短い猫のお話
「お腹すいた〜」
というと、飼い主は、
「お腹すいたの〜?ちょっと待ってね〜」
という。
飼い主が、
「今日仕事で嫌なことがあってさ〜、もう辞めようかな〜」
というから、
「まあ我慢して続ける仕事でもないなら、辞めたらいいんじゃない?」
というと、
「フフ、お腹すいたのか?お前は仕方ないな〜」
という。
ある日飼い主が泣きながら、
「…私頑張ったよね?彼のために。…でも、他に好きな人が出来たんだって。…私何やってんだろう?」
というから、
「大丈夫、泣きたい時は泣いたらいいし、すぐに彼も忘れるぐらい好きな人が見つかるよ」
というと、
「…あんたはいいね、お腹いっぱい食べて、ずっと寝て、悩みなんてないもんね」
という。悩みはあんただ。
そんな僕の気持ちをわからない飼い主に、新しい恋人が出来た。まあまあいい男で、飼い主は馬鹿みたいに浮かれていた。
そいつが部屋にやって来たとき、
「あ、この子が噂の食いしん坊か〜」
と僕を撫でた。いや〜な撫で方をするヤツだった。
飼い主はそいつに惚れてるみたいで、ずっと猫撫で声で会話をしていた。
猫を飼ってるとは思えないほど、下手くそな猫撫で声だ。
飼い主がシャワーを浴びるとお風呂場へ行ってる間、その男は別の女と電話していた。
撫で方でわかったが、いけ好かないヤツだ。
しばらくして、飼い主は僕に、
「彼と結婚するとしたら、あんたどう思う?」
と聞いて来た。僕は力いっぱい飼い主の手に噛み付いてやった。すると飼い主は、
「おーおー、嫉妬してるのか?大丈夫、あんたはずっと私の一番だよ。ていうかあれか、ただお腹すいてんでしょ?」
と、鼻歌を歌いながら台所へ行った。
「…そんなんだから、そうなんだよ」
と僕はため息つき、台所にいる飼い主の足にまとわりつくと、頭にポタッと水滴が落ちてきた。
「…あんたはずっと、私のそばにいてね。」
と飼い主が泣きながら缶詰を開けていた。
僕は、
「めんどくさいヤツだな〜、まあ世話してやるかぁ」
と、いつもよりちょっといい缶詰を頬張った。
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