【19】清酒醸造の微生物(1) -酵母⑥-
一度に読む(書く)文量を超えたので、記事を分割しています。
-酵母①-・-酵母②-・-酵母③-・-酵母④-で、日本醸造協会から頒布されている「きょうかい酵母」の清酒用酵母の紹介が一段落しましたが、「きょうかい酵母以外」にも広く使われている清酒用酵母があります。
-酵母⑤-できょうかい系以外の酵母をまとめるはずでしたが、公設機関による研究について47都道府県分を並べることにしたので、民間・大学による研究開発酵母と分割しました。そして47都道府県並べた結果、情報が膨大になってしまったので東西に分けています……。
今回は北海道から愛知県までの1都1道21県、次回三重県から沖縄県までの2府22県を記載して、酵母の話を一旦終えたいと思います。
北海道
47都道府県全てを並べてスタートしましたが、初っ端の北海道において、独自の清酒酵母は見当たりませんでした……(ワイン酵母の研究は北海道立総合研究機構にて行われていました)。
道総研における「乾燥酵母」の研究開発については、きょうかい酵母の方で紹介しております。
東北地方
青森県
青森県では、酵母は「青森県産業技術センター(弘前工業研究所)」の発酵食品開発部が担当しており、日本醸造協会との共同開発により、現在までに4種類の酵⺟が県内に配布され、2017年(平成29年)からは県外配布も⾏っています。
なお、先述の「弘前大学白神酵母」についても、産学官連携プロジェクトとして青森県産業技術センターが参画しています。
岩手県
GI岩手の際にも触れていますが、「オールいわて清酒」を表示する場合は、「米及び米こうじが岩手県内で収穫した米、麴菌及び酵母は岩手県内で育種された菌株で、別途、業務実施要領に定めるものを用いたもの」とあります。この米や微生物の品種の開発・管理を「岩手県工業技術センター」と「岩手県酒造組合」が行っています。
酵母については、岩手県が開発したオリジナル酵母「ジョバンニの調べ」「ゆうこの想い」を使用していることが条件です。
上記引用中にある「岩手2号酵母」は、正確には1993年(平成5年)から頒布されている吟醸酒用酵母「岩手吟醸2号」と思われます(なお「岩手2号」「岩手3号」という酵母が1960~1980年代頃に頒布されていたようです)。
岩手県工業技術センターが、この岩手吟醸2号を親株として、Wallerstein Nutrient(WLN)培地上で緑色の変化が遅い酸低生産株から選抜したところ、従来よりも吟醸香の生成が高く、酸の生成が低い2株の有望株が得られました(下記リンク先の「(3)食品加工・醸造系21 基盤的・先導的技術研究開発事業「優良清酒酵母の選抜」(食品醸造技術部 米倉 裕一)」がその研究報告になります)。
はっきりと結び付ける文言が見つかっていないのですが、酵母の特徴から、この試験で得られたNo.13株が「ジョバンニの調べ」、No.18株が「ゆうこの想い」になったと思われます。この個性的な酵母の名前については、第29回きき酒道岩手県大会の優勝者、準優勝者により、実際に新酵母で醸したお酒を飲んで、そこからイメージした名称をつけたそうです。
なお、「ゆうこの想い」の産みの親である、岩手県工業技術センター・醸造技術部(当時)の方が山口佑子さん(その後ご結婚されて現在の姓は「山下」)とのこと。……だから「ゆうこの想い」なんでしょうね。
宮城県
宮城県では1990年(平成2年)に「宮城県工業技術センター」において、先端技術科、基礎技術科、醸造科、食品加工科が置かれましたが、それまでは「宮城県酒造(協同)組合醸造試験所」が酵母の分離・保存等を行っていました(きょうかい12号酵母の紹介の際にも登場しています)。工業技術センターは1999年(平成11年)に「宮城県産業技術総合センター」に改編され、「食品バイオ技術部」が現在に至るまで醸造関連を担当しています。
なお、宮城県酒造組合には今では醸造試験所を置かず、技術担当の参事が1名所属しているのみとなっています。
同センターからは現在下記の4種類の酵母が頒布されています。
1.宮城マイ酵母(2000年~;泡なし株2004年~)
きょうかい12号酵母の原株である「(初代)宮城酵母」を親株とした純⽶酒製造⽤酵⺟。初代宮城酵母の中から高アルコール濃度下での生存性を指標に自然変異株を選抜したもの。後にfroth flotation法により泡なし株を取得。
2.みやぎ酵母・愛実(2001年~)
特殊な設備を要せずに発酵停止型の低アルコール濃度純米酒を小規模の製造場でも安定的に製造したいという県酒造業界の要望に応えるため、ビシナルジケトン類(ダイアセチルを含む)の前駆物質αヒドロキシ酸類の低蓄積性酵母を宮城県と宮城県酒造組合が共同で開発した、低アルコール濃度清酒⽤酵⺟。きょうかい7号酵母を親株とし、EMS(エチルメタンスルホン酸)による化学変異株より、分岐鎖アミノ酸アナログに対する感受性を指標として選抜した。
3.吟醸用宮城酵母(1999年~)
宮城県酒造組合醸造試験所が1994年(平成6年)までに分離・収集した酵母の中から選抜した酵母。1999年より頒布開始。
4.宮城酵⺟・ほの馥(2010年~)
吟醸⽤宮城酵⺟からEMSによる化学変異株よりセルレニン耐性を指標として選抜した吟醸酒製造⽤酵⺟。2010年に3種の吟醸酒用酵母(宮城MY-4008、同4017、同4021)を開発していますが、たぶんMY-4021酵母だと思います(執筆時点で特定できる文章みつけられず)。
秋田県
秋田県は1927年(昭和2年)10月に「秋田県工業試験場醸造部」が創設され、1931年(昭和6年)5月に「秋田県醸造試験場」として独立しました(きょうかい1501号の分離時点でもこの名称です)。その後、改組・改称が行われ、2010年(平成22年)4月に現在の「秋田県総合食品研究センター」となっています。
その間に秋田県では、新政酒造由来の「きょうかい6号酵母」(1930年)、醸造試験場で開発した「きょうかい1501号酵母」(1991年)と、2つのきょうかい酵母が生まれていますが、それ以外にも多くの酵母を開発しています。
以下に秋田県酒造協同組合が掲載している秋田県酵母を載せますが、数が多いので個々の紹介は省略します。
山形県
山形県でも「山形県工業技術センター」が数々の醸造支援を行っており、県独自の酒米の開発の他、酵母の研究開発も行われています。
上記引用中にあるように、鑑評会の成績向上を目的として、県外の優秀な酵母から自県の特徴にあったものとして熊本1号酵母をターゲットとし、そこから選抜・分離して得られた酵母として「山形KA酵母」が開発されました。その後も酵母開発が続々と行われており、上記の他、山形KA酵母を改良した「山形NF-KA酵母」「YK009酵母」など、現在10種以上の清酒用酵母が頒布されているとのことです。
福島県
福島県では「福島県ハイテクプラザ」の会津若松技術支援センターに醸造・食品科が置かれています。福島県の全国新酒鑑評会の成績向上に尽力した鈴木賢二氏はこちらで副所長を務めていました(現在は退官し福島県酒造組合の特別顧問)。
福島県も山形県同様に昭和の終わりごろには全国新酒鑑評会の成績が低迷しており、1988年(昭和63年)から4年間にわたり、国と県から大型予算を受け、酒造工程の近代化についての研究プロジェクトが立ち上げられました。その中のテーマの一つに、福島県オリジナル酵母の開発があり、1991年(平成3年)に「F7-01酵母」が完成しました。この酵母は特有のフルーティーな香り(バナナ・メロン系=酢酸イソアミル系)、華やかで酸味の少ないソフトでマイルドな味わいを造り出すのが特徴で、福島県知事によって「うつくしま夢酵母」と名付けられました。その後、県内酒造メーカーおよび酒造組合から「清酒鑑評会用の出品酒などにも使用できる香りの高い吟醸用酵母が欲しい」という要望を受け、2003年(平成15年)から新たな酵母の開発に取り組み、2008年(平成20年)にイチゴ・リンゴ系=カプロン酸エチル系の3種の酵母が開発されました。C10(701-g3)・G30(901-A113)・R50(701-15)の3株がありますが、これらは「うつくしま煌酵母」と命名されています。
煌酵母は、酸が高いという特徴があるのですが、これを純米で使用するとバランスを欠くことがあったため、2016年(平成28年)には低酸化と香味バランスが改良された株が開発されています。
県酵母9種について全ゲノム解析を実施した、という記載が令和元年度の清酒酵母・麴研究会講演要旨集にありましたので、夢酵母、煌酵母含めて9種は確実にあると思われます。
関東地方
茨城県
茨城県の酵母というと、「きょうかい10号酵母」こと「明利小川酵母」と、先にも紹介した明利酒類の「M310酵母」があまりにもメジャーすぎるのですが、茨城県の清酒の付加価値を高めるために、茨城県工業技術センターが1995年(平成7年)度より清酒酵母の開発に着手、きょうかい9号系酵母を親株として、1999年(平成11年)に「YS44」株が開発されました(公募によって「ひたち酵母」の愛称が付けられました)。実地製造試験を繰り返しながら酵母の改良も行われているので、配布されている新しい「ひたち酵母」はYS44株の元の性質からは変化していると思われます。
引用した文献中にもありますが、茨城県が初めて開発した酒造好適米「ひたち錦」と共に開発が行われ、2003年(平成15年)に「ひたち錦」と「ひたち酵母」を用いた純茨城の酒「ピュア茨城」が誕生しています。
栃木県
栃木県では、1990年代にカプロン酸エチル高生産酵母の開発を目指した研究を開始したことが記録(「栃木県食品工業指導所研究報告」)からわかりましたが、国会図書館のライブラリで閲覧できる範囲と、現在webで公開されている報告書の間に10年ほど間隔が空いており、その間の経過がGoogle scholar検索でも引っ張れませんでした。
確認できた資料からはT-デルタ、T-1、T-S、T-Fの4種が存在しており、他で出てくるT-ND(ニュー・デルタ)はデルタからの派生と思われるのですが……。そして名前以外の特徴もハッキリ示された資料を見つけられていません……。情報が入りましたら追記したいと思います。
群馬県
群馬県においては、群馬県産業技術センターが、カプロン酸エチル高生産株である「群馬KAZE酵母」、酢酸イソアミル高生産株である「群馬G2酵母」、そして後述します「群馬227酵母」を現在頒布している、と日本醸造協会誌の2023年12月号にちょうど記載がありました。
「群馬KAZE酵母」は2001年(平成13年)、「群馬G2酵母」は1994年(平成6年)の「群馬県工業試験場研究報告」にて報告されているようですが、それらの文献はWEB上で閲覧ができませんでした。
他県同様に、群馬県のオリジナル米とオリジナル酵母で醸した「オール群馬県産」の日本酒の開発も行われています。
他県と大きく異なる点として、酵母の開発においてイオンビーム微生物育種で開発された「群馬227酵母」の存在です。
「サイクロトロンなど」の記載があるように、何処でもできる育種法ではないので、高崎量子応用研究所(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構)との共同研究として、高崎量子応用研究所イオン照射研究施設(TIARA)にて行われています。
「群馬227酵母」は吟醸酒に使用する香気成分高生産株の取得を主目的として、きょうかい901号酵母を主な親株としてイオンビーム微生物育種により開発されました。カプロン酸エチル生産量は親株および対照のKAZE酵母(2号)より多いものの、発酵力は劣ると上記文献にありました。
なお、地理的表示「利根沼田」では、群馬KAZE酵母、群馬G2酵母および蔵付きの酵母の使用が求められていますが、群馬227酵母は何で除外されたのでしょうかね…。
埼玉県
埼玉県においても2000年代から酵母の採取・分離・選抜を開始していたことが確認できておりまして、埼玉県産業技術総合センター研究報告では2003年(平成15年)以降の研究報告がWEBで閲覧可能でした。
報告書を順に追っていくと、2008年(平成20年)に新たに得られた酵母を「埼玉E酵母」「埼玉F酵母」としています。2009年(平成21年)にはさらに「埼玉YY酵母」「埼玉MR酵母」、2011年(平成23年)に「埼玉G酵母」「埼玉H酵母」が加わっています。
公開されている2021年度(令和3年度)までの報告書から確認出来た範囲では、A, A01, BK2, C, D, E, F, G, H, YY, MRの11種があるようですが、A, A01, BK2, C, Dの5株については2003年以前に確立したものと見られ、どこから来た酵母なのか、またそれぞれの違いについてはわかりませんでした。またG, Hの2株については上記報告書に命名の記載がありません(引用からは2011年の試験で得られた株がその後にG酵母、H酵母になったと考えられますが……)。
吟醸用としては古くは埼玉C酵母、その後埼玉E酵母と埼玉G酵母が用いられているようですが、埼玉G酵母は発酵力が弱いため、それを補うためにE酵母との併用などの試験検討がなされていました。
千葉県
検索して出てくる情報が東北や北関東などの各県と比べて格段に少ないのですが、1996年(平成8年)に千葉県オリジナル酵母として「手児奈の夢」が開発されています。地産地消をもじった“千産千消”の取組の1つであったようです(名前は千葉県市川市の伝説に由来しているそうです)。
開発した千葉県工業試験場は現在は千葉県産業支援技術研究所に統合されており、2003年(平成15年)以前の研究ライブラリーはweb上で公開されていないため、由来や特徴はハッキリわかりませんでした。現在でも「東薫 ふさこがね 特別純米酒」に使用されており、香りは穏やかでやや辛口のお酒とのことなので、吟醸香を出すタイプの酵母ではなさそうです。
2017年(平成29年)には、君津市名産のカラーの花から分離した「カラー酵母」を使ったオール君津産の日本酒「青葉の風」が完成した、というリリースがあります。ただし、酵母の分離に関しては、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)が、君津市の地方創生事業への技術協力として行ったもののようで、千葉県産業支援技術研究所は製品化の方で協力していたもようです。
東京都
検索上位にらしき情報が浮かんでこないので、清酒酵母の研究は自治体等公設機関では行われていない模様です。
東京大学や東京農業大学など、醸造微生物を扱う大学が他地方より圧倒的に多いですし、かつては国(醸造試験場)も東京でした。そして都の産業として清酒醸造がどこまで重視されているか……?
東京酵母、江戸酵母という言い方で「Saccharomyces tokyo」や「Saccharomyces yedo」を示している蔵もありますが、この2種については、100年以上前の1908年に中沢亮治が、「E. Itschikawa氏によりミユンヘンの醸造試験所に贈られた」出自不明の清酒酵母の保存液から単離して命名されたもので、地理的特性として東京にゆかりがあるものではないと考えられます。
神奈川県
普通に検索しても情報が出てきませんでした……。
民間では上述のS. tokyoを用いた清酒造りをしている中沢酒造が、河津桜から単離した酵母を使用した清酒も販売しているようです。
中部地方
新潟県
新潟県には「新潟県醸造試験場」がありますが、1930年(昭和5年)に創立され、都道府県の研究機関としては唯一の日本酒専門の試験場です。
WEB検索で確認できたのが「新潟S9酵母」「新潟G8酵母」「新潟G9酵母」「新潟G74酵母」の4種と、その泡なし変異株や尿素非生産性株でして、これらが新潟県醸造試験場が開発した酵母なのですが、その経緯を示しているであろう「新潟県醸造試験場報告」がWEBでは閲覧できないため、それ以上の調査ができていません……(泡なし化・尿素非生産性化の文献は閲覧できましたが、親株の由来がわかりませんでした)。
新潟県では、2017年に新潟大学、新潟県酒造組合及び新潟県が連携協定を締結し、2018年には「新潟大学日本酒学センター」が設置されました。
その取り組みの中で、新潟酵母からの育種酵母を用いた試験醸造も行い、2022年1月にその試験醸造酒の官能評価を実施したと紹介されているので、結果を受けて今後新たな酵母として確立するかもしれません。
富山県
富山県では、富山県農林水産総合技術センターが、県や地域のイメージにマッチした清酒の開発を目的として、2000年代初めから酒造に適した酵母を県内各地から採取し、その酵母を使って香味に優れた清酒等の製品化を進めています。
自然環境中からの採取で、花から酵母を得る(砺波市のチューリップ公園から採った「チューリップ酵母」、立山国立公園弥陀ヶ原高原の高山植物から採った「高山植物酵母」、南砺市の井口椿公園から採った「椿酵母」、中央植物園の二上桜(富山県固有種)の花から採った「二上桜酵母」、魚津のリンゴの花から採った「リンゴ酵母」)のは他所でも行われていますが、滑川市の海洋深層水分水施設アクアポケットで海洋深層水から得た「海洋深層水酵母」、利賀のイワナから得た「イワナ酵母」、氷見産の寒ブリの皮から抽出された「寒ブリ酵母」も実用化しています。水環境から得られた酵母がどこまでその採取源に由来するのか、初めに聞いた時には半信半疑ではありましたが、県内の環境中に居た酵母ということは間違いないので……。
石川県
「金沢酵母」から「きょうかい14号酵母」となった経緯のある石川県ですが、経緯としては「金沢酵母」は北陸酒造技術研究会と金沢国税局によるものであり、石川県としては別の扱いになりそうです。
石川県工業試験場のWEBサイトに「技術ニュース」が掲載されていましたので、それを当たっていくと、1998年度より「石川ブランド清酒開発プロジェクト」が工業試験場の他、石川県農業短期大学、石川県農業総合研究センター、石川県酒造組合連合会の共同研究として発足されています。
2006年度には「酸味に特徴を有する酵母」を開発しており、2014年には、石川県酒造組合連合会に加盟する酒造メーカー14社が立ち上げた「いしかわ花酵母開発プロジェクト」により、県産天然酵母の分離を試みて、兼六園の八重桜、金沢城のソメイヨシノ、白山高山植物園のハクサンフウロから清酒酵母を取得し、その中でも兼六園の八重桜から得た「兼六園桜酵母」が採用されました。
この「兼六園桜酵母」をベースに香気成分高生産能等を付与すべく育種開発した酵母群(名称としては同じ)を用いて、清酒やビール醸造が行われているようです。
福井県
福井県でも、金沢酵母が「きょうかい14号酵母」として頒布されるようになった以後、県オリジナルの酵母を求める声に応じ、清酒用酵母の育種を行っています。
福井県食品加工研究所の2000年(平成12年)の報告書では、まず福井県内8酒造場の23本の醪から酵母の分離を行い、香気成分高生産性株の選抜としてFK-1、FK-2、FK-3の3株を得ています。
次にこれらの試験醸造から得た意見を基に低温発酵性改良株の選抜を行い、FK-2由来の「FK-214a」、FK-3由来の「FK-3a」の2株と、FK-3aの泡なし変異株「FK-301」が開発されました。
このFK-301株は、福井県酒造組合連合会により「うららの酵母(ふくいうらら酵母)」と命名され、1999年(平成11年)よりこの酵母を使用した清酒が商品化されています。柔らかな口当たりとまろやかな味が特長で、様々なタイプの清酒に幅広く使用できると説明されています。
その他、リンゴ酸を多く生成する多酸性清酒酵母「FN-7」(2002年度;FK-301変異株)、純米酒用「FK-4」(2006年度)、吟醸酒用「FK-501」(2008年度;きょうかい14号酵母由来)、燗酒用清酒向けの「FK-6」(2008年度)、カプロン酸エチル高生産性酵母「FK-801C」(2015年度;FK-501変異株)とその発酵力改善株「FK-802」(2019年度)が開発されており、福井県産の酒米「さかほまれ」とともに「ふくい酵母」としてFK-801C、FK-802が紹介されています。
山梨県
山梨県工業技術センターでは、「地域特性を有する県産清酒の開発」というテーマから新規酵母の探索を2004年(平成15年)度より行い、山梨県特産の花や果物から酵母を採取して「富士桜酵母」および「桃の実酵母」が得られています(2013年(平成24年)には「泡なし富士桜酵母FJA025株」と「泡なし桃の実酵母MMB043株」を取得しています)。
また近年では「県産日本酒の競争力向上のための新規日本酒酵母に関する研究」ということで、新たに山梨県内からの酵母の分離と重イオンビーム照射による変異株の取得という研究が独立行政法人理化学研究所および山梨大との共同研究で行われているようです。
長野県
長野県工業技術総合センターで開発された清酒酵母が「長野酵母」です。現在、長野酵母C、長野酵母D、長野酵母Rの3種類が頒布されています。
こちらに記載のある、吟醸酵母として有名な「アルプス酵母」の経緯はこちらに記載されております。
長野酵母Cの育種が行われたのは1989年(平成元年)ですが、「アルプス酵母」の名称がついたのは、1991年(平成3年)から開始された、長野オリンピックに向けて「信州の酒」をPRする取組の中で、「酵母の商標権を持つ日東製粉株式会社から、商標使用についてご理解をいただき、使用許諾を得た」との記載がありました(現在は商標検索しても出てこない…?)。
「低アルコールでも吟醸香が高くフルーティですっきりした味わいの清酒」というその酒質設計において、重要な役割を果たした酵母です。
コンテストで席巻したという記載もありましたので、その頃の全国新酒鑑評会のデータを見たのですが、長野県が一躍トップに躍り出た…というわけでもなさそうです。こちらは時間があるときにきちんと集計します。
岐阜県
岐阜県では岐阜県食品科学研究所が、1997年(平成9年)頃にオリジナル清酒酵母「G酵母(G1酵母)」、その後2002年(平成14年)に「多酸系G酵母(TG酵母)」、2010年(平成22年)に「泡なしG酵母(NFG酵母)」、そして2018年(平成30年)に「NFG酵母」を親株としたセルレニン耐性株を選抜し、カプロン酸エチルを3倍以上の濃度に高められる新酵母「G2酵母」を開発しています。この4株について、岐阜県内食品企業への頒布を受付しています。
各地で同様に高エステル生産酵母は開発されていますが、香りを出しつつ辛口に仕上げることができる酵母というのはあまりありません。
また岐阜県食品科学研究所では、岐阜大学とも共同研究を行っており、【17】-酵母⑤-で紹介した「岐阜大酵母(岐阜大酒プロジェクト)」にも携わっています。
静岡県
地方名を冠した酵母としてはメジャーな「静岡酵母」ですが、静岡県工業試験場(現・静岡県工業技術研究所)により研究・開発が行われました。
静岡県の清酒酵母の開発については、以下の文章にまとめられていたので引用します。
先の酒造組合サイトの記載にある、静岡県が大躍進をした際に用いられた酵母が「New-5」だそうです。実用化されている静岡酵母については、WEBで確認できた過去の静岡県酒造組合WEBサイト(現在のトップページからはアクセスできないようです)にて以下の記載がありました。
SY-103はSY-1の泡なし株、NO-2は酸低生成株、CA-50と5MT-1はHD-1からの派生株とのことです。
地理的表示「静岡」の要件に「発酵に用いる酵母は、静岡酵母とする」というのがありますので、これらの酵母の使用が必須となります。
ただし、静岡酵母とは管理機関である静岡県酒造協同組合と共同開発した醸造用酵母をいう、と記載されていますので、認定にはもう少し幅があるのかもしれません。
HD-1酵母とその開発者である河村伝兵衛について、新聞記事になっていましたので、こちらに紹介しておきます。
また近年は、過去に静岡酵母を開発する際に、開発コンセプトの相違から選抜漏れした株や、新たに県内の自然環境から分離した酵母について、清酒醸造に活用できる可能性のある酵母を「しずおか有用微生物ライブラリー」として公開しています。「河津桜酵母(KA2541)」もその1つです。
愛知県
愛知県では、愛知県酵母 (FIA: Food Institude of Aichi)として1991年(平成3年)に「FIA1」及び「FIA2」が育種開発され、その2株を親株として得られた株を加えた、8種類の愛知県酵母が現在頒布されています。
また、愛知県の地域産業資源から分離した花酵母の製品化事例として、以下のものがあります。
同報文では、これに加えて、岡崎市花である「岡崎公園の五万石ふじ」から分離した有用酵母と復刻米「萬歲」とを組み合わせた岡崎ブランド清酒の開発の紹介もありました。
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16,000字超えとなりましたが、正直だいぶ割愛したところもありますし、まだ情報を得られていないところもありますので、調査が進んで情報が増えれば追記していきたいと思います。
県レベルの報告書だと、WEBアクセスが難しいのが多いですね。
西日本編(-酵母⑦-)に続きます。