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バー・レイザー#8〜アマゾンジャパンの中途採用術 「自律性」や「責任感」を見極める by もと中の人

もしあなたがコンビニエンスストアの店長だとして、「具体的な指示をしない限り品出しやレジ対応など、自分で動こうとしないスタッフ」と「自ら仕事を探してきて、指示がなくてもお店の売り上げを高めるにはどうしたら良いか考えるスタッフ」の二つのタイプのアルバイト店員がいたら、どちらを採用したいと思うでしょうか?時給を少し高くしてでも後者ではないでしょうか?

しかし「能動的に仕事を見つけてきて動いてくれる店員」を採用面接の中でどうやって見極めたら良いでしょう?コンビニエンスストアのみならず、「自律的」「能動的」「責任感が強い」「自分ごととして物事に取り組む」という資質をもった人材は組織にとって非常に重要です。

逆に「指示待ち」タイプの方は、マネージャーからの具体的な指示がないと動きません。自分で考えて行動することができず、ともすると、自分のパフォーマンスが評価されないのは、上司からの指示が適切ではないからだ、と考えてしまう方がいます。

チームに属するメンバーが全員「自律性」を持って行動したらマネージャーとしてはなんと助かることでしょう。マネージャーはさらに自分がなすべきことに集中し、1 on 1でチームメンバーと逐次確認することでチームが目指すべき方向に向けて動けているかをチェックすることができます。

当然のことながら、職務経歴書や履歴書に自分のことを「責任感が強い」とか「自律的・自発的に仕事に取り組みます」とアピールする人はいません。自己紹介欄にそのように記載されていても、それは単なる自己評価に過ぎません。

どうやって「自律的な人」「責任感の強い人」を見極めれば良いでしょうか?

この問題に対するアマゾンのリーダーシッププリンシプルはOwnershipが有効です。アマゾンのサイトからOwnershipの定義を改めてみてみることにしましょう。

Ownership
リーダーはオーナーです。リーダーは長期的視点で考え、短期的な結果のために、長期的な価値を犠牲にしません。リーダーは自分のチームだけでなく、会社全体のために行動します。リーダーは「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしません。

アマゾンでは誰もが「リーダー」であることを期待します。上記の文章は主語が「リーダー」となっていますが、「アマゾンの社員は誰でも」と言い換えてもいいかと思います。そして、上記の文章で「長期的な視点で考える」「会社全体のために行動する」「それは私の仕事ではありません」とは決して口にしない」 とありますが、実際にそのような考え方で行動している人をどのように見極めれば良いでしょうか。

質問:あなたが自分自身で成し遂げ、会社に一番貢献できたことを教えてください。

この質問をした際に、アカウントマネジメントチームに応募してきたある候補者の方(営業職経験者)は、営業成績が認められ、社長賞を受賞したときの例について話を始めました。まずはS.T.A.Rを使って、お話の輪郭を明確にします。

その営業ターゲットが新規開拓であったのか、それとも既存顧客の売り上げを伸ばす営業だったのか、それともチームを率いて営業目標を達成したのか、その候補者の方のマネージャーとしての役割は何か、その営業目標を達成する難易度はどれくらいであったのか、などを質問を重ねて炙り出します。

続いて、目標を達成するために障壁となったことは何か、どんなことが難しかったのか、それを解決するためにどのような行動をとったのか、そして、結果として達成した数字は、設定された目標に対してどれくらい上回ったのか?そもそも、その目標設定は適切なレベル感であったのか?ということをお聞きします。

上記から、Situation Task Action Resultが見えてきたら、気になるところを深掘りします。特に「自律性」「責任感」をみたい時は、「問題に直面した時、自分なりにどのように動いたか?」「目標を達成できそうにない、という状況下で上司とどのように相談したか」という質問を重ねることで、上司からの指示がなくても能動的、自律的に実績が残せるような動きを行ったのかどうか、あるいは「目標を達成しなければ」という強い責任感で物事に当たったか、ということが見えてきます。

「社長賞」を授与された、ということはその実績が認められたことですから、それ自体は素晴らしいことですし、転職時の面接における一つの勲章として誇るべきことでしょう。しかし、その背景にあるストーリーを引き出すことで、達成したことの難易度、複雑度が垣間見えます。よくよく聞けば、営業部門のチームメンバーはほとんどが目標を達成でき、数人が社長賞を受賞していたそうでした。さらに深掘りすると、その候補者はがむしゃらに営業を行っただけで、その目標を達成することの困難さをお聞きしても、「難しいことはありませんでした」とお話しされ、一種の個人の武勇伝的なストーリーでした。

このお話をお聞きして、とにかく目標を達成するために自分自身でがむしゃらに営業した、という姿自身は評価されるべきこと、と感じました。何がなんでも目標を達成したいという責任感も強いものと評価できました。しかし、一方でそのポジションで待ち受ける複雑な問題に直面した際に自律的に行動するといったような姿は見えてきませんでした。

営業に没頭するあまりデスクワークが後回しになり、残業時間が多いことについて、上司との進捗報告ミーティングでどうすればもっと効率的に動けるのか、という上司からの問いかけに、とにかく当たって砕けろ、というスタイルを押し通した、というお答えでした。「自律性=自分で考え、自分で行動する」と言い換えるならば、短期的な結果を出すための行動が中心で、上司からの指示がなければ、適切な時間で業務をこなすことができなかった、とも言えます。

上記のやり取りから、私はこの社長賞を受賞した候補者は「自律性」や「計画性」に問題あり、と評価して不採用、という評価をしました。

Ownershipを改めて私なりに解釈、因数分解してみると、

  • 自分と自分の属するチーム、そして会社全体を俯瞰的に見て、会社の問題を「自分ごと」として捉えられること

  • 指示を待って動くよりも「自分で考え、自分で行動する」主体性を持っていること

と言えます。
上記の質問から始め、細部まで掘り下げていって上記の要素に当てはまる行動をしているかどうかを注意深く評価することが必要となってきます。

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