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バー・レイザー#15〜アマゾンジャパン中途採用の舞台裏 やり切る力、レジリエンスを見極める

「言うは易し、行うは難し」某政党の党首選のやり取りを見ていて、口で言うのは本当に簡単だけれども、それを実現するために諦めずにやり抜くことのできる人こそが本当のリーダーだと感じました。そして、今回のテーマについて改めて思いを巡らすことになりました。

実際、多くの仕事の現場では様々な課題があって、その課題に取り組む中で、どうすればその課題解決ができるか答えがわかっていても、様々な障害があって途中で挫折せざるを得ないことも多々あるかと思います。「諦めずに、やり続ければいつかは成功する」と多くの人が言う通り、打たれても打たれても粘り強くやり続けることが結局は成功の近道と言えます。私がアマゾンに15年弱在職できたのも案外「打たれ強かったから」かもしれません。

アマゾンでは次年度の計画を作成するタイミングが毎年二回訪れます。6月から7月にかけて、過去半年間を振り返って当年の目標への達成度を見ながら、うまく行っていればそれを倍にするにはどうするか、あるいは、うまく行っていなければ翌年に向けてどんなことをすべきか、などをドキュメント=6 pagerにまとめます。

事業部長クラスはこの文書作成に1〜2ヶ月をかけ、自分のチームから情報を集め、上司やファイナンスチームと協議を行い6pagerを作成します。それは、与えられた事業課題や数値目標を達成するために、問題点とそれを解決するアクションプランが精緻に組み立てられている必要があり、その整合性や実現性を問われますし、一方で凝り固まった考え方ではなく、何かこれまでとは異なるアプローチも求められます。(うまく行っていないのに、同じ方法やアプローチを続けてもうまくいくはずがない)

6 page内に必要な要素をまとめる、という制約は絶妙のバランスであり、何をトピックとして取り上げ、何を割愛するか、ということを考えざるを得なくなります。私が担当していた書籍事業については、主に出版社との関係構築、調達のための取引ルートの改善・改革などをポイントに文書をまとめていました。ここでは、当然のことながら目標達成へのコミットメントが強く求められます。このコミットメントは、事業部として達成可能なアクションの積み上げである必要があります。こうして夏に事業計画の大枠を議論し、年末に翌年の数値目標が決定します。このサイクルを毎年継続していました。

ここで大事なのは、プランニングが終わり、目標数値が決まったら、それを実現するためにまとめたアクションをチームとして、個人としてどれだけ実行できるか、それをどのようにトラッキングするか、ということです。アマゾンでは、部門として目標設定をいくつかの階層に分けて管理しています。その達成度をシアトルのSVPと定期的にレビューしなければならない「Sチームゴール」、部門の必ず達成すべき目標としての「フラッグシップゴール」など。例えば、書籍事業部であれば「出版社との直接取引の比率を全仕入金額のX%まで高める」という目標はSチームゴールとして何度もレビューを受けました。

こうしたプロセス、サイクルを何年も続けて感じたのは、つくづく「レジリエンス」が大事だということです。アマゾンでは目標が達成しなかったらそれに対して叱責されるよりも、それに向けてどのように努力を重ねたか(アマゾン流に言えばInputを重ねたか)が重要視されます。6 pagerの大事なところは、チームとしてどのようなアクションを実行し、それが目標達成までの正しいルートを辿っているか、を正当化することです。失敗していても、うまく行っていなくても、挫けずポジティブにそれを伝えることが、結局は本国のシニアマネジメントから信頼を得ることであると強く感じます。

さて、中途採用で優秀な人材を見極める、という本稿のいつもの趣旨に戻りましょう。こうした「やり切る力」「レジリエンス」のある人をどうやって見極めたら良いでしょう?アマゾンのリーダーシッププリンシプルから習うとすれば、Deliver Resultが良いと思います。早速、その定義を見てみましょう。

Deliver Results
リーダーはビジネス上の重要なインプットにフォーカスし、適正な品質でタイムリーにやり遂げます。どのようなハードルに直面しても、立ち向かい、決して妥協しません。

この資質を見極めるために、いくつかこんな質問をしていました。

質問:あなたが今まででチャレンジした最も難しいプロジェクトについて具体例を教えてください。
質問:目標達成のプレッシャーを自分なりにどのように制御したか教えてください。

ポイントは「最も難しいプロジェクト」であるという点です。候補者の方が話すプロジェクトの内容がさほど難しくなかったり、あるいは、難しくても自分の力で解決したというより上司の力を借りて、などのパターンがよくあります。本人は難しいつもりで話していても、そのプロジェクトに関わる利害関係者の多さ、社外の意志決定者の階層レベルが低いなど、プロジェクトの難易度の評価が重要となります。

合わせて、そのプロジェクトがどのような過程を経て、ゴールに至ったのか(あるいは至らなかったのか)を詳しくお聞きする必要があります。その進捗管理の具体例を聞き出し、どのように週次で管理し、遅れがあればどのように軌道修正したかなどを具体的に引き出します。中には、上司への進捗報告は月に一度、それでも問題なくプロジェクトを実現できた、などのお話も出てきます。そうした話は本当に「最も難しいプロジェクト」だったのでしょうか?こんな場合は私は採用判定にイエローフラグを立てていました。

結果論として、プロジェクトはうまく行かなかった、という話も、それ自体はマイナスの評価とはなりません。むしろ、うまく行かない中でどうやって行動に移したか、チームを動かしたか、他部署を巻き込んでいったのか、というお話をしていただく方が、同じようなシチュエーションに置かれても、この候補者の方は同じように切り抜けるだろうな、と想起することができます。薄っぺらなプロジェクト成功の話より、散々苦労してうまく行かなかった、という話の方が厚みがあって、むしろ信頼が湧いてきます。(もちろん、すごく難しいプロジェクトを完遂できた、という内容の濃いお話の方が良いですが。)

打たれ強くて、結果が出るまでコミットする、そういう人材を是非見つけてください。

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