとったのか」「失敗のどのようにリカバリーしたのか」「一緒に携わった関係者にどのように説明したか」を確認します。

STARによって輪郭がつかめたら、話の内容に沿って深堀りをしていきます。その失敗によって何を学んだのか、学んだことをどのように仕事に活かしているのか、私が特に重視していたのはこうした点でした。

候補者によっては「二度と失敗しないように気をつけています」としか答えられない方がいます。「気をつけます」「頑張ります」は単なる心構えであり、失敗に至った原因や仕組み、プロセスの問題点を改善しない限り、同じ過ちを繰り返します。失敗した原因の追求をしっかり行い、その問題点に対する具体策を講じていれば、それを振り返り、内容を客観的に答えることができるはずです。

さらに、こうした失敗の振り返りの中で、決して自己に問題があるとは言わず、むしろチームに非があった、あるいは、相手方に非があった、あるいは事業環境が悪かったなど、全て人のせいにしてしまう候補者の方がいます。こうした回答をした方を私はレッドフラグを立てて、他にどんなに良い点があっても採用不可としてきました。

まさにこの部分にチームとの「協調性」の将来像が垣間見える瞬間でもありました。もちろん、失敗の全体像を見た時に自分だけに非があるとは言えないケースもあるでしょう。しかし、その中で自分はどのように関与することができ、同じようなケースに再び直面した時にどのようにチームに働きかけができるか、ということを言語化できていない方は、将来チーム内で似たような行動をとってしまうリスクがあります。

さらに「自己を客観的に振り返って、反省すべき点は反省する習慣がない、もしくは乏しい」という方は、自分に対して受け入れ難いネガティブなフィードバックをされた時に素直にそれを受け入れられない、ということがしばしば見受けられます。冒頭「その問題が根深く、修正できないものであると、これはとても厄介な問題です」と書いたのはまさにそれです。

中途採用で入った方(仮にxさんとしましょう)に対してチームメンバーから寄せられた改善点をフェアな視点で一旦確認した上で、フィードバックとしてxさんに伝えます。ところが、このxさんは自分に改善点があると決して認めません。むしろチームメンバー側に問題があるのでは、と考えてしまいます。こうなるとチームワークどころではありません。私は後でEarn Trustに対する中途採用面接での掘り下げが足りなかった、と大いに反省しました。

こうした方の採用を回避するためにEarn Trustは非常に大事なリーダーシッププリンシプルと言えます。今回はチームメンバーの採用時の例をご紹介しましたが、チームのリーダー、課長や部長を採用する際もこのリーダーシッププリンシプルは有効に機能します。信頼を得られないリーダーはチームを引っ張っていくことはできません。



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