怖い話

この間急に思い出して、人に怖い話を喋った。

「あ、自分怖い話あったんだ」

と思ったが、怖い話って本人にとってはめちゃくちゃ怖い話ではないのかもしれない。

人の怖い話を聞く方がゾッとする。
多分想像力でより怖く脚色するからだろう。

さて、僕の怖い話を一つ。

もう何年前になるだろうか、当時仲良くしていた女性と飲み、その流れでホテルへ行くことになった。
週末の鶯谷、空いてるホテルはなかなかない。

空室のホテルを探しながらフラフラと歩いていると、ホテルの外にある満室空室の電光掲示板が、ちょうど満室から空室に変わった。

「お、空いた」

と思い、そのホテルへ入って行く。
中に入ると続いて部屋を選ぶ電光掲示板が。全て消えていたが、僕らが前に到着すると、ピカピカッと一室だけ点灯した。
選択肢は一択で、その部屋のボタンを押して受付へ向かう。

こういう類のホテルの受付は、人の顔が見えない。
お互いが非対面でやり取りするのだ。

だがしかし、なぜかこの時は受付の人の口元だけが見えていた。
おばさんぐらいの歳の人の様だったが、真っ赤な口紅をつけたその口元が、明らかに笑っている。
いやーな笑い方をしてる口元だった。

ちょっとお酒は入っていたが、はっきりとその時の光景を覚えている。

お金を払い、鍵をもらって部屋に入る。

部屋に入った瞬間、空気がズンと重くなる様な気がした。

「まあこういうホテルは空気悪いとこもあるからな」

ぐらいにしか考えなかったが、しばらくして女の子が気分が悪いと言い出しトイレにこもった。

「そんな飲んでないのにな」

と思ったが、なかなかトイレから出てこない。
やっと出て来たと思ったら、今度は洗面所で吐いてしまう。
とりあえず横になった方がいいと、彼女をベッドに寝かせた時気付いたのだが、ベッドが置いてある床のとこだけ、絨毯が違うのだ。

「なんだこれ?」

と思った。
明らかに、後からそこだけ切り抜いて、新しい絨毯をはめ込んだ様な感じ。

「うわ、イヤだな」

と冷静に頭で考えて、彼女に

「すぐに出よう」

と伝える。
具合の悪い彼女を抱えながら部屋を出て、受付に鍵を返す。
その時見えた受付のおばさんの口元が、より一層イヤな笑い方をしていた。

「これはまずい場所だったんだ」

と思っていると、さっきまで具合の悪かった女の子がケロっとしている。

「大丈夫?」

と聞いても

「全然平気。何だったんだろう?」

と本人も不思議がっていた。

二人で別のホテルに入り、その日は泊まった。

翌日、ホテルを出て帰ろうと駅へ向かう道で昨日のあのホテルの前を通った時に、まったく訳がわからなかった。

空き地だったのだ。

「え、ここだよね?」

と周囲を周ってみたが、明らかにそこだった。

後々調べてみたらあることがわかったが、それはここには書かない。

怖すぎるから。

今も夏になると鮮明に思い出す、あの真っ赤な口紅のいやーな笑い方をした口元を。

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ロビンソンズ きたざわひとし
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