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新時代のヒロイン 下倉メグ

下倉メグという革命児

2023年、1月31日──、新時代を切り開くヒロインが誕生した。
その名も、下倉メグである。
その日、ゲーム『ブルーアーカイブ』にて彼女が実装された。このインターネット社会における無数の創作物のなかで、一人の美少女キャラクターが生まれることは有為転変を繰り返す宇宙の中で、星々が生まれまた消えていくことのように、今なお行われているありきたりな営みである。しかし、この下倉メグの誕生は、いわば無数に広がる宇宙の星々の中で、他の星の光を飲み込んでしまうほど燦然と輝く綺羅星の生誕と同義なのである。彼女の登場は超然的であり、歴史的であり、そして運命的なものなのである。二次元美少女という概念が産声を上げて以来、歴史は彼女というヒロインを待っていたのかもしれない。

ブルーアーカイブについて

 彼女が実装されたゲームの名は『ブルーアーカイブ』。このゲームの存在なしに彼女を語ることはできない。これは、登場するゲームがなければ彼女は存在し得ないという話ではなく、この『ブルーアーカイブ』の世界観がなければ、決して彼女が生まれることはなかったということだ。
 『ブルーアーカイブ』は、公式PR文では「透き通る世界観で送る学園RPG」と紹介される。この文言通り、細い主線、淡い色調によって醸しだされる透明度の高いグラフィックが印象的なゲームだ。このゲームの大まかなあらすじは、プレイヤーである「先生」が、学園都市に在籍する生徒との交流を通じて学園都市キヴォトスでの問題を解決していく物語である。
 学園都市を舞台にしたシナリオは、単なる学園モノに留まらず、先端科学都市に眠るロストテクノロジーを題材にした重厚なSF作品としての面影を覗かせる。また、プレイヤーは「先生」としてゲーム内で行動していくことになるのだが、時折「ソーシャルゲーマー」であるプレイヤー自身を、「先生」を通してメタ的に言及する"第四の壁"を超えたシナリオもプレイヤーをより『ブルーアーカイブ』の世界へ引き込む。
 ブルーアーカイブの魅力は語り尽くせないが、ともかく、本稿のメインテーマである下倉メグも、このような世界観の中で「先生」と交流する生徒の一人だ。

温泉開発部

 学園都市キヴォトスには、様々な学園が分立しており、またその中で部活動や委員会という形で生徒がさらに分類されている。特筆すべきは、キヴォトスにおける部活動は、現実の学校の部活動に比べてより独立したものとして存在しているという点だ。委員会や部活動ごとに制服が異なっていたり、部活同士での対立関係や協調関係も見られたりするのだ。各々の部活のもつ"戦力"の差によって、部活動のヒエラルキーのようなものも存在し、『ブルーアーカイブ』の世界では生徒がどの部活動ないしは委員会に属するかということは大きな意味を持つ。
 その中で、下倉メグは温泉開発部という部活の副部長である。部の実態としては、その名の通り温泉を開発していくことで、キヴォトス内で源泉を探し、それを見つけてはそこに温泉を開発していくという活動を行っている。温泉地の採掘からリゾート建設まで一手に引き受ける温泉開発部は、相当な規模を持った組織であり、シナリオ内でもその技術力を活かした活躍をみせる。
 これだけの規模の組織の副部長である彼女のカリスマ性はさることながら、本稿で重要になるのは、彼女の単身での技術力である。なんと、彼女はたった一人であっても、数時間で源泉を掘り当て、温泉を作ってしまえるというのである。本編では快活な性格で、一見脳天気にも見えるように描かれるものの、他方では温泉開発を通じてより幸せな生活を提供したいというひたむきな思いや、温泉に関する知識を豊富に蓄えていることが描かれる。彼女の技術力とは、彼女の思いや努力の結晶であり、また彼女の魅力そのものなのである。

なぜ革命的ヒロインなのか(一部ネタバレあり)

 では、なぜこの下倉メグは革命的なヒロインなのだろうか。それは、いままで数多のヒロインが繰り返してきた"お風呂イベント"にコペルニクス的転回をもたらしたからである。
 お風呂イベント、代表的なのは『ドラえもん』におけるしずかちゃんの入浴シーンに遭遇してしまうのび太くんだろうか。イベントの多くは、ヒロインの入浴場面に遭遇するか、あるいはヒロインが入浴場面に訪れるという場合だろう。恋人関係であれば共に入浴するということもあるだろうが。
 しかし、下倉メグはそのようなある種の陳腐なテーマの繰り返しから脱却してみせた。(以下メモリアルロビーのネタバレを含むので注意)
 彼女はメモリアルロビー(ゲーム内の生徒個人に焦点を置いたストーリー)にて、「先生」の使用するシャワーの給湯器の故障を知ったあと、「先生」の職場近くの小山に来るようメッセージを送る。そして、「先生」がメッセージの場所に向かうと、そこには温泉を新たに作ったメグが待っていたのだ。そして、「先生」と共に入浴することを提案する。
 つまり、風呂という固定化された場所において、ヒロインとの遭遇・被遭遇をするという従来のお風呂イベントの枠組みを破壊し、ヒロイン自らが風呂という枠組みをこさえてこちらにやってくるのである。
 
これを革命と言わずしてなんと言うのだろうか。「ヒロインと風呂で出会うからお風呂イベント」などという従来の陳腐な価値観をことごく破壊し、下倉メグは「ヒロイン自ら風呂を持ってくるからお風呂イベント」という新たな世界観を打ち立てたのだ。
 風呂で鉢合わせるなんてぬるいのだ(温泉だけに)。これからのヒロインは風呂そのものもを主人公にぶつけてくるのだ。お風呂が出会った場所なのではない。出会った場所がお風呂になるのである。
 
これは二次元ヒロインにおけるある種のパラダイムシフトが起きたと言えるだろう。これからお風呂シーンを論じるなら、必ず「メグ以前」と「メグ以降」で峻別されるであろうし、この下倉メグの誕生を皮切りにこれからさらに固定化された二次元ヒロインの枠組みが別の形で破壊されていくかもしれない。

 賢明な読者諸兄はついてこられるだろうか。この世界のスピードに。

おわりに

 そういうわけで、この二次元ヒロイン界の中での大きな分岐点とも言える歴史的イベントをいち早く伝えるために筆者は筆を執った。いまから『ブルーアーカイブ』をダウンロードすれば、下倉メグのピックアップガチャ期間中最大100連回せる(対象期間は終了しました2023/02/10)。この記事を読んだ読者の方々には歴史の当事者として、この時代の分岐点を刮目していただきたい。メモリアルロビーの下倉メグは、過酷覚悟がまるで噴き上がる間欠泉の如くほとばしるものとなっている。

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